No.12 心の港

随筆『心の港』2019年3月頃

パリに行って私がしたこと。

それは日常そのまま。街の音に耳を澄ませ、街角の風に身を寄せて、手元で新しい言葉、新しい物語を紡ぎ続ける。贅沢な過ごし方だねと言う。それでもパリを背にした日常の営みは、私の手を経由し、私の内部から初めて出会う彩りの数々を引き出していった。その言葉と物語を宝箱のように持ち帰り、情熱に滾るこの胸が復路の空からパリを慕ぶ。

ノートルダム大聖堂。ある日この下に座り込み、夙夜ペンを走らせた。中に入ることは無く夜は更けてしまった。大聖堂は伝えようとしていた。思い溢れて堪らないとき、またこの聖堂を訪れるべきだと。

窓から見え無くなっていく光の都市。パリはこの先ずっと、並んで駆ける二兎の様に自分を助けてくれる場所だろう。

ノートルダム大聖堂。また来る場所だと確信した。その頃私は何者となり、聳えるこの聖堂に次は何を問いかけるのか。ここは人生における心の港。パリは静かに待ち続ける。

#エッセイ #随筆 #パリ #旅

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?