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ルシファーと「赤い靴」の娘たち

 陽のように美しいルシファーが
 こちらへおいでと誘うから
 娘は身体を火照らせて
 ルシファーの
 愛しい男の首の根に
 果物のように
 飛びついた。
 娘の身体はフルーツのように
 たわわに揺れて
 それから
 あたりは静まりかえる。


 陽のように美しいルシファーは
 かすみに似て
 汽笛に似て、
 あまりにも懐かしく同時に味気なく身勝手で

 彼のあのステキな微笑を
 ルシファーの涼やかな眉を
 娘は永遠に失った。

 沈黙にたえかねて、
 慟哭にたえかねて、
 やがて
 娘はかれんに舞うことを覚える。

 アンデルセンは娘に「赤い靴」を与えた。

 「赤い靴」の娘たち。
 ルシファーを失った娘たち。
 いまでも
 こことは異なるどこか遠い彼方を
 「赤い靴」をはいて、
 在る場所から別の場所へと去ってゆく。

 「赤い靴」の娘たち。
 ルシファーを待たない娘たち。
 もうなにも待たない娘たち。

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