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CRAFTSMANが持つ「真摯な態度」を伝えたい|「301」大谷省悟

インタビュー | CRAFTSMAN × SHIP ステートメント&キービジュアル ディレクター | 「301」大谷省悟

11月23日(土)13:30から、渋谷の国連大学で開催される、食の職人によるトーク&イート・イベント「CRAFTSMAN × SHIP」の公式ノートの第7回は、「301」の大谷省悟さんです。大谷さんは「CRAFTSMAN × SHIP」のステートメントとキービジュアル、オフィシャルサイトのディレクションを手掛けています。「CRAFTSMAN × SHIP」の真摯で力強いステートメントがどうやって生まれたのか。その制作ストーリーを語っていただきました。

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空気感には抜けがある。でもやっていることは本物

――「CRAFTSMAN × SHIP」のステートメントとキービジュアル(上の画像)を制作するにあたって、藤川さん(真至、CHEESE STAND)と山下さん(貴嗣、Minimal)とは、どんな打ち合わせを最初にされたんですか?

まず言葉での擦り合わせをやりました。山下さんと僕は、もともと知り合いで、どちらかというと言葉の人なので(笑)。3人で、こんな感じでどうですか? ということを話していきました。その場で、ある程度の理解ができたので、ざっくりと言葉のイメージやビジュアルを作って、次にお会いしたときにお見せしました。

――「CRAFTSMAN × SHIP」を形にするにあたり、最初にもたれたのは、どのようなイメージだったのでしょうか?

2018年の夏に行ったアメリカの西海岸に行きました。

その時に、クラフトマンシップという言葉を標榜しているような店に何軒か行きました。そこでは、職人の人たちがオープンにカジュアルに、いろいろな領域を越えて繋がっていました。そして、それが多くの人に支持されていたんです。

彼らのやっていることの伝え方やお店の空気感にはすごい抜けがあるのに、やっていることは本物。「CRAFTSMAN × SHIP」のイメージはその印象に近いなと感じていて。彼らの空気感を自分自身カッコいいなと思っていたので、藤川さんに「その辺のイメージでいるんですが、どうですか?」と作ったものをお見せしました。藤川さんからは「そのイメージであっています」といってもらえて、全体としては大きなズレなく、細部をチューニングしていくことができました。

――「301」が考えるデザインとはどのようなものでしょうか?

「301」のデザインの定義は、「何かをやりたい誰か」の存在を多くの人に伝えたり「ある人にとって意味のあること」を社会のなかで実現したりするためのメッセージを、言葉やビジュアルを通して伝えていくということです。「どうクライアントの課題を解決するか」というアプローチではないんですね。

あるいはまた、日ごろ飲んだり食べたりしているような場所から、なんとなく立ち上がった話を仕事として形にしていきます。「301」が入居する「No.(ナンバー)」にはカフェバーとデザインオフィスという二つの顔があるんですが、ここがまさにそれを実現しています。この場所に繋がることで、モノづくりが生まれるという考え方ですね。

「No.」のメンバーは、たとえ飲食チームに属していたとしても、この店で生まれる他の仕事やプロジェクトの一員であるという意識があります。カフェバーとデザインオフィスの垣根を越えて、それらに関わりたいと思う人たちの集まりです。その意味で、すでに「No.」のメンバーは「CRAFTSMAN × SHIP」のメッセージに共感し、やりたいと思っている人たちで構成されているといえますね。

「CRAFTSMAN × SHIP」のテーマに関しては、藤川さんと山下さんからお話を聞いて理解を深めていったのですが、その一方で、自分たちのなかでも大事にしてきたものでもありました。考えていることは一緒だったなと思いました。

クラフトマンたちの新しい船出

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――藤川さんからのリクエストとして、SHIPを船の表現にできないかというリクエストがありました

ロゴのモチーフとして、船のイメージはよく使われます。しかし「CRAFTSMAN × SHIP」のコンセプト自体が持つ情報量が多いので、そこに船のイメージをどう掛け合わせるか悩みました。「職人が船に乗り込む」というストーリーを入れること自体は可能なんですが、それだとコミュニケーションの情報が増えてしまうなと思ったんですね。そうなると、ビジュアルだけでなく、言葉で紐解く必要があります。

最終的には、ロゴに船の要素を入れ、タイトルの下部に「クラフトマンたちの新しい船出」という抑えのコピーを入れることで、SHIPと船(シップ)の関係をクリアにしました。

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――上部の円形のロゴはかなりシンプルですが、主張を感じます。どういう意図でデザインされましたか

まずは、クラフトマンにフォーカスすると、金槌等の道具や手といったモチーフが出てきて、どこかポートランドっぽい表現になるんです。でもそれって、散々やられてきた表現で特徴が出ない。

そこで今回は「船に乗り込む」というストーリーにフォーカスしました。一度デザインを船の方に寄せ、そこにクラフトを感じさせる要素を盛り込んでいったんです。

――タイトル文字の「F」と「T」、その表現の狙いは?

