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"マネジメントに感情は不要"安藤広大「リーダーの仮面」

読書メモ#20です。今回はプレーヤーからリーダーへステップアップする人が持つべき"リーダーとしての心構え"をリアルに書き綴り昨年20万部を突破したベストセラー本「リーダーの仮面」を読みました。

内容を一言で言うならリーダーとして振る舞うためには感情による情緒的なマネジメントをなくし、冷酷な仮面を被ってチームをまとめなくてはならないというもの。
最近他にもリーダー論の本を読んでいたのですが、それらと比べてもなかなかエッジがするどく興味深かったため、少し自分の思ったことも交えながら内容をメモとして書きとどめておこうと思いました。
結構本書の内容に内心共感しづらい部分もあり、そういった場合noteにまとめたりしなかったのですが、今回は自分の感じた違和感も含めて書きとめてみようかと思います。

ところで、完全に自分の話になるのですが、私の現在の会社での立ち位置は完全にプレーヤーではあるものの、場面によってリーダー(マネージャー、管理職)的な決断やマネジメントを任されることがあります。

特に転職して以降は会社のプロジェクトの中ではデザインの責任者として(と言うと聞こえはいいのですが単に社内に他のデザイナーがいないだけ、)デザイン業務全体の工程管理や他の方への作業依頼を行ったりする場面が多くなり、基本的にはプレーヤーだけど部分的にリーダーとしての振る舞いを求められるような立ち位置で仕事をしています。

また、最近では社内ハッカソン(のようなもの)に参加した際も成り行きでリーダー的な動きをせざるを得ないような状況となってしまいました。
さらには仕事外で自分が立ち上げたコミュニティの運営なども行っており、全くガラではないはずなのに気づいたら周りに自分がリーダーと認識されているような場面が生活のところどころでスポット的に出現してきました。

これまで、リーダーというものは自らが望むか、周りから適性があると見込まれた人があるタイミングで指名されて就くポジションだと考えていました。

でも自分は人との関わり合いも他人のスケジュール管理もあまり得意ではないため、できることならずっとプレーヤーとしてい続けたいと思っていました。
しかしどうやら「リーダー」という役職は、本人のやる気や適性の有無に関わらず、そして誰からも指名などもされることなく"気づいたらなっている"ようなものなのだと感じるようになりました。

とはいえやはりリーダーとしての振る舞いを求められることは自分にとっては大きな負担で、年末にかけてはかなり疲弊してしまっていました。
そこで、何か突破口を得たいという気持ちと、この苦労を誰かにねぎらってもらいたいという甘えから何冊かリーダー論の本を読んでいる中でこの本と出会いました。

この類の本を読んでみるとリーダーとしての心構えはもちろんですが、プレーヤーとしてリーダーとどう付き合っていけばよいのか、リーダーがどのようなことを考えているのか、と言ったことも理解ができるようになり、むしろ新入社員のときにこのような本を読んでおけばよかったとも思えるような内容でした。

30代でプレーヤーとしての限界が来る

先程も述べましたが、リーダーとは本人の意志と関係なく、そして音もなくいつの間にか壇上に上げられているようなものだと自分は考えています。

本書ではプレーヤーとしての限界は30代に訪れてしまうため、全ビジネスパーソンがリーダーとして働かなくてはならないときが来るとも言っており、やはりリーダーとしてのどうあるべきかというマインドセットはどんな人でも必要なものと考えられます。

プレーヤーとして仕事がノっているときは、このままずっと仕事を続けていたいと思うものですが、いつかは限界が訪れることを見据えて準備をしておかなければなりません。


"自分の仕事への姿勢から仕事を学ばせること"はダメ絶対

リーダーになりたての人は往々にして、自分がプレーヤーとしても仕事をしながらリーダーも兼務をするような「プレイングマネージャー」のような立ち振舞いを求められることになります。

そのようなリーダーにありがちな勘違いが、多くを語らず自分の仕事の成果を見せることで部下を奮起させようとする"背中を見て学ばせる"タイプを良いリーダーだとする風潮です。

一見するとそういった口数少なく仕事で語るリーダー像というのは、クールでカッコイイ印象もありますが、本書では明確にそれはリーダーとしての責任放棄だと否定します。

リーダーの仕事は会社の利益追求のため、明確な言葉とルールで部下を管理することであると本書では述べられています。

チームの一体感、活力というのはチーム内の仲の良さや信頼感など内発的な動機ではなく、会社の業績向上がチームの貢献として評価されたときに生まれる外発的なものであると本書は述べており、そのためにチームはまず会社の利益向上を第一目標として、そのためにチーム内は徹底的なルールによる管理が必要と言います。

しかしこれは一見すると口うるさく部下を管理することで個人が萎縮し、能力の発揮を妨げるのではという批判も想定されますが、かえってこのようなマネジメントを行ったことで部下のストレスが減り、仲間意識が芽生えて、チームが効率的に動き出したという事例が多くあるそうです。以下で述べます。


誰でも守れるルールは徹底的に守らせる

本書ではルールを「行動のルール」と「姿勢のルール」という風に分けて考えています。

「行動のルール」というのは”今月の売上を前月比何%上げる”と言った会社の目標と連動したものであり、これによって会社からの評価が決定されるようなもの。

一方「姿勢のルール」とは”ミーティングには3分前に集合する”や”朝は挨拶をする”、”遅刻をしない”と言った誰でも守れるようなもののことを指します。

どちらのルールも必要なものではありますが、リーダーの最も大事な仕事としてまず姿勢のルールを明文化し、徹底的に守らせるように管理することだと言います。
これができなければリーダーの資格がないとさえ言います。


