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いい店の見つけ方(ミーツへの道/江弘毅)

京阪神エルマガジン社発行の情報誌『Meets』の編集長を努めた江氏による、Meetsの歴史を綴った本。
出版が斜陽産業と呼ばれて久しい現在しか知らない私にとって、バブルの空気で満ちた時代はとても新鮮に写り、うらやましかった。
潤沢な取材費で夜な夜な飲み歩き、タイトルのロゴデザインを発注するためだけにイギリス出張へ行ったり、創刊キャンペーンに莫大な資金を投入したり。売れなくても会社が致命傷を負うことなんてなくて、実験的な企画も恐れずに投入できたであろう時代。
叶うならあの頃の編集者として、少しの間でも生きてみたいと思う。

Meetsの歴史を紐解けば、情報誌全体の変遷が自ずと明らかになる。
1990年にMeets創刊、その後にHanakoが登場し、そして1994年にはウォーカーが参入する。
江氏はウォーカーを「まるでコンビニエンスストアな誌面のつくり方」と揶揄し、これが情報誌の世界を損なったと主張する。「情報誌にはおいしい店やカッコいい服やいい音楽が載っているとは限らない」と一般読者=消費者に刷り込んでしまった罪は重いのではないか、と。

酒もバーも街もミナミも、男も女も仕事も遊びも、みーんなおんなじである。生きててよかったと、いつも心から感じさせてくれるのは、おいしいや高いや安いやスタイルやなんやかんやではなくて、そのキャラクターの存在を知ったり触れたり味わったりした時だ。

いい店にはキャラクターがあるが、キャラクターは1回の取材でわかるものではない。だから編集者は自分の足で店を探してリアルを知り、マスターと信頼関係を築いたうえで取材に行くべきだ、というのが江氏の編集論だ。

ここに載ってる店なら間違いないよね、と言われる媒体は確かに理想的である。しかし現実は、雑誌に限らずテレビやインターネットも玉石混合で、その傾向は年々強まっている。
なぜか?理由は簡単で、厳選された情報は勝てないからだ。
本当にいい店だけを10件載せたサイトよりも、それに「そこそこいい店」を加えた20件を載せたサイトの方がアクセス数を稼げる。カレー特集号の表紙には「50件」より「100件」と書いた方が売れる。
情報に関しては誰もが量より質を求めているはずなのに、量が少なければ手に取ってももらえない矛盾が生じているのはいかにも不思議なことだと思う。

では、本当にいい店はどうやって見つけたらいいのか?
信頼できる媒体(その多くは、あまり稼げていないはずだ)或いは信頼できる身近な人を見つけて聞くのはもちろん手っ取り早いが、加えておすすめしたい方法が一つある。
それは「いい店の店主に他のいい店を聞く」、これを繰り返すことだ。
いい店の店主ならば、必ず答えをもっている。

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