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足音のハーモニー

今回の記事は規則性のない擬音がしつこく表示されます。
※そのせいで文字数もいつもより多くなっています。
眼精疲労、ストレス過多の自覚ある方、
そしてお急ぎの方へはお勧めしません。

~お読み下さる前に~ いつもの注意喚起


「尻根っこ栽培」からの撤退を図るべく
7月下旬にスポーツジムへ入会した。

掲げたスローガンは二つ。
「ひとまず歩こう」
「イヤにならないよう 頑張らない」

入会から二か月が経過。
今のところ週2~3回のペースで通えている。

メニューは至ってシンプル、小一時間ほど
ランニングマシーンでひたすら歩くだけ。

長年の運動不足を解消するには
焦らず腰を据え、じっくりやるしかないと
インターバルを規則的に挟み、
心拍数を調整しながら歩く。

私の平均心拍数は
平常時でも100~110回/分あって、
50歳代の平均値内とはいえ、多めである。

私がジムに通う理由は『持病の癪の解消』
つまり健康増進なので
なるべく130を越えないよう調整しながら歩く。

混んでいる時間にひたすら歩くだけの自分は
少し気が引けるところもあって
ジムのスタッフさんに聞いて
空いている時間帯を狙って行くようにしている。

が、それでも
利用数の多いときにも当たってしまうこともある。

その日もそんな日で
特に私くらいの女性が多めだった。


スタッ スタッ スタッ スタッ スタッ…

マシーンでいつものように歩いていると
私と同じ年代と思しき女性が隣で歩き始める。

しばらくすると隣人のその女性は速度を上げた。

ウォーミングアップからの本気モード?

ズッチャ ズッチャ ズッチャ ズッチャ…

妙に歩く音が響いて聞こえて来る。
ちょっと変わった足音。

シューズのせい?
サイズが合わないのかな?

それとも筆圧とか握力みたいに
歩行にも足圧みたいなものがあるとか?

スタッ スタッ スタッ スタッ スタッ…
ズッチャ ズッチャ ズッチャ ズッチャ…

私の足音と隣人の足音が交互に響く。


スタッ スタッ スタッ スタッ スタッ…
  ズッチャ  ズッチャ  ズッチャ  ズッチャ…

隣で歩く音が
私の歩くのと微妙にズレて行くのがわかる。

そして私の足音のあとに
隣人の足音が微妙なズレを伴いつつも重なる

スタズッチャ スタズッチャ スタズッチャ 
スタズッチャ スタズッチャ スタズッチャ …

リモートでの会話のように
若干時差を伴うのに似た違和感。

スタズッチャ スタズッチャ スタズッチャ
スタズチャッ スッタズチャ スタッズチャ…

隣人の速度が少々遅いのだろう。
致し方ないのだが
ジリジリと不規則なズレが耳につく。

スタズッチャ スタズッチャ スタズッチャ 
スズッタチャ スタズッチャ ズッスチャタ
スタズッチャ スタズッチャ スズッタチャ 
スッタズチャ スズタッチャ タズッチャス

ーーー!!!

耳について気持ち悪い!


私はこの心地悪さから逃れようと
若干速度を上げた。

スタッ スタッ スタッ スタッ…
 ズチャッ ズチャッ ズチャッ ズチャッ…

いいカンジで私の足音と
隣人の足音が離れてズレる。

これなら我慢できるかも。

耳心地の違和感から解放され
歩くことに集中しようと気持ちを切り替える。

ところが数分しないうちに
隣人も速度調整のレバーへ手をやるのが横目に入る。

スタズッチャ スタズッチャ スタズッチャ
スタズチャッ スッタズチャ スタッズチャ…


イヤな予感…

スタズッチャ スタズッチャ スタズッチャ
スズタッチャ スズタッチャ スズタッチャ…


スタズチャッ スタズチャス タズッチャス 
スッタズチャ スズタッチャ タズッチャス
タズッチャス スタズチャス スッタズチャ…


ァア”--ーッ!


歩く音にこんな不協音てある⁉

叫びたくなるような耳障りの悪さに
イライラしてしまう。

(何でこのヒトこんなに足音おっきいの⁉)

隣人はこの違和感を感じないのだろうか?

私はたまらず、自分の速度を更に上げる。
現状のポテンシャル最大と思われる速度である。

スタッ スタッ スタッ スタッ…
  ズチャッ ズチャッ ズチャッ ズチャッ…

スタッ スタッ スタッ スタッ…
  ズチャッ ズチャッ ズチャッ ズチャッ…


また隣人の足音が少しズレて離れて
不協音は脱したものの、
私の心拍数はみるみる上昇。

ちょっと息が切れる…

でも速度を落としたくは…ない!

ちらりと隣人の足元へ目をやると
音の通り、足の交差が私より少々遅い。


何のための確認かわからないが
とりあえず、安心して
私は再び歩くことに集中しようと
意識を切り替える。


スタッ スタッ スタッ スタッ…
  ズチャッ ズチャッ ズチャッ ズチャッ…

息が切れてしんどい。
でも速度を落としてなるものか。

スタッ スタッ スタッ スタッ…
  ズチャッ ズチャッ ズチャッ ズチャッ…

スタッ スタッ スタッ スタッ…
  ズッチャ ズッチャ ズッチャ ズッチャ…


(あ…また⁉)

スタッ スタッ スタッ スタッ…
   ズチャ ッズチャ ズッチャ ズチャズ…

(ん?な、何⁉)

スタッ スタッ スタッ スタッ…
      ズチャズッチャッズチャズッチャチャ…

リズムを失った足音が気になって
私は息を切らしながらまた横目で隣人を見た。

彼女は顎を前に突き出しながら
ウォーキングマシーンのアームに手をついて
私以上に息を切らしているのがわかる。

(キツいの我慢してる?…だ、大丈夫⁉)

(人の心配してる場合じゃない、
あたしも限界…)


目の前の心拍数は145を表示している。


ひゃ?…ひゃく、145⁉


最大135程度で歩いているので
見たことのない数値にドキドキし、
そのせいでさらにまた数値が上がる。

このまま残り時間を歩くなど
これでは健康増進じゃなくて短命促進だ。


速度を落とすか落とすまいか…
息切れで苦しくなりながらも逡巡する。


… to  be or not to be …

何のデッドヒートだよ!


(生死かけて何になる!)


くだらない、やめよう…!



ウィーーーン…


そう思い至ったとき、
機械音がしぼんでいく。

私のではない、隣のマシーンだ。


視界の端に隣人が
アームに両手をつきうなだれて
肩で息をしているのが伺える。


隣人はマシーンの停止とともにズルズルと
後ろへと私の視界からフェイドアウトして行った。


・・・


トレーニングルームから出て行く
隣人の背中をそっと見送ると

私はマシンの速度を元に戻し、
何とか残り時間を凌いだ。



あれから私は MP3持参で
イヤホンを装着して歩いている。


音楽を聴くというより防災用品だ、これは。

ランニングマシンを正しく歩くためだ。




そして、あの隣人に必要なのは競争心ではなく
足にフィットしたシューズだと思った。



どうかあなたの足にフィットしたものを~


今日はこの辺で
では また。



#挑戦している君へ










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