No.15 苦痛と悲哀と甘美の想い

大学生の頃、美しさについて勉強していた夏がある。ノスタルジアという言葉を耳にするといつも、私は「美学」という講義を思い出す。

美学の巨匠である教授曰く、Nostalgiaとは17世紀においては病気と見做されるものであったという。

ギリシャ語のNests(故郷への帰還)とAlgos(痛み、悲しみ)の合成語であるNostalgia(独語)。
それは「帰郷痛」と訳され、芥川の短編でも綴られた。

ノスタルジアとは、現実の苦痛を前提とした想像上の甘美さ。
ノスタルジアとは、決して過去には戻れない悲しみと痛み。
ノスタルジアとは、眼前の対象に過去の対象を重ねてしまう喪失感。
ノスタルジアとは、夕暮れ時にヴァニラの香りを吸うような満喫感。

その苦痛と悲哀と甘美の想いに、胸が痛くなる美しさ。


#随筆 #大学 #美学 #夏

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