【エッセイ】私の母は奇想天外すぎる
母は結構な人生を歩んできている。
そんな波乱万丈な人生を生きてきたのがウソかのように、奇想天外な言動が多いのが私の母だ。
まず、母はNo人見知りである。
誰彼構わず声をかけるのだ。
私が独身の頃、母とはいろんな場所に旅行に行った。
普通人に声をかける時というのは、道を尋ねたりなど必要なことがあるときだけだと思う。
母の場合、カフェにイケメンがいたら普通に「あなたイケメンねぇ」と声をかける。
10代の頃は恥ずかしかった私も、今じゃ可愛い女性店員に声をかけている。遺伝とは怖い。
以前京都に旅行に行った際に、レストランへの道を聞いたことがある。普通はコンビニとかで聞くものだと思う。
母は何を思ったのか、食べる予定のないレストランの店員さんに、別のレストランへの道を聞いたのだから驚きだ。
だいぶ失礼だと思うが、快く対応してくれた。
あの時はありがとうございました。
こんな感じの母の奇想天外エピソードは、星の数ほどある。
母が何年も前からハマっているのは、オンラインで楽しむアプリゲーム。
タイトルは書かないが、みんなで城を落としに行くゲームだ。
結婚してから度々帰省している私は、実家に泊まったり夕食を食べたりすることがほぼない。
なぜか。母が城を落としに行くからだ。
母は現在64歳。オンラインで一緒に遊んでいるのは、大学生や20代後半の人が多いらしい。
みんな、母の年齢は知らない。楽しそうで何よりだが、もう少し言い方があるのではないかと思う。
夕方になると決まって「今から城落とすから、あんた帰りん(帰りなさい)」と言われる娘の気持ちを考えてほしい。
ショッピングモールに行くときに気を付けるべきはエスカレーターだ。
私たち姉弟がまだ学生だった時、下ってくるエスカレーターを上りだと思って駆けだしていった母がこけた。
幸いケガはなかったが、案の定大きな声で「やだぁぁぁぁ!!恥ずかしい~~~」と言いながら笑い転げている母がいた。
恥ずかしいのは私たち姉弟ではないだろうか。
思春期真っ只中だった私は無視し、弟は踵を返していた。
こけると言えば、神社だ。
その日は土砂降りだった。
大勢の人が参拝するために、傘をさして歩いていた。
側溝にある滑りやすい道・・・。
あれの名前が分からないが、とにかく、あれのせいで母が尻もちをついて転んだ。
みんながよけていたのに、母は思いっきりすってんころりんしたのだ。
土砂降りなのでお尻がビシャビシャになった。
さらに追い打ちをかけたのが、見ず知らずのおじさんだった。
走らせていた軽トラの窓をわざわざ開け、「派手に転んだなぁ!!」と大きな声でツッコミを入れてきたのだ。
あの時の光景はいまでも忘れられない。
親戚一同は笑いながら母を助けたが、母はプリプリ怒っていた。
「みんなひどい!痛いのに!!あのおじさん何!?ひどい!」と言いながら、ビシャビシャに濡れたズボンで参拝した。
ちなみに、この時も無傷だった。
母は打撃に強い。
どこかに行ったときに何かを忘れるのは、母の日常だ。
財布、携帯、ひどい時には靴を忘れたこともある。
その時はどこぞのスリッパを履いていた。
旅行に行ったときに1番驚いたのは、カバンを置き忘れたことだ。
すでに帰りの電車に乗っていて、母も私もパニックになった。
私の携帯で、その日行ったあらゆる場所に電話した。
ありがたいことに、お土産屋さんが預かってくれていた。
そこまではまだよかった。
問題はこの後だ。
駅で電話をしていた母が消えたのだ。
持っているのはもちろん私の携帯だ。
まさかと思った。
探していたら、遠くで声がした。
大きな声で自分の個人情報を話す母がいた。
驚きすぎて、後ろから頭をはたいた。
夢中になると周りが見えなくなるのは昔から何も変わっていない。
母が携帯を持ってどこかへ行ったらどうやって連絡を取るのか、まで頭が回っていなかったらしい。
私が母の話をするときに必ずといっていいほど出るエピソードがある。
私が高校生の時、母はとある役者さんにどハマりしていた。
その日はそんな彼のため、東京まで舞台を見に行っていた。
内容はシリアスな喜劇といった感じ。
舞台上の演出で「ハッピーバースデー」の曲が歌われた。
もちろん舞台なので、役者陣の演技だ。
隣に座っていた母がなぜか歌いだした。
「ハッピバァスデートゥーユー♬」と軽快に歌っていた。
驚きすぎて言葉が出なかった。
お客さんたちが一斉にこちらを向いた。
演出か何かだと思ったに違いない。
私はハッとなって母に耳打ちした。
「お母さん!声に出して歌ってるよ!」と。もちろん迷惑にならないように小声で、だ。
母は割と普通の音量で「やだ!!歌ってた!?恥ずかしい~~」といつも通り、通常運転をしていた。
さすがに終わった後にお説教した。
みんな自分の時間とお金をかけてこの舞台を見に来ている。中には1回しか見れない人もいる。そんな人に迷惑をかけてはいけないと。
母は、全く反省していなかった。
「仕方ないじゃん、声が出ちゃうんだもん」だそうだ。
その後もいろんな舞台に行っているようだが、人様の迷惑になっていないことを祈るばかりである。
母は今でも元気で、いろんなところに旅行に行っては写真を送ってくれる。
私の友人は、私ではなく母に会いに来ることもあった。
そんな時は大体、ドアをちょっと開けて半分だけ顔を出してニヤニヤしていた。
いつでも豪快に笑い、周りをぱぁっと明るくできる人だけど、もう少し慎重に動いてほしいなと思う娘なのだった。
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