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次のお客さまじゃなかった私

うちの近所にはコンビニが四つある。

あるとき、その中の一番広い店舗のコンビニへ行った。
店舗面積が大きい分、商品種類も豊富だ。

何点か選んだ商品をカゴに入れ、
レジに向かうと、
2台あるレジはどちらも精算中で
順番を待つ女性客がひとり。

私はその女性の後ろに並んだ。

レジでは子供連れの40代くらいの女性が
スマホのアプリを見せながら話し込んでいて
何やら手間取っているようだった。

そうするうちに、
もう一台のレジが先に終わり
私の前に並んでいた女性はそちらのスタッフから
「お次にお待ちのお客様どうぞ!」
と、声をかけられてそのレジへ向かった。

私は自分の待っている方のレジで
スマホ画面を見せてやりとりの続く子連れの女性と
スタッフへ視線を戻してぼんやり眺めて待っていた。

ようやくレジが済んだようで自分の番になったと思い、
私がレジへそのまま進もうしたとき、

「次のお客様どうぞ!」

と、スタッフは私ではない方に向かって
声を張り上げた。

「?」

スタッフの声の先に目をやると
そちらに立っていた男性客が
私の前を横切り、レジ台に商品を置いた。

意味がわからずに戸惑って
立ち尽くしていると

「正しい並び位置でお待ちください!」

スタッフは視線を上げることなく
「どこか」へ叫ぶと淡々とレジを始めた。

・・・?


ふと、商品棚からチラッと見える場所で
ペット飲料を手に、
立っている若い女性と目が合った。

彼女はニコッと笑って、
自分の後ろを促すようなしぐさをした。

促されるまま、そちらへ行ってみると
その若い女性の後ろにはさらに
3~4人並んでいた。

棚のかげになっていて全く気付かなかった。

そこが「正しい並び位置」だった。

何度か来ている店なので
思い返してみれば
以前はその位置に立っていたかも…。

なのに、その日はぼんやりしていて
レジ近くに立つ人の後ろに
何となく並んでしまったのだった。

私の前に待っていたさっきの女性も
並び位置に気づかず、
そこに立っていたようだが、
その時点では並んでいる人が
まだ他に誰もいなかったため、
向こう側のレジスタッフが
空いた自分のレジへ誘導したようだ。

そして残った私は何も気づかずそこで
次に来るはずだった順番を待ってしまった。

その結果、取り残されたカタチになり、
正しい並び位置には
他のお客さんがどんどん並んで行ったのだ。

私より後に来て
「正しい」位置に並んだ人たちが
いっせいに私を見る。

スタッフが「正しい並び位置に~!」
と声を張り上げたために
私は「横入り」と思われたっぽい。

「ちゃんと並べよ」

彼らの目はそう言っているように見えた。

そのいぶかしそうなたくさんの目に
急に恥ずかしさが込み上げ
いたたまれなくなった私は
列の後ろに廻る体でレジを離れ、

カゴの中のものを全部、元の陳列棚に戻し
そそくさと店を出てしまった。

とにかく恥ずかしかった。


が、、、


時間が経つにつれ、じわじわと
恥ずかしさは腹立ちに変わる。


何も逃げなくたっていいのに。

でもでも、

間違って並んでいた私の前の人を、
レジに誘導したスタッフは
次に待っている私に
「並び位置はこっちですよ」と
そのとき、ひと言教えてくれたら
それだけのことだったのに。

レジに一番近い位置で
レジのやりとりを眺めて
カゴを下げて立っていた私のカオには

「お会計を待ってます」

と書いてあったはず。

順番を待っていることは
傍から見ても一目瞭然だったと思う。

うっかり間違って並んでしまっただけで
「ズル」しようとしたわけではない!

なのに他のお客さんからは
「ズル」と見られてしまった。(と、感じた)


レジの間近でカゴを持って佇む私が
店員の彼らには1ミリも
視界に入っていなかったのか?

いいや、んなわけない。

私の「会計待ち」オーラは彼らに
届いていたはず。

「次は私です」のレイザーポインターは
彼らのおでこに刺さりまくっていた。

…え?
じゃあ、わざと無視されたのかな?

見えてて見ないふり?

それはなぜ?
何のため?

マナー違反だから?

マナー違反な私はアウェイってこと?

ってことは、

それを無視することで
注意喚起なさるお店なんですか?

あ~~?

そういう方針のお店なんですね?

知らん顔したレジスタッフは
いつも見る、店のオーナーらしき女性だった。


そうなんですね~…

それがお宅のやり方なんすね?


・・・


レジスタッフに対する不満が
頭から煙のようにもくもく溢れて
部屋の火災報知機に反応しそうだ。

やばい、
変身してしまう。

還暦アベンジャーの
養成ギブスが軋む音が聞こえる。


勘違いした自分が間違っていると
言われればそうです。

そうなんです、すみません。

私がバカです。


あ~~でも、モヤモヤが止まらない…


カゴの中の商品を一つずつ
あちこち元の棚に戻して廻った自分が
ふいに悲しくなった。



あれ以来、
そのコンビニには行かなくなった。

そこのオリジナル商品は好きだが、
「そこでなくてもいっか」と
思うようになってしまった。

同じコンビニはそこでなくてもあるし

思い出すと、今でも恥ずかしさが蘇って
どこからか煙がもくもく上がって来る。


サイレントマジョリティ物言わぬ多数派


積極的な発言行為をしない一般大衆のことを言う。
いちいち声をあげたり、
あえて、文句は言わないけど
そっと離れていく人たち。

「自分がイヤならそこを選ばなければいい」

日本は他の国より多いらしい。


「こんなイヤな気持ちなんだな」

小売業に身を置きながら、
自分がサイレントなマジョリティだと
思ったことがなかった。

認識してないことは
人は無頓着になりがちかもしれない。

私はお客さんの「声なき声」を
ちゃんと聞けていただろうかと思った。



こういうの「紺屋の白袴」っていうのかな?
「灯台下暗し」?

・・・ちょっと違うか。

当てはまる諺が出て来ない…
なんかかっこよく
諺でしめてみたかったけど

まあ、いっか。
では また~






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