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ムーンリバーをどう訳す?

 横浜人形の家で娼婦をイメージした「ヒトガタ」つまり人形を見た。と英語で表記する場合、娼婦という単語がわからなかったので、英語の教師に聴いてみた。英語で娼婦をいささかブンガク的には何という?そうだね、と彼が白いボードに書き出した単語は5つある。
prostitute
hooker
whore
street girl
sex worker
アメリカでは、whoreは侮辱を含み、street girlは禁句と聞いた。正式名称としてはsex workerを用いるという。workerは働く人を意味するため、労働の一種と捉えられるのかもしれない。
何年か前にMonsterという映画を観た。業にまみれた女を描く哀れな映画だ。あるいは横浜メリーを伊勢佐木町の映画館で見た。
娼婦、あるいは娼婦性のようなもの、に関心があるらしい。すべて女は娼婦の要素を含む、などと偉そうに述べるつもりはない。ただ娼婦という存在を負の遺産としてではなく、崇高なものとして敬いたいとの欲が私の中にある。理由はわからない。

sexという単語を見ると、多くの日本人、特に年配層は眉をひそめるのではないか?エレベーターの壁に、あるいは地下街の片隅にひっそりと設置された便所の壁に、誰かがこっそりスプレーでsexと表記する不思議の国、JAPAN。米国ではsexは性を一般的に意味する。眉をひそめる単語ではない。

むしろ。
pornography。ボルノグラフィー。
この単語はアメリカでは大いに嫌がられるらしい。変態的な嗜好を匂わせる。日本ではこの言葉をもじったポルノグラフティという名のバンドが好まれている。狙ってつけた名前であろう。いい悪いを述べているのではない、言葉に対する感覚が、アメリカと日本ではどうしてもズレてしまうことを純粋に面白く思うだけだ。たとえ狙っているとしてもだ、ズレが生ずることに変わりはない。

あるいは。
yellow monkey。イエローモンキー。
私も昔、ずいぶん聴いた。日本歌謡曲の要素をはらんだドラマティックなメロディと繊細美的尖がった歌詞は今でも新しい。しかしアメリカ人はこのバンド名には抵抗がやはりあるという。日系のみならずアメリカに住むアジア系人種の多くがこの言葉に酷く傷つき耐えてきた悲惨な歴史を持つ。日本人のシニカルがアメリカ人には通じない。そういうケースもある。繰り返すがいい悪いを述べているわけではない。

オフコース。
日本人なら誰もが知るだろう、かつて小田和正氏が率いたバンド名だ。長年小田さんを慕っている夫にオフコースを語らせると異様に時間がかかる。ゆえにほんの少し語ってもらった。
彼らにはスタジオを作りたい、あるいは米国に進出したいとの夢があった。ある時、東海ラジオが用意した番組で小田さんがアメリカ人の女の子に「オフコースというバンド名をどう思う?」と、もちろん英語でたずねると、女の子は「とても素敵です」と答えたという。小田さんがなぜオフコースという名を選んだのかがわからないと半分酔った夫に問うと、「野球チームの名前らしいよ」とのことであった。

ポカリスエット。
この商品名をアメリカ人はどう思うだろう?
汗を飲むの?嫌だよそんなの。
違うか?

言葉は深い。単語ひとつに物語が隠れている。The Sunはもちろん太陽だが、私の頭にさっそく湧き出るイメージは、The Sunと太陽のあいだにわずかとはいえ埋めることの難しい奇妙なズレがある。

Moon River
素敵な歌だ。
ムーンリバーをどう訳す?

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