教えてください~消化しなかったら昇華されるのでショウカ?~
「放課後に給食のパンを食べるとおいしい」
小3のある日の登校途中、ちいちゃんがさっちゃんと私に「ナイショ話がある」と言って、ひそひそと耳打ちしてきました。
給食は衛生管理の観点で、新鮮な野菜やわかめのような食材も軽く熱処理されたりしていて、味付けは悪くないのですが、本来の旨味が損なわれるというか、何とも微妙なものが多かった気がします。
主食を占めていたパンも無添加とはいえ、味気の無いモサモサした食感で、今ひとつ子供たちには人気がなかったですし、牛乳も「テトラパック」とかいう名称の四面体の紙製で、こじゃれたデザインでしたが、加熱処理済みなのと、ほぼ常温で飲むからか、ほのかに生臭みを感じました。
大人になってからも苦手意識の取れなかった食材の多くは、この頃の印象が悪かったものがほとんどでした。
給食の時間は空腹の勢いで、ある程度は食べられるのですが、量的に全部食べられるとは限りませんでした。
なので、モサモサのパンと生臭い牛乳に手が伸びないことはよくありました。
が、しかし謎のルールでパンは一口も手をつけていなければ、持って帰ってOKだったので、残す子は少なくありませんでした。
小学校3年生になると、委員会活動にも参加するようになります。
そして、育ちの盛りに突入していますから、掃除や係りの仕事を済ませた放課後にはもうお腹が空いています。
ちいちゃんは帰り支度の際、残したパンをふと、思いついてかじってみたところ「おいしい」と気づいたのです。
お腹が空いて食べると、給食のパンはおいしい
ちいちゃんは大発見をしたのです。
そして、「給食のパンを放課後に食べる」ことを思いついたのです。
そんな計画に私とさっちゃんはワクワクしました。
楽しいことが大好きな子供です。
当然、乗らずにはいられません。
その日の放課後、ちいちゃんとさっちゃんと私はそれぞれの係りの仕事を終えて、体育館の倉庫に集合しました。
なぜ教室じゃなくて、そんな狭くてほこりっぽくて薄暗い場所に決めたのか、よく覚えていません。
罪意識のようなものはなかったのですが、「密かな計画」って感じがワクワク感を高めるような気がしたのでしょう。
子供は遊びの天才ですから、自分たちの行動がいかに楽しくなるかについて、無意識のうちに最適解を求めます。
私たちははしゃぎながら、ランドセルからビニール袋の中のパンを取り出してかじります。
「おいしい!」
確かにイケるんです。
給食の時間にはくすんで見えて、ムリやりほおばるだけだったモッサくて固いパンが『妙に』おいしい。
味付けのしてある他のメニューを先に食べてしまうことも原因だったのかもしれませんが、給食の時間に食べるのとは全然違うように思いました。
マットや跳び箱などの体育用具の物陰で、私たちはコッペパンパーティに興じていました。
しかし、パーティピーポーのはしゃぎっぷりは倉庫の外まで漏れていたようで、校内巡回の先生によって、パーティは中断されました。
「コラ!こんなところで何をやってるんだ!」
いつの間にか立っていた先生にいきなり怒鳴られたものですから、私たちは大口でほおばったパンを入れたままフリーズしました。
「放課後はさっさと帰るの決まりだろ!」
先生はずんずん近づいて来て、隅っこで小さくなっている私たちを見降ろします。
見上げる先生は形相の仁王像のようでした。
「ここで何をしてたんだ⁉」
「・・・」
「答えなさい!何をしてたんだ⁉」
「・・・」
「答えなさい!聞こえないのか⁉」
私たちが答えられない状況にあるのを先生はわかっているはずです。
ほおばったパンを咀嚼することも出来ずにフリーズしているため、口が動かせないことを。
「・・・口の中のモノをここへ出しなさい」
先生は自分の手をさっちゃんの口の前に差し出しました。
「・・・」
「出しなさい!」
先生の手がさっちゃんのあごを捉えた次の瞬間、さっちゃんの喉から「キューッ」という、変な音が聞こえました。
さっちゃんは咀嚼できていないパンをそのまま丸飲みしたのです。
「キューッ」は、咀嚼されていないパッサパサのパンがさっちゃんの食道を無理やり通る音でした。
キュー…
キューッ
第一波を受け、第二波、三波とその音は続きました。
仲良し同士だけあって、気が合うのです。
さっちゃんの後を追って私もちいちゃんも続いたのです。
「コラ!お前ら飲むなっ!出しなさいっ!」
先生はさっちゃんから手を放すと今度はちいちゃんの肩を揺さぶります。
しかし、ムリやり飲み込んだ水分のないパンは喉の途中でつっかえてなかなか落ちて行ってくれません。
ちいちゃんは先生に揺さぶられながら、白目をむいて高速でまばたきをしていました。
その後、私たちは結構なお手前を頂戴した上、
私は放課後に居残ってパンを食べていました
と、マジックで書いた紙を持たされ、職員室前の廊下に立たされたのでした。
このエピソードは「類人猿系」人気者w、うりもさんの企画へ参加するべく書いたのですが
『昇華』とは『物事が一段上の状態に高められること』です。
昇華。
この記事を書いてみて改めて思いましたが、私が『笑って許す』『許される』ことは何なので昇華?
校則違反したことで昇華?
でも、目から星が飛ぶようなゲンコツくらって「罪状」?をぶら下げて廊下に立たされるほど、私たちの行いは悪行だったので昇華?
私たちはお腹が空いていました。
私たちは一般の交通機関を利用するバス通学児童で、長い待ち時間をいつも持て余していました。
そんなお腹空いている子たちがパンを食べました。
ちいちゃんは食べ物を「おいしく食べる」方法に気付き、給食で食べ切れなかったパンを粗末にせず、しかも、待ち時間も有効に活用する計画を思いついたのです。
あのとき先生は私たちに「飲むな、出せ」と言いました。
私たちに「消化するな」と。
もし私たちがレロレロッと先生の手に口の中のモノを押し出したら、それを一体、どうするつもりだったので昇華?
うりもさん、教えてください。
子供たちのこの行為で、山は死にますか?海は死にますか?
パンを消化することはいけなかったんで昇華⁉
なんつって。
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