第二章:中長期で起こる営業トレンド(米国)
第一章では、AI の技術的要素とその活用シーンをご紹介してきました。このような AI技術は今後さらに重要性を増していきますが、これは BtoB営業を取り巻くトレンドの変化とも密接に関わっており、またこのトレンドは顧客体験の変化と関わっています。
第二章では、各企業が今後中長期的に直面する可能性の高い営業トレンドの変化をご紹介します。
デジタルシフト
Mckinsey&Company社の調査では、営業活動にデジタルチャネルを取り入れ、リモートセールスを行う営業担当は、従来の営業活動と比べて同じ時間内に4倍の数の企業にアプローチし、最大50%多くの収益を生み出すことができると示されています。背景には、これまで顧客訪問などオフラインの営業活動に費やしていた時間をリモートでの営業活動に割り当てることができたという活動効率の改善はもちろん、買い手側が売り手側に期待する顧客体験が変化していることにも起因しています。
顧客体験の変化に関して同調査では、2021年時点で買い手は売り手の調査から注文・継続までの購買プロセス全体の3分の2以上において、リモートでの対話、またはデジタルを通じたセルフサーブで営業担当者と接することを望んでいることが示されています。
この顧客ニーズの変化に応えるためには、売り手側が営業活動にデジタルチャネルを取り入れ、顧客のエンゲージメントがもっとも高まるタイミングやチャネルを提供する必要性が強調されています。同調査においても、2024年にはデジタルを取り入れた営業戦略が主流になることが示唆されており、BtoB営業においても商談のオンライン完結が進むなど、購買の意思決定の主戦場がデジタルシフトしていくことが予測されます。
また、そもそも購買において営業と話すことを好まない買い手が今後増えていくことも見込まれます。Gartner社の調査では、買い手全体の43%、また BtoB営業においてはミレニアル世代の半数以上が、営業担当が介在しない顧客体験を好むことが分かっています。プロダクト主導型の PLG(Product Led Growth)で成功する企業が現れるなど既にデジタルシフトの傾向は見られますが、今後セルフサーブへのシフトが一層進んでいくと考えられます。
BtoC において広告と Web で注文がされる世界観が強まれば、ルートセールスといったかつての営業手法がなくなっていく可能性もあるでしょう。
ハイブリッドセールス
ビジネスモデルが変化するにつれて、インサイドセールスやフィールドセールスなど役割や営業組織の構造も変化を遂げてきましたが、現在はその営業手法が多様化しています。ビデオ会議、オンラインチャット、電子商取引などを組み合わせたハイブリッドセールスを行う営業組織が増えています。
Mckinsey&Company社の調査では、BtoB営業組織の90%以上がさまざまなチャネルを取り入れ、買い手が好きな時に、好きな場所で購買の意思決定ができるオムニチャネルが今後も有効であると考えていることを示していて、これは新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年の54%から急激に増加しています。
また、同調査では、ハイブリッドセールスが BtoB の買い手の観点においても有効であることを示しています。BtoB において買い手は、購買の際にオンラインを含む最大10個以上のチャネルを使用しており、これは5年前のチャネル数の2倍、わずか2年前の7チャネルから増加しています。
また、デジタルシフトやハイブリッドセールスに対応し自社に導入していくために、多くの企業がデジタルを扱えるケイパビリティを持った営業職の人材育成に注力しています。同社によると、2021年には、60%の企業がハイブリッドセールスチームを増強し、62%の企業がデジタルセールスチームを追加したことが分かっており、こうした傾向は今後も続くと予想されます。
オートメーション
Mckinsey Global Institute(MGI) の調査では、営業に関わるタスクの約3分の1を現存のテクノロジーで自動化できることが分かっています。自動化を自社の営業プロセスの中に組み込むことで、営業担当が本来集中すべき業務に時間を使えるようにし、収益改善ができる大きなチャンスがあるということです。
具体例には、下記を含むタスクの自動化が既に実現しており、これから AI技術の導入が進むことで、その活用範囲はさらに広がっていくと考えられます。
リード・行動の優先順位付け
(例)インサイドセールスが担当する顧客群からホットリードを自動検出
過去成約した案件に関する大量の記録データをもとに、顧客の webサイトの訪問回数や営業担当が電話でのヒアリングで確認した合意事項といった活動データを照合し、アプローチすべき顧客を特定します。
日常的な単純作業の自動化
(例)顧客毎の状況に応じたフォローアップ
商談前のリマインドメール、顧客への資料送付、御礼メールをはじめとするフォローアップは数回に及ぶことが多いタスクであり、担当者毎にばらつき・抜け漏れが発生しがちな業務です。そこで、特定のインタラクション(顧客からのメールの返信、商談実施、資料ダウンロードなど)の発生をフックに一連のコミュニケーションが自動化されるように設定することで、これまで手動で行っていた単純作業を正確に実行させることができます。
意思決定のためのデータドリブンな洞察提示
(例)過去データの照合による受注確率・リスクの算出
過去の取引データや顧客行動から、取引が進む案件の受注確率やリスクに関する洞察を提供します。購買プロセスにおけるどの要素(価格、顧客の課題感、競合など)がリスクとなりうるかを特定することで、営業担当は先回りして対策を練ることができます。
これらの機能の一部は、当社が提供する Magic Moment Playbook の “Next Best Action” “シーケンス”、Outreach の “Sales Execution Intelligence”、Gong の “Gong Assist” として、サービス提供が進んでいます。
マルチモダリティ
マルチモーダルデータとは、さまざまなタイプ(画像、テキスト、音声)に跨るデータを指します。単一のデータのみではなく、複数のデータを AI が学習可能な形式に変換し使用することで、より正確な分析結果が算出されることが期待されます。
前述のデジタルシフトやハイブリッドセールス、オートメーションを実用化していくためには、さまざまなチャネルで異なる形式で蓄積される顧客データの流通・統合基盤が必要になります。
営業においては、BtoB の買い手と対応する BtoB営業組織の変化によって、顧客接点がハイブリッドチャネルに跨ります。特に、対面とデジタルを組み合わせたハイブリッドセールスでは、営業担当者のメモや通話記録などの個人に依存したデータと顧客データを統合し AI をフル活用させようと思うと、その難易度・重要度は一層上がります。
これまでは各営業部毎にそれぞれインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスに特化したツールの導入や活用を進めているケースが多かった一方、これからは連続性を伴う顧客体験をデータ上でも一貫して統合管理することが必要になってくるでしょう。
次回
本記事では、海外の主要な調査機関の調査や当社の知見をもとに、顧客の志向変化に伴う中長期的な BtoB営業組織を取り巻く環境変化のトレンドを解説してきました。
次回、第三章では第二章で紹介した変化へ対応し、実用可能なレベルに引き上げるために重要な将来的に実用化が期待されるテクノロジーをご紹介します。