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第四章:さらに長期で起こるトレンド(米国)

前回の第三章では、顧客の動きをシミュレートし、将来の顧客行動の予測に活用されることが見込まれる顧客のデジタルツインやデジタルヒューマン等の技術、また今後の約20年にかけての展望をご紹介しました。

今回は、より営業領域に焦点を当て、営業プロセス、オペレーションの自動化を含むトレンドと具体例をご紹介します。今回の章で第三章の技術的なトレンドと営業領域との結びつきを強め、より明瞭な理解の促進をサポートします。

セールスハイパーオートメーション

ハイパーオートメーションは、自動化できる領域を単純な日常の定型業務からさらに発展させ、AI を活用しビジネスプロセス自体に人間レベルの知能を入れ込むことで、オペレーションを自動化していくことです。

Gartner社の調査では、営業のハイパーオートメーションが現場に浸透していくまで、以下の図で示されるタイムラインに沿って変化していくと予測されています。

ハイパーオートメーションのイメージ図『The Top 10 Strategic Technology Trends for 2020』より Magic Moment 作成

このハイパーオートメーションは営業領域において、以下に示されるようなステップで進められます。

  • ①シンプルな定型業務の自動化

    • 個人が実行する必要のあるタスクの中で、複雑さが最小限に抑えられたシンプルな部分のみを自動化する

例)ウェビナー実施後の御礼メールの一斉送信など、人がボタンを押すことで事前に組んでいたプログラムが実行される。返信が帰ってきたら、人が手動で対応する。

  • ②複数の部署に跨る営業プロセスを設計し、効率化・自動化

    • 今日の市場で見られる定型業務の自動化技術(RPA やノーコードなど)を活用しながら、営業プロセスに自動化を実装することで、個人だけでなく組織的な業務効率化を進める

例)顧客アプローチを開始してから返信がくるまで「電話」「電話」「電話」「電子メール」「電子メール」などの一定のルールベースにおいて一連の連絡が送られるように自動化を活用する。返信が帰ってきたら、人が手動で対応する。

  • ③AI が営業オペレーションを管理する

    • 各顧客特有のデータから何が起こっているのかを解釈し、組織的に蓄積されたデータと照らし合わせることで必要なタスクの判断を行う。また、業務を自動で実行し、オートコンプリートする。

例)営業担当の活動履歴、顧客との合意事項、電子メールのメタデータ、その他エンゲージメントを特定するためのデータを統合的に参照する。例えば、顧客からの「第3四半期の2週目に連絡が欲しい」といった個別の要望に対して、必要なワークフローを判断し、実行する。人が手動で起動させるよりも先に、必要なタスクの洗い出しや実行が完結している世界観。

このハイパーオートメーションの実現性やそのインパクトをもたらすテクノロジーには、前回の第三章に登場したデジタルツインや IoTプラットフォーム、バーチャルアシスタントなどが含まれています。

加えて、今年(2024年)の1月には、最新版としてハイパーオートメーションを含む、今後インパクトをもたらすテクノロジーの展望を Gartner社が以下のようにまとめています。

Gartner社が示す最新版 Impact Radar『Emerging Tech Impact Radar: 2024』より Magic Moment 作成

これらの自動化が営業組織に定着すれば、長期的には反復的な業務は全て機械にデータ駆動で動いてもらい、人間はより人間特有の活動、つまり創造的、情緒的、独創的な仕事に集中できるようになります。

AIカスタマーと AIセールスマン

ハイパーオートメーションが進めば、自社の営業プロセス、顧客の購買プロセスの両方で自動化が進んでいくことが考えられます。Gartner社 は、2030年までに顧客体験のうち少なくとも25%が実質的に機械に委任されることになると調査対象の経営陣が考えていることを発表しています。

経営陣がより機械的な取引を重視「Machine Customers Will Decide Who Gets Their Trillion-Dollar Business. Is It You?』より Magic Moment 作成

実際に、HP Instant Ink、Amazon Dash Replenishment、Tesla の自動車などのサービスでは、所有者に代わって機械が「共同顧客」として規定されたルール内で機能を選択し、活動を実行することができるようになっています。例えば、より身近な Amazon では、アカウントのセットアップに従って、消費財や消耗品の残量を自動計測し、自動で再注文してくれます。

今後は、AIカスタマーが新しい購買の意思決定者として、人間に代わって高度な裁量権を持ってトランザクションに関わるようになっていく可能性があります。また、AIカスタマーの進化と同様、AIセールスマンが高度化していくことが考えられます。顧客のデジタルツインの存在が壁打ち・検証の対象として、営業を行う AIセールスマンの能力・学習強化に繋がり、「アルゴリズム×アルゴリズム」で活動がより精緻になっていくことも期待できます。

加えて、セールスハイパーオートメーションと AIカスタマー・AIセールスマンの実現化はまだ先の未来になると考えられますが、その時には営業に携わる人間の役割も変化しているのではないでしょうか。

営業担当は営業活動を行う主体ではなく CRM をはじめとするテクノロジーの管理者に、マネージャーはメンバーのコーチング担当に、またオペレーション上の問題がないかをモニタリングするプロセスマネージャーのような役割の需要が新たに出てくる可能性があります。

また、組織もセールスハイパーオートメーションと AIカスタマー・AIセールスマンの実現化に対して、変革が求められるようになると考えられます。例えば、AIカスタマーに対応するための独自の bot やカスタマーエクスペリエンスチームと連携し、AIカスタマー中心の新しいカスタマージャーニーの構築などを考慮する必要性があるでしょう。

次回

本記事では、ハイパーオートメーションとそのプロセスを中心として、Gartner社の調査をもとに、今後顧客と企業の関係性が AI をベースに変化していくこと、結果的に営業組織や各担当者の役割が変化していく可能性をご紹介しました。

次の第五章では、日米の違いを起点に、今後日本の BtoBセールスがどのように変化していくのかを考察します。