CRFTSMANSHIPという言葉自体は珍しいものではありません。シンプルな言葉だからこそ、ロゴにこだわりのポイントを入れてひねりを利かせる。ほかのデザイナーさんが見ても「かっこいいな」「ちゃんと作ってあるな」と感じてもらえるニュアンスを入れようと思ったんです。ここはデザイナーとしてのこだわりみたいなものです(笑)。

――背景に使われている印象的な写真は、どのように選んだのですか?

モノづくり、CRAFTSMANSHIPという言葉には、茶色っぽい色と、軽いんだけど軽すぎないというイメージを抱いていました。本物感というのでしょうか。選んだ写真には、その印象がありながら、シチュエーションとしてのわかりやすさも求めましたね。

「CRAFTSMAN × SHIP」というカルチャー

――「CRAFTSMAN × SHIP」が持つ世界観を、大谷さんはどうとらえていますか?

藤川さんと山下さんがいらした最初のミーティングでは、まずヴィジョンの話をしたんですよね。やりたいイベントや思想はわかる。じゃあ、それが実現した状態ってどういう状態なんだろうっていう会話を。そのとき僕は「本物社会」という言葉を使いました。

「CRAFTSMAN × SHIP」のコンセプトが広がった社会は、「本物社会」です。趣味的に、自分の好きなモノを買っているのではなく、あらゆる社会インフラのなかで、みんながこだわりを持って、真摯に作られたモノを使う社会。それが「本物社会」なんじゃないかと思ったんです。

そうしたら、山下さんから「無印良品っぽい感じですね」っていう話が出たんですよ。じつは、そのとき、僕の頭のなかにも無印良品のことがあったんです。わりとシンプルなビジュアルと、純粋な言葉で真摯に語りかける、みたいな。ただキャッチーな言葉で語るというのではなく。

――そのとき脳内にはどんなイメージがあったんでしょうか

無印良品のコーポレートメッセージの一つに「水のようでありたい」というものがあります。

この「水のようにありたい」のビジュアルイメージが捉えるのは、ニューヨークのシーンです。山下さんが「無印良品みたいに」といったとき、これを思い浮かべていたかは分かりませんが、僕自身はこのビジュアルを思い出していました。このビジュアルが僕はとにかく好きだったんですね。

このメッセージのポイントは、無印良品の商品を語らずに、生活価値基準の思想のようなものに触れている点です。しかも、ある種の真摯な態度がある。バーンとおしゃれなビジュアルに、バーンとキャッチコピーを入れるのでもなければ、何かに固執しすぎたマニアックな世界でもない。開かれた思想や価値観がそこにはあるんだよ、っていうことが伝わってきます。

「CRAFTSMAN × SHIP」のデザインも、この「水のようにありたい」がうあったように、モノというよりは、思想やカルチャーの方向に振ったらいいのかなって思いましたね。

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意味を価値に変えるデザイン

――「CRAFTSMAN × SHIP」には、新しい時代のCRAFTSMAN像を描き出そうというテーマがあります。大谷さんが考える「新しい時代のCRAFTSMAN」とはどのようなものでしょうか

「301」ではよく、「意味と価値の違い」という言葉を使うんです。

たとえば、人は、やりたいことをやるときや、家の中にいるときには、自分にとって意味のあることをやろうとします。しかし、一歩家の外に出ると、社会的に価値があるかどうかという基準に、無意識的に変わってしまう。社会的価値は、合理的に判断できるので、ビジネスの場でよく使われますが、実際には、社会や他人に価値判断を任せているとも言えますよね。

そのような時代だからこそ、CRAFTSMANという人たちには、「自分にとっての意味」がすごく重要になってくるんじゃないかと思うんです。自分にとっての意味を自分の中だけで終わらせず、社会的な価値として転換していく。それが「CRAFTSMAN × SHIP」のコンセプトなんじゃないかな、と思っています。

職人には、内に籠るようなイメージがあります。これは、自分にとっての意味を信じて突き進むことが、ときに自己完結になってしまったからでしょう。しかし、その意味を社会的な価値に転換しようと思ったら、どうやって伝えるのかという話が必要になってくる。

――それをデザインしていくのが「301」なわけですね。

はい。自分たちは、その転換を起こすために、デザインや言葉の力が必要だと思ってるんです。「意味と価値」という言葉は自分たちでもよく使っている言葉ですが、今回のプロジェクトのなかでも重要なんじゃないのかなと思っています。

――デザイナーとしてCRAFTSMANに共感する点があるとしたらどんなところでしょうか?

