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一生ものどころか二生もの!味わい鍋

消費者であることをやめて、愛用者になろう

これは、私達が住む仙台もゆかりある工業デザイナー故 秋岡芳夫氏の言葉です。
「買わされる人間から、自ら選んで買う人間になろう。」
「はじめっから、ものを使い捨てるつもりで買っているのじゃないか。」
「良いモノを選ぶ努力もしないし、高いモノを買う気にもならないのじゃないか。」
「ものをだいじに使って暮らす愛用者ではなく、消費させることを目標に造ったものを、メーカーの筋書き通りにせっせと消費する人間に、みんながなり果てているのじゃないか。」
更に
「モノをつくる人達が、つくることばかり考えて、使う人の身になって考えていないのじゃないか。」
「生活者の為のものづくり、ユーザーの生活を向上させるものづくりが行われないで、生産者による、生産性向上の為のものづくりがはびこってしまった。」

戦後の高度成長期も最終段階を迎えつつあった1970年前半、至上主義に基づいた合理化が加速していきました。その陰では手間ひまを必要とした良品といわれた尊いものたちが圧殺されていきました。

安比塗
くらし座ではそのモノづくりに対する姿勢が大好きで、岩手県の安比塗漆器工房のみなさんの漆器を展示しその魅了を大切にお伝えしております。しかしながらこの岩手県の漆器たちもかつて時代の潮流にのまれ絶滅した過去があります。もちろんその後、行政を含め関係者の多大な努力が実り現在は安比塗、浄法寺塗、秀衡塗として復活しております。

当時、秋岡氏はそのような変貌する流通の姿に警鐘を鳴らし、一方は消費者側へ、そしてもう一方は生産者側へむけた啓蒙活動を通して、近視眼的な流通の軌道修正に力を注ぎました。

流通の河口にて最終的な価値評価をする立場の消費者へは「脱・使い捨て」「愛用する」また「作り手に注文をつける」などの表現を多用しながら能動的な消費行動を訴えました。彼の著書の中には時々厳しい表現がありますが、そこには秋岡芳夫という人間としての愛情と情熱が感じられます。
※参考 「1971年 今日のクラフト展‐くらしの提案」パンフレット 

あ!ごめんなさい。
また今回も前書きが長くなってしまいました。

さて、今回は、日常の「たべる」に賢く寄り添う良品 「味わい鍋」のご紹介です!


「ケ」であっても「ハレ」であっても
日々の味わいを大切に

たべるは、暮らしの基本。だからこそどうぞ気負わずに。
356日あれば、いろんな日があります。
いつも手が込んでいなくてもいいのです。
さっと茹でただけの野菜が、おいしい。それだけで、もう素晴らしいもの。
もちろん、腕によりをかけるのも素敵です。
肝心なのは、人の手でつくって、食べて、心も、お腹も満たされること。
新しいお気に入りの味を発見したり、
いつのまにか旬の素材に敏感になったり。
食が生み出す豊かさを自分らしく楽しむ、
そんな日々が、ずっと続いていくことです。
ぐつぐつ、コトコト、じゅうじゅう、ぱちぱち。
料理という、ささやかで、かけがえのない営みを
そっと支え続けていたい、味わい鍋です。

※カタログの文章がてとも素敵だったのでご紹介しました

味わい鍋の誕生

味わい鍋は日々の暮らしを支える食事をより美味しくつくることを目的として1985年に開発されました。デザインは武蔵野美術大学名誉教授 島崎信氏によるものです。デザインや建築の分野で北欧と日本の懸け橋としてその役割を長年に渡りはたされている島崎先生らしく、「使う人間側からのデザイン発想」を重視し、開発にあたっては、当時はまだ珍しかった主婦によるモニタリングが徹底実施されました。一般家庭の台所からのリアルな悩みや要望を拾い上げ、その上で流通も含めた製品デザイン開発が行われました。そしてそれをカタチにするための高度な製造技術の創意工夫がなされたことで、晴れて味わい鍋は誕生しました。
この味わい鍋はグッドデザイン賞、そしてロングライフデザイン賞を受賞しております。

味わい鍋

「味わい鍋」はいったい何が凄いのか?

