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読書感想『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉(後編)』※ネタバレ注意

先週読んだ本は(パルワールドやりた過ぎて感想書くの後回しにしてました…)『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉(後編)』でした。
前回(前編)の続きであり、後半六作の感想を以てSF修正を終わろうと思います。


魚舟・獣舟 上田早夕里

本来は人間と同じヒトゲノムを使い、人間とは別の生物を産み出したという設定の作品です。
作中に登場するのは人類と自分と同一のゲノムを持った兄弟というべき別生物である『魚舟』です。
今作では水没しかけている地球に住む人類と人類の兄弟『魚舟』、そしてそれが変性していった『獣舟』が登場しました。

テンポの良さと短い文章量で完全に世界に引き込まれ、短いながらも過去と未来両方を想像できるいい作品でした。

環境に適応するために人類から新たな生物を産み出す…
めちゃくちゃやべーことしてますねこれ。乗り物にするとかあの世界ではどういう議論がされたんだ…
なんだかゴキブリと人間の染色体の数が一本しか変わらないみたいな話の応用っぽかったですね。


A 桜庭一樹

2010年代のころはアイドルがいずれバーチャル化しそうという話だったんですかね。
まさか一般人がバーチャルユーチューバーと名乗り、人気の果てにアイドル活動しているという不思議な時代になるとは思いもしなかったでしょう。

というわけで、今作は失われた過去の遺産『アイドル』の『アイコンの神』と呼ばれるカリスマ性を現代に呼び起こそうと、元天才アイドルのおばあちゃんをバーチャルの世界に召喚するという話でした。

なんかめちゃくちゃ好きな話でした。カリスマの引き寄せる熱狂と狂気が
愛嬌やカリスマ性が画像や映像を通り抜けてくるというのはVtuberの台頭によりおおよそ一般的になってきた現代ですし、後藤真希がV化したように、似たようになる未来は近いのかも知れません。

元になった松浦亜弥さんは年末年始のアイドル特番で初めて知りました。
今の時代昔のように皆で1つのアイコンを掲げる時代ではなくなりましたね。人それぞれ好きなアイドル『アイコン』が存在する時代になるとこういう話はより空想感漂います。


ラギッド・ガール 飛浩隆

本作はこの作者さんのシリーズものである〈数値海岸〉なるものを作った人たちの話ということでした。

正直、イーガンのディアスポラと同じく3割も理解できたか怪しい、ニワカには難しい作品でした。

人間を仮想空間に作り出すという試みをしている先生と特殊なサヴァン的な女性、この2つがキーパーソンとして進んでいきます。

自分の人格というものは確かに過去の体験が積み重なってできているということは理解できる。
産まれてからの体験を全てデータ化して打ち込んだら自分ができるのか…?という疑問も残るが少なくとも感覚が付随していたら自分は自分だと認識してしまうんだろうなとは思う。
自分を自分だと証明するものは自分が生きてきた思い出でしかないわけだし。にしても果てしない世界でした。

ディアスポラの時もそうでしたが、何も理解できた気はしないが読み終わったときに染みわたり広がるような壮大さや未来感というものがこの手のSFに共通する不思議な感覚ですね。


Yedo 円城塔

江戸っぽい雰囲気と知生体表記のアシンメトリーな感じがすごい混乱させてくる作品でした。とっつきやすい親しみやすい語り口なのに中身が超知能やら因数分解やらとっつきにくい。

芸人らしく笑いを通じて超知能に対抗しようとしている過程で超知能に目を付けられる虎の尻尾を踏んでしまい警告を受けるという話ですよね。

AIの台頭が騒がれる現代ですけど、実際にああいうのが苦手そうなのって笑いとかなきはしますよね。頭良くなりすぎると面白いものは減ってしまうんでしょうか。人類の強みが笑いになる日は意外と想像できるもんですね。


A.T.D. Episode:0 伊藤計劃+新間大悟

まさか虐殺機関やハーモニーを作った方の作品だとは。
まさか原作者の方が亡くなっていたとは。ご冥福をお祈りします。
6~7年前くらいにアニメ映画化されたやつを見ました。ちょうどPSYCHO-PASSを見た流れで同じ制作会社であるI.G.作品で雰囲気が似ていたからという理由でしたが。
もはや内容なんか覚えていないので、機会を作ってみるのもありですね。

あの2作と設定を同じくしているという話でしたが、内容を覚えてない以上設定を覚えているわけもなく…

ただ、内容は短いながらに電子の世界における人の在り方を考えさせられるいい作品でした。心と心の距離は画面を通じてだとなぜかずいぶん遠いもののような気がします。実際に人と会うという者の格別さは機械に浸って生活している人こそ感じるものがあります。


ぼくの、マシン 神林長平

ついに最後まで来ました。表題作である『ぼくの、マシン』ですが、雪風シリーズというシリーズものの特別書下ろしらしく、実際に何も知らない自分でもすんなり世界に入り込むことができました。

自分だけの世界、自分だけのコンピューター、自分だけのマシンを持ちたいという少年心と止めようとする大人。
少年のころの秘密基地みたいな『大人は許してくれないけれど、自分だけの空間が欲しい』という気持ちをドクターとの対話形式で語られるため凄い親近感を感じる作品でした。

今自分もPCでゲームやら調べ物をしていますけど(このnoteもPCからですしね)、言われてみれば自分だけの世界とは言い切れないですね。
ゲームはSteamからダウンロードし、Discordで遊んでるゲームがフレンドにバレ、調べ物はChromeから調べる。PCをおいている場所はパーソナルな場所とはいえ、中身は他者とつながっているわけですしね。

地味に「コミュニケートというのは、戦いよ。」というセリフいいですよね。戦い方を知ることこそがコミュニケーション能力というべきものだと自分も思います。



全体の感想

SFというジャンルは本当に懐の広いジャンルであり、だからこそ各々が思い思いに自分の夢の世界を作り上げるからこそここまで発展し人気になったジャンルなんだなと思いました。

SFって大きく分けて
・機械や超文明などの技術的な凄さを空想しているタイプ
・超文明などに住む人々の心情などを空想するタイプ

があると思っていて、自分は特に後者が好きです。

未来の人は何を悩んでいるのだろうとか、実は技術が発展しても悩みの種は一緒なんじゃないかとか、そういう未来の人間の姿を想像する作品のほうが好きなんだなと思いました。
そういう観点も含めて特に好きだった作品は
『幸せになる箱庭』『鉄仮面をめぐる議論』『五人姉妹』『A』『ぼくの、マシン』
でした。短編集ってあんまり読まないのでいい経験になりました。


というわけで『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉(後編)』でした!

実は傷物語も読み終わっているのですが、二回目に読んだということもあり感想を上げようか悩んでいます。
パルワールド落ち着いたらやろうかな。


それでは最後まで読んでくださった方いらっしゃればありがとうございました。
著者Twitter:まがしき @esportsmagasiki


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