CRAFTSMANの方と本物感を同じにして考えては失礼かもしれないですが、作るもの自体に職人的にこだわっていく姿勢は、自分たちのアイデンティティのなかにもけっこうあるので、それにはすごく共感できます。

じつは、飲食のCRAFTSMANたちと出会ったのは、その感覚がきっかけでした。おそらく僕たちは、事業を広げることだけを考えている人たちに会ってもシンパシーを感じないと思うんです。一方、自分たちのことをきちんと外の世界に伝えて、本物をやろうと考えている人たちに出会うと、お互いの領域が異なってもうまくいく。根本の姿勢が共通しているから、一緒にモノづくりに入っていけるんですね。

「No.」と「301」がやっているように、デザイン会社が飲食をやろうとするケースはあります。ただ、普通は、コーヒースタンドを併設しますとか、おまけ感覚になりがちです。でも、うちは食を扱うのなら飲食店としてきちんと勝負していけるような場所にしたいと思ったんです。やっていて恥ずかしくないものでないと、世に問いたくない。そういう部分のこだわりですね。

「CRAFTSMAN × SHIP」というコンセプトを伝える

――こんな人が「CRAFTSMAN × SHIP」のイベントに参加するといいよ、というのはありますか?

純粋にこだわりたいことと、数値目標のギャップについて思うところがあるひとなんてどうでしょう。僕らも「No.」を作ってから、自分がこだわりたいポイントと、実際の数字上の課題はムチャクチャあるなと思っていて。そういう内容を共有したり語ったりできる場所が、実はあまりないんですよね。

僕の知り合いでも、IT業界から飲食業界に入ってきて試行錯誤している人がいます。その彼も理想と現実のギャップを乗り越えるための情報共有の場がほしいと話しています。「CRAFTSMAN × SHIP」には、コンサルタントのキャリアを積んだ山下さんもいるので、そういった話を聞いてみるのもいいんじゃないでしょうか。

――「CRAFTSMAN × SHIP」の活動を続けていくうえで、課題があるとすればどんなことでしょうか?

食に関わるイベントはいっぱいあります。楽しんで帰る人たちも多いと思います。しかし「CRAFTSMAN × SHIP」は、ただ楽しかったで終わるだけではなく、コンセプトの部分がきちんと伝わらないといけない。いつまでも心のどこかに残っていて、何かの話の拍子に、そういえば…と「CRAFTSMAN × SHIP」の話をしたくなるような状態。

だからこそ僕は言葉に重きを置いたコミュニケーションをしてもいいのかなと思います。言葉に目を留めたあと、すぐに反応するのではなく、それをきちんと受け止めてから反応してもらう。そんな真摯な反応を引き出す状況をいかにつくれるかが重要な気がします。

食という領域に限らず、いろんな領域から、CRAFTMANの考え方自体に共感してくれる人が集まるイベントになれば、「CRAFTSMAN × SHIP」のコンセプトが横に広がっていく可能性があるんじゃないかと思っています。それはまさに、デザイナーだった僕が飲食のCRAFTSMANに出会ったように。

お互いまったく違う領域にいるのに、このイベントで出会って、意気投合して仲良くなった結果、最終的に飲食店を経営するようなことは、実際あり得ると思う。コンセプトに共感しつつも、普段の職業では出会わないようなとの出会いになると、すごいクリエイティブな場になるんじゃないかなと思います。

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CRAFTSMAN × SHIP(クラフトマンシップ)
【出演】 CHEESE STAND ー 藤川真至/Minimal ー 山下貴嗣/365日 ー 杉窪章匡/FUGLEN TOKYO ー 小島賢治/and You.
【日時】 2019.11.23 sat open 13:00/start 13:30
【参加費】 3000円(税込)
【場所】 青山・国連大学
【協力】 ファーマーズマーケット・アソシエーション
13:00 開場
13:30 第1部 CRAFTSMAN TALK
藤川真至/山下貴嗣/杉窪章匡/小島賢治 各20分
4人のCRAFTSMANが作った商品を食べながら、そこに込めた想いや開発の秘話などを聞くことができます。
15:20 第2部 交流会
藤川真至×山下貴嗣×杉窪章匡×小島賢治
CRAFTSMANと参加者の質問を中心としたディスカッションのほか、各店のブース出店もあり、商品を実際に購入することができます。
16:30 終了
※内容は予告なしに変更になる場合があります。
※イベントに大谷さんは登壇されません。

「CRAFTSMAN × SHIP」前売りサイトはこちら

おおたに・しょうご
映像プロダクションにてCM制作に携わった後、2013年からフリーのプランナーとしてデザイン・アート・食・音楽・空間など領域横断的にプロジェクトを主導。手掛けたプロジェクトは数々のメディア掲載実績を持つ。2014年、株式会社301を設立。2019年9月、代々木上原にカフェ・バー業態の「No.」をオープンさせ、「301」をその店内に移転させた。

構成・文・撮影/江六前一郎 edited by MAGARI


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