製品スペックの主な特徴は以下の通りです
「アルミニウムのソリッド(ムク)」
「厚み」
「丸いフォルム」
「蓋の密閉性」
これらの要素が調理との理想的な関係性を実現しました。

◇調理との関係性

「優れた熱伝導」「蓄熱性」「均一な加熱」は美味しさの基本です

①熱伝導率
アルミニウムの熱伝導率は
ステンレスの約14倍・鉄の約3倍
②鍋の厚み
底面5㎜  側面3.5㎜  蓋最大8㎜の厚さ
③蓋の密閉性
伝統的な高い鋳造技術がその精度を実現させます
④丸いフォルム
羽釜を思わせる丸みは理想的な対流を生み出します
伝統的な鋳造技術を
更に試行錯誤を繰り返しながら
技術完成まで2年の歳月を費やしました
熟練工が一つ一つ丁寧に鋳造しています

【熱伝導率 × 厚み × 丸いフォルム】
大きい熱量と対流により食材の隅々までまんべんなく加熱する為、あっという間にかまど炊きの様に一粒ひと粒ふっくらとしたご飯が炊きあがります。また煮物もしっかりと味が染みわたります。

一粒ひと粒ふっくら炊き上がります

【厚み × 密閉性】
高い蓄熱性と保温性を実現。アルミ鍋でありながら鉄鍋と同じくらい温度が下がりにくいので余熱調理も可能です。

【熱伝導率 × 厚み × 密閉性 × 丸いフォルム】

両手鍋はもちろん片手鍋でも無水調理が可能です

ほどよい重さのある蓋と鍋本体との精度の高い密閉性が、その間に水の膜(ウォーターシール)をつくります。この優れた密閉性とウォーターシール効果が鍋の内部の圧力を高かめ、沸騰温度も素早く上昇。高温状態を均一に保つことができます。そのため、余分な水分を加えず、素材の水分だけでも旨みと栄養を閉じ込めた無水調理が可能となります。

◇生活デザインと利便性

①軽量:アルミニウムは比重が2.7g/cm³と、銅や鉄 ステンレスの約1/3の軽さ
②フッ素樹脂加工:再加工修理サービスのスタート
③平らな両手鍋の蓋:スタッキングと多様性

【軽量×フッ素樹脂加工 ※PFOAフリー】
ホーローやステンレスの鋳物鍋とは比較にならない軽さです。愛用していた鍋の重量にそろそろストレスを感じている方には特にお勧めです。また醤油、味噌、砂糖、みりんなど焦げ付きやすい日本の調味料もさっと落ちやすく、洗浄時のストレスも合わせて軽減します。

軽いし汚れ落としが簡単

【軽量×平らな両手鍋の蓋】
平らな蓋は積み重ねを可能にします。また軽量なので収納棚の低位置に収納する場合もあまりストレスを感じることなく出し入れが可能です。

蓋がフラットなのでスタッキング可能

【両手鍋の蓋は2way】
平らな両手鍋の蓋は肉厚で本格的なミニフライパンとしても使えます。オーブンに入れることも可能です。

両手鍋の蓋はフライパンとしても

※両手鍋の使用時はやけど防止の為ミトンをご利用下さい

◇メンテナンスサービス

厚みのある無垢の味わい鍋は丈夫で
再加工•修理が可能です
味わい鍋は一生ものどころか二生もの

味わい鍋は2023年より「再加工・修理サービス」をスタートしました。長年の仕様でフッ素コーティングがはがれても再コーティングをしてくれる受け皿が出来ました。修理した鍋底には「識別ナンバー」が刻印され、自分の鍋である証となり、愛着のある日用品との関係性がより深まりますね。
以前ご紹介したエッセイ お直しの一コマ話 の様に、この味わい鍋も親から子への素敵なバトンリレーがあるかもしれませんね。
自分のライフスタイルを振り返り、さめた目を持って自分だけの良いモノを選択し大事に長く使う!は次の文化をも育みます。

製品アイテム

片手 18cm

ーAWERDSー
GOOD DESIGN・LONG LIFE DESIGN

価格 ¥24,200(税込み)
サイズ 外径:19.2㎝/内径:18㎝
    長さ:36㎝(取っ手含む)
    高さ:12.5㎝(ふた含む)
    重量:1.4Kg
    満水容量:1.4L(炊飯目安 : 2合)
★リ・デザイン:取っ手とつまみが、環境への配慮から従来のプラスティック製から木製(ビーチ材)に変わりました。

