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15歳の娘が男だと言い出した。(その8)

ドーナッツ屋さんで、二人向き合い、まだ試していなかった新作を頬張る。
美味しい!やっぱり、甘いものって、気持ちが上がる。
ちらっと彼女を覗き見る。
購買部での心細さは、ドーナッツが見事、追い払ってくれたのがわかった。
ママにできないこと、ドーナッツが、できる!!やってくれた!

「Sちゃんと一緒に食べると、いつもより美味しい気がする。」
ふふっと笑うSちゃん。
「コンファメーションバイヤス」
「何その言葉?」
「思い込みってことだよ」
「へぇ、難しい言葉、知ってるんだねー。」
「まま、何その言い方ww」
「昔はお母さんから言葉を習っていたけど、今はSちゃんに
言葉を習う。老いては子に従えってやつだね。」
「まま、使い方間違ってるしwww」
「もう、すっかり大きくなっちゃって〜、かわいいぞぉ〜w。」
頭をぐりぐり触りまくる私の腕を払って
「やめろーっw」とクシャクシャの笑顔になるなったSちゃん。
この笑顔を、守りたい。

たわいもない会話、いつもの時間。
今は、これでいいのかもしれない。
心のうちにあることは、黙っていよう。
いつか、彼女からアクションがあるなら、
その時に受け止めればいい。

外はすっかり暗くなっていた。
晩御飯前に、どかっと食べてしまったことを後悔しつつも、
心は晴れやかだった。
最後に、この娘を抱っこしたのは、いつだっただろうか。
思い出せないくらい、遠い昔だ。
思い返せば、ママ狂の年子の弟ばかり、抱っこしていた。
Sちゃんを、もっともっと抱っこしてあげなければいけなかった。
きっとずっと我慢していた。
ままに抱っこされない分、パパがめちゃめちゃ抱っこしていたけれど、
ままが欲しい気持ち、わかっていたのに、弟ばかり抱っこしていたのを、
私は自覚していた。

スキンシップ、もっと取らなきゃいけない。感覚的にそう思った。
今更だけれど、何もしないよりましだ。
何かいい方法はないだろうか、おたがいに照れずにできることを考えよう。


長い1日が、終わろうとしていた。

「Sちゃん、ちょっとこっちに座って。肩揉んであげる。」
長椅子で携帯を見ていたSに、私の足元に座るよう、促す。
「え、いいの?まま…」
「もちろん、ほぐそう、よく眠れるように。」
「うん!まま、やさしい」
「そう、ままは、優しいの。喧嘩しても、覚えておいてねw」
華奢な肩だ。
筋肉がバンバンに張っている。
鉄板でも入っているかのような、カチカチに固まった肩と背中。
「うわー、こりゃ、頭痛くなるよ。」
「うん。。。」
「ここ、色々頑張っているって言ってるな。w」
何も言わなかった。
だから、後ろからほっぺたを触った。
ふにゃふにゃでかわいいぽっぺをぎゅっと掴んだ。
「パパー、ママがセクハラするーw」
見つけた、見つけた、いい方法。
毎日、これから、肩を揉んであげよう。
まずは、体温から、愛しているを伝えよう。

続く


翌朝、パパが嵐を巻き起こす。(泣)






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