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Review#5:Letters from Juan vol.1 (Juan Tamariz)

忙しい人向けまとめ(AIによる)
Juan Tamarizから新作手品ノートシリーズ『Letters from Juan vol.1』が発表された。内容は40ページほどで、スペードのエースをシャベルに見立てる手品「The Shovel」、カラーチェンジングナイフの手順「The Rainbow Knife」、オイルアンドウォーターの作品「Pure Olive Oil and Water」など。解説の温度感の濃淡があるものの、作品によっては技法や名前も詳しく解説されている。

Notion AIによって要約

スペインの生きる伝説、Juan Tamariz。2023年時点で、御年80歳のマエストロ。そのTamarizが、ここにきて新作 “Letters from Juan”を発表する、という驚きの展開にざわつきました(主に私が。)
Flamenco、という本が未だに発売されていない中、先にこのシリーズが公開されることになったようです。(Flamencoについては過去のポストを参照)

Tamarizの自宅にある鍵付きキャビネットにしまってある彼の手品ノートから秘蔵作品を抜粋、公開していく、ということで、販売元のPenguin Magic曰く、今後複数巻で発売されるようです。というか今回のvol.1のあとがきでTamarizが「次はギャンプリングルーティンとか紹介するよ!」と言っているので、順当にいけば続編が出ます。vol.1で終わるエターナルのようにはならないと信じたい。
なお、スペイン語から英語への翻訳は、Tamariz専属翻訳人といっても過言ではない、Rafael Benatarによるもの。高齢コンビであることが地味に心配です。

冊子は約40ページほどの小冊子ですが、表紙がマットでカッコよく、いい感じに所有欲を満たしてくれるものに出来上がっています。
内容面について。Tamarizの作品が公開される、というだけで手放しでまず喜ばしい。一方、作品によって解説の温度感の濃淡がエグく、あっさりとこってりで分かれています。こってり側は考察や技法を選んだ意図などがしっかり書かれているので、その点は読み応えがあります。加えて、Fraksonなどの往年のレジェンドの名前もかなり出てくるので、そういうのが好きな人には刺さるかと。

ベアニキ(Denis Behr)データベースのリンクはこちらです。
あと、名だたるマジシャンたちが賛辞の声を寄せてます(動画)

それでは、作品紹介!

The Shovel

スペードのエースをシャベルに見立てた手品。客の選んだカードに加え、その他適当なカード6枚を追加し全7枚を裏返してテーブルに置く。客が1~7で好きな数字を言って、その位置にあるカードをシャベルで表返すとまさに客が選んだカード。
Tamarizっぽいハンドリング(彼が好きなテクニックを使用)での解決。特段、細かいTips等の記載がないのがもったいない。超あっさり系。ぶっちゃけThe Shovelが最初のトリックなのはイマイチ意図がつかめない。あんまりよいトリックではない気が…。

COLOR SEPARATION FINALE

Mnemonicaを使った演技のエンディングのアイデア。名前の通り、きれいに赤と黒が分かれます。赤と黒の分け方が、最後ちょっと変な感じで分かれるのですが、それを演出で正当化しているところは興味深かった。演出もスペイン的なずるさもあって、面白いですね。ただ、普通なら、もうワンカットして、完全にキレイに分けたくなっちゃうと思うんよ、それをせずにこういう形でまとめたのがTamarizっぽくて良き(読んだ人はわかるはず)。これもあっさり。

The Rainbow Knife

スタンドアップで行うカラーチェンジングナイフの手順。ナイフの色変わりの前段で、カード当てが入ります。セリフや演出まで詳細な解説があり、細かい技法の解説も充実したこってり系です。解説も14ページ割いていますし。(The Shovelとか4ページだけなので)スタンドアップなので、足の位置を含めた姿勢にまで言及した、気合の入った解説です。
ナイフのセットアップがやや特殊で、私が持っていたJoe Mogar製のセットだと演じられませんでした。レインボー柄の持ってたのになぁ、残念です。
カラーチェンジングナイフは正直全然詳しくないのですが、かなりテクニカルな技法を使っていて驚きました。(これまで読んだのTamarizのSonataくらいなので。)ナイフという素材の物理的な特性(細長い、重い、金属製)により、コインやカードとはまた違った技法が発展していたのだな、ということを改めて思い知りました。Ascanioのナイフ本も読みたい、というモチベーションが上がりました。もちろん積んでます。
前述の通りセリフが書いてあるんですが、本当にTamarizこのセリフ通りに話してるんですかね?あのキャラからしてこんな詩的なセリフをしゃべってるとは思えないのですが…wそういう意味で最も実演を見たい作品でした。

Pure Olive Oil and Water

Tamarizは50以上のオイルアンドウォーターを作っているそうですが、その中でも相当好きな部類に入る作品とのこと。赤4枚、黒4枚の計8枚(エキストラなし、全レギュラー)で、色を交互に並べ状態ではしご状に縦方向にディスプレイした後、ビジュアルに色が変化します。
Tamarizって、このはしご状のディスプレイ、結構好きなイメージがあります(Flamenco収録予定の作品でもこの見せ方してたし)。見るからに怪しいディスプレイではあるのですが、そのかわりに手をかざすとビジュアルに色が変化していく、という長所を得ています。ディスプレイの怪しさは短所であるものの、実は表裏かなりフェアに見せられるんですよね。なので採用されてるのかな。
なお難易度。全体として手順をなぞることはできるものの、レギュラーでノーエキストラのオイルアンドウォーター、という時点でお察しの通り、それなりにカードの扱いがセンシティブなところがあり、練習を要するものです。あと、乾燥肌の人は少し厳しそう。(乾燥肌の方向けのハンドリングもちゃんと解説されていますが)
解説の中で、オイルアンドウォーターというプロットについて考察していて、そこがなかなか面白いです。あと唐突にこのマジックだけオイルアンドウォーターの歴史についての記載があります。まぁ、それだけオイルアンドウォーターというプロットが好きなんだろな、彼は。

雑感

Tamarizの名作と言われるものは、Neither Blind nor SillyやTotal Coincidenceなど、テクニック的には負荷が少なめのものが多いため忘れてしまっていましたが、普通にテクニカルなことを実は裏でやる人ということを思い出しました(笑)Tamarizの作品にふれるのがはじめて、という方向けの冊子ではないですね。ある程度触れた人向けのご褒美品な気がします。(Mnemonicaとか知ってること前提ですしね)

そういえば、Penguin Magicから販売されているものは英語版なのですが、もちろんスペイン語版もあるようなので、スペイン語がよい方はぜひチャレンジを。


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