400字ショートショート「天気の目次」
二階には私専用の本棚がある。リスのブックエンドに挟まれた、大好きな恋愛小説を入れておく場所。そこからシェイクスピアの本を全部取り出すと、とっておきの一冊が現れる。空模様を操れる魔法の本だ。
あまり使う機会がなかったそれを取り出してみる土曜日の朝。きっかけは大切な親友からの電話だった。
「どうしよう。初デートなのに雨みたい……」
彼女の長い片想いを私は知っている。絶対成功してほしくて開いたのは晴れの章。ページをめくった瞬間、雨雲は素早く街を去っていった。
「すごく楽しかった。ありがとう」
笑顔が見られて私も嬉しい。それ以来、私は親友の恋を助け続けている。デートの内容によっては雨を降らせたことも。
「今日は手助けはいらなそうね」
窓辺に立つ私が着ているのはふんわりした白のワンピース。春にはすみれの絞り汁で薄紫に染めて、新しい季節を感じよう。
そのうち私も恋人が欲しい。でも、望む天気が親友と違ったらどうしよう?