アイデンティティの喪失:誰かの所有物になるということ。

駐妻生活と聞いてどのような印象を持ちますか?

私が渡英前に同僚に言われたことは、

「Maggy、おほほの会(奥様会のこと)に入るのか?昼から紅茶とか飲んで過ごすんだろう?頭の中お花畑になるんじゃねーのか?帰ってくる頃に社会復帰できるのか?」

でした。冷静に振り返るとすごい女性蔑視の言葉が並んでいますが、独身と嘘をついて東京カレンダーの出会い系アプリを使っているイケおじに言われました。

実際のところはというと、サロンや社交クラブでお茶会をしたり(ロックダウン前)、美術館を一緒に巡りその後会員制ラウンジでお話をしたり(もちろんロックダウン前)しましたが、そこにはお花畑なーんてなくって、みんなが受け入れない話題をしようものなら場が一瞬で凍るような独特の空気が流れ、夫の所有物になったんだということを嫌でも思い知らされる場だったのです。


Maggyのアイデンティティ

ここで私がかつて何者であったかを書きたいと思います。

新卒からお金持ちおじさんの米系企業で働いた後、こどもが2歳になったタイミングで韓流ポータル企業が始めたスタートアップに転職をし、渡英前は営業部長になっていました。もちろん会社全体としては女性も働いているのですが、営業ロールは自分以外、自社も協業先もほぼ男性という95%男社会に身を置いていました。

協業を持ち掛ければ、強面の営業課長に「お嬢さん」と呼ばれ(当時35歳だったけど。。。これって嬉しいの?「お嬢さんじゃなくてビジネスパートナーです。」ってその場にいた若者がフォローしてくれた。彼は紳士である。)

ご挨拶にうかがった支店長には、同席していた部下の方を上司だと間違われたり(女性に対する先入観)

悪い意味での女性扱いは何度もされたけど、いい意味での女性扱いをされたことなんて片手で数えるほどでした。

(新卒の時に、10人出てくる客先の製品化会議に紙袋2個分パンパンに印刷した資料を電車移動で運んでいる時に、OJTしてくれていた先輩が自分の荷物だけ持ってスタスタ歩いて先に行き、両手がちぎれそうになっていたら、、、同行していた他部署の方が「Maggyは新卒の後輩である前に、一人の女性ですから」って言って半分持ってくれた。彼も紳士である。)

それでも嫌悪感を感じることなく自分を強く持って働けたのは、「責任のある仕事を任されて、その範囲で会社の顔として働いている自分」というアイデンティティがあったからだと思う。


アイデンティティの喪失:夫の所有物でしかない自分

最初に違和感を覚えたのは生まれたときから慣れ親しんだ、自分の名字で呼ばれなくなったこと。(結婚した後もビジネスネームは旧姓のままだった。)

当たり前かもしれないが、奥様会は夫の会社のご夫人達が運営する組織なので、夫の名字で呼ばれる。奥様会には目に見えるしっかりとしたヒエラルキーがある。慣れない異国の地で、共に暮らす者どおしが助け合うという相互補助が目的の組織であり、奥様会には上下関係はないと建前として言われているが、夫の役職に順次たしっかりとしたヒエラルキーがそこには存在する。つまり誰それさんの奥さんという肩書で、それ以上でもそれ以下でもない。

社会人になってからずっと外資系企業で働いてきた私は、日系企業の肩書文化にまだ馴染めていない。外資系企業では、社長を呼ぶときでさえ「〇〇さん」、自分の上司も「〇〇さん」、同僚も部下も「○○さん」、時には愛称で呼んだりもして、肩書を付けて名前を呼ぶことはなかった。だからずっと肩書ではなく、その人自身の人となりを見てきたけど、ここでは勝手が違う。

夫の名字+夫の肩書+夫人」が呼称なのである。

ここに私の存在はどれほど残っているのだろうか。確かに、ずっと奥様街道をひた走ってきた方には当たり前で、居心地のよいものかもしれない。だけど、私が持っていたアイデンティティはそこには一ミリも残っていなかった。自分を押し殺して、夫の所有物として立ち振る舞うこと。これまで何年もかけて築きあげてきた自己のアイデンティティを一瞬で失った喪失感はじわりじわりと自分を苦しめてくる。奥様会に出席する前後数日は夜も眠れなくなり、どんな話をすればいいんだろう。何を話せば当たり障りがなくその場をしのげるんだろう、そんなことばかり考えていた。


私がイギリスで捨てた(奪われた)100の事

その4 自分のアイデンティティ(後で奪い返す!)



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