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衝撃的な本との出会い 早瀬耕「未必のマクベス」

自分の衝撃的な本との出会いと言えば、早瀬耕「未必のマクベス」である。

書店で、何か本が欲しい、でもこれ!というものがない、かといって手ぶらで帰るのは嫌だな・・・と、そんな気持ちであてもなく書棚のあいだを彷徨っていた。そしてハヤカワ文庫のコーナーでふと目が留まった。タイトルは「未必のマクベス」。その時、恥ずかしながら「未必」の意味もよくわからなかった。自分の知らない言葉と、シェイクスピアの有名な戯曲。正直タイトルからどんな話か全く予想がつかなかった。けれども、私は本が視界に入った途端、その本を「絶対に読まなければいけない」気がしたのである。その予感は見事に的中した。

以下にあらすじを簡単に記す。(※ネタバレあり)

IT系企業に勤務する中井優一は、東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わっていた。同僚の伴浩輔とともにバンコクでの商談を成功させた優一は、帰国の途上、マカオの娼婦から予言めいた言葉を告げられる――「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」

優一には、高校生の時に親しい間柄だった鍋島という女子生徒がおり、互いに好意を持っていた。そして彼はその女の痕跡を出向先の香港で目にすることになった。鍋島からは、会社の機密にまつわる重要なメッセージのほか、整形して顔が変わっていること、主人公(優一)のことが好きだということ、自分の事を見つけてほしいこと、というメッセージを受け取った。

最終的には優一は、姿・名前を変えた鍋島と再会する。そして自らは、マクベスの主人公と同じ結末を辿り、命を落としてしまう。

あまり詳細に記してもこれから読む人の楽しみが半減するであろうし、ネタバレも他のサイトに誰かが書いているのでこの程度にとどめておく。おそらく今のあらすじではこの本の魅力の1%も伝わらないであろう。

正直、今まで1500冊以上本を読んできたが、ここまで鮮烈に自分に訴えかけてきた小説は他にないとまで言える。あくまで私の主観なので、それほど面白くもなかった、という人がいても不思議ではないが。

アジアのオリエンタルで頽廃的な雰囲気、「香港」というビジネスや闇社会を想像させる舞台設定、散りばめられた理系の要素、そして純愛。幻想的でどこか現実離れした雰囲気と、ハードボイルドで少しバイオレンスなストーリー。小説を読む醍醐味は、文を読み、頭で舞台や登場人物をイメージし、その人物のセリフを脳内で再現することにあると思う。まるで映画でも見ているかのように情景が眼前に迫ってくる。話のあらすじだけ読めばいいとか、小説が難しいから漫画から入るとか、そういう楽しみ方も否定はしないけれどやはり文そのものに触れないと小説の本当の価値というのはわからないと思う。

正直、個人的にはハリウッドで映画化されてもおかしくはないと思っているレベルである。(むしろ映画化してほしい)

今、私は教員として勤務しているが、去年の緊急事態宣言発令後、学校が休校になった。そこで休校中に生徒に本を読んでもらおうと思い、中学生向けにオススメの本を本書含めてリストアップした。そうして、同じ学年を教えている教科主任にこういう感じでオススメの本リストを作ったよ、ということを話すと「僕も作ってみよう」と仰っていて、主任が作ったリストにまさしくこの「未必のマクベス」が入っていたのだった。二度目の衝撃だった。

同じ職場の中に、自分と同じ本を推している人がいる!

しかもそこまで有名じゃない本!

興奮しましたね。

作家の東野圭吾さん、伊坂幸太郎さん、村上春樹さんなどは知ってる人も少なくないが、早瀬耕さんは前述した作家に比べればあまり知ってる人がいないのではないか、と思う。本屋でも特にコーナーが設けられているわけでもなかったし、テレビに出られるような作家でもないし。こんなマニアックな作品を好きだ、と言う人が身近にいて本当にうれしかったのだけは覚えている。

私は自分が面白い!と思った本を、他の人にも面白い!という感情をもって読んでもらいたい。

そういう気持ちでこの記事を書きました。

文庫でも1000円超えますが、オムライス一皿我慢すれば買える本です。

時間があるならぜひ手に取ってほしいです。面白くないというのであればお詫びにケーキでも奢ります。

それでは。

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