片手 20cm

ユーザーからの要望による追加アイテム

価格 ¥26,400(税込み)
サイズ 外径:21.1㎝/内径:20㎝
    長さ:41㎝(取っ手含む)
    高さ:14.0㎝(ふた含む)
    重量:1.6Kg
    満水容量:2.1L(炊飯目安 : 3合)
★リ・デザイン:取っ手とつまみが、環境への配慮から従来のプラスティック製から木製(ビーチ材)に変わりました

両手 22cm

ーAWERDSー
GOOD DESIGN・LONG LIFE DESIGN

価格 ¥28,600(税込み)
サイズ 外径:23.2㎝/内径:22㎝
    幅:30㎝(取っ手含む)
    高さ:12.7㎝(ふた含む)
    重量:1.9Kg
    満水容量:3.2L(炊飯目安 : 4合)

両手特深 22cm

ーAWERDSー
GOOD DESIGN・LONG LIFE DESIGN

価格 ¥30,800(税込み)
サイズ 外径:23.2㎝/内径:22㎝
    幅:30㎝(取っ手含む)
    高さ:16.7㎝(ふた含む)
    重量:2.2Kg
    満水容量:4.6L(炊飯目安 : 6合)

◇対応熱源
ガス火、オーブン(両手鍋のみ)、ハロゲンヒーター、ラジエントヒーター、※オールメタルタイプのIHヒーター


2002年武蔵野美術大学教授退任記念
島崎信展 図録より

島崎信
東京藝術大学卒
デンマーク王立芸術アカデミー建築科修了
武蔵野美術大学名工業デザイン科名誉教授
北欧建築デザイン協会理事
日本フィンランドデザイン協会理事長
2017年日本・デンマーク国交樹立150周年親善大使

最後に

くらし座の生活デザインイベント
2023年

この味わい鍋のデザインをされた島崎先生には昨年春(2023年)、くらし座で開催致しました生活デザインイベント「日本人の食卓考・デザインの領域を越えて:低座ダイニングのすすめ」の記念講演をして頂きました。

2023年4月27日に開催した記念講演
デジタルアーツ仙台大会議室にて

島崎先生とは1997年に開催されたデンマーク大使館主催の研修ツアーでご一緒させてい頂いて以来、ことあるたびに「De-Signの根っこ」エッセンスについてご指導を頂いてきました。デザインの先生がデザインの話をすることは当たり前ですが、北欧デザイン特にデンマークデザインについて、歴史を踏まえながら社会学的な見地からの切れのある解説に、僕は心惹かれ長年ご指導いただいてきました。秋岡さんの生活デザイン運動とも重なるんですよね。街づくりも含めて僕が関係性のデザインに積極的に関わることになったきっかけになったことは間違いありません。

2024年2月展示会場(東京)にて

今回味わい鍋の復活を知り早速発表展示会場に足を運び、製造元の社長さんや販売元の方々の思いをヒヤリング。そしてサンプルを送っていただき調理実験を重ねてました。

しめじご飯
スペイン風オムレツ

台所で鍋を見つめていると、特にキャセロール(両手鍋)が美しく、先生らしいな~と思った時「デザインにはもちろんアート的要素が含まれるが、決してアートが一番ではないんだよ 君。」という先生の言葉がすっと浮かびました。ただこの世界で科学出来る人は、美しさへの拘りも半端ないですからね!先生。
 開発にあたっての主婦へのモニタリングや「二生もの」というキャッチコピーなど正にノルディックデザインを通して教えて頂いた「De-Signの根っこ」エッセンスそのものだと思いました。記念講演では質疑応答の際、僕の質問から受講者に対して話された内容は「愛着のあるものに囲まれた暮らしの尊さ」でした。

良いものを大切に長く使う

今回くらし座のラインナップとして新たに「味わい鍋」というとてもワクワクする助っ人を迎え、また気分新たに皆様の生活デザインのお手伝いができたらと思っております。

くらし座 大村正















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