ルールがあることでチームが駆動する

前述の通り、このようなルールの下で管理することによって、チームの成果が上がると論じられています。

まず、文章化されたルールがあることで、「このルールさえ守っていればいい」ということが明確化され、メンバー間に不要な空気の読み合いが発生しなくなります

さらに、同じルールを守っている同士という連帯感を生み出す効果もチームにもたらすと本書では述べられています。


感情を横に置き、評価と管理を徹底させる

そして、リーダーはそのようなメンバーたちを「ルールを守ったかどうか」「当初の目標とした成果があがったのかどうか」でのみ判断をします。
そこに一切の個人的な感情を含めてはいけません。

「彼とは仲がいいから」や「普段仕事を頑張っているから」などと言った感情をもとに評価の軸をブラしてしまうと他のメンバーからの反感を買い、ひいてはチームの崩壊を招きかねません。
そうではなくても、リーダーの感情ひとつで評価が変わってしまうとしたらそこでも空気の読み合いが発生してしまい、結果的に不要な負担をメンバーへ押し付けることになってしまいます。

そのため、仮に部下がルールを守れなかったときは言い訳に耳を傾けるのではなく、次にどうすればルールを守れるのか、といった1点にのみ耳を傾けます。
例えば遅刻してきたメンバーが「実は最近残業続きで寝坊してしまい、、」などと言ってきたときに言うべきは「そうか、あまり無理しないようにね」ではなく「では次にどうすれば遅刻しないようになりますか?」ということを追求し、ルールを徹底させなければなりません。


相談は「部下が決められないこと、決めてよいか迷っていること」にのみ応じる

これはどちらかというとむしろ部下(プレーヤー)側の心構えとしても大切かと思った部分なのですが、リーダーが相談に応じる場合は「部下の権限では決められないこと」か「部下の権限で決めて良いのか判断ができないもの」のみに応じなければならないということも述べられていました。
この点においてもやはりあくまでリーダーは感情を横においたルールによる判断が求められます。

チームが会社の利益追求のために動く部隊であるため、組織的には末端にいるプレーヤー個人で判断可能な部分にはどうしても制限は出てきてしまいます。
そう言った部分に関してはリーダーはきちんと自らの責任で判断をし、プレーヤーを導いていなかければなりません。

一方でプレーヤー自身が判断しなければならない相談がリーダーに向けられることもあります。例えばお客様への提案内容や資料の構成をどうするかなどは本来プレーヤーの判断で行わなければならないものだったりします。

そういった相談に対しては、リーダーのほうから突き放す必要があります。「それはあなたが解決すべき問題であるため、あなたで判断してください」と。
逆にプレーヤーの視点にたてば、そういった問題以外に関しては自らの責任で判断を行う必要があり、そういった振る舞いをリーダーが求めているということを念頭に仕事を進めていかなければならないでしょう。

それによってプレーヤー自身への責任感が醸成され、リーダーとしての不要な判断を行うこともなくなると言います。


感想:本書の主張に疑問。マネジメントはAI、リーダーにはより人間的になる?

本の内容は非情に合理的で、確かにリーダーとして振る舞う人の心構えを理解することができました。組織の中で、プレーヤーとしてどう立ち回ればよいのかも考え直すことができました。

しかし、同時にここで語られるリーダー像は(著者も繰り返し語っていますが)機械的な冷たいイメージを持ち合わせているのも事実です。
決められたルールに従って人に○×をつけるのは、リーダーというよりはシステムに近い印象を受けました。
合理的であるがゆえに、「それってもうAIでよくない?」という疑問も同時に抱かずにはいられませんでした。

この本で語られている内容の一部に「"仕事の適性"などは幻想で、ルールに従わせて実直に仕事をこなしていけば誰でもいずれ成果が出るものだ」というものがありました。
仕事の大半は特別な技能などが必要なものではなく、どんな人でも続けていれば成果が出せるようになるはずだから、チームを率いるリーダーとしてはとにかくプレーヤーには平等公平なルールの下で粘り強く仕事に取り組ませてみよう、という主張です。
この部分がこの本を読んでいたときに最も引っかかった部分でした。

確かに世にある仕事で特定の誰かにしかできないものはほとんどなく、誰にでも再現可能な作業であるということはもしかしたら事実かもしれません。

しかし、だからといって「会社のため、チームのため」と言って個人として成果が出ないことをずっとやらせ続けることが良いとは自分は思えませんでした。
できるかできないかの二元論で言えば「いずれはできるようになる」という仕事が大半ではあるかもしれませんが、その段階まで行くようになるための時間的なコストや、成果を上げるためにかかる心理的負担には大きな個人差があるはずです。

例えば自分は大人数の中で周りに足並みを揃えて仕事をするのが苦手です。細かい数値の入力などの書類作成でも必ずどこかしらミスをしてしまいます。超めんどくさがりなので細かいメッセージやメールのやり取りが苦手です。

これらはもちろん長く続けていけばいずれある程度の段階までは克服できるものかもしれませんが、そこまで長い時間をかけてようやく人並み程度のレベルに行くのであれば、自分だったらデザインや企画など一人でもくもくと手を動かしたりアイディアを考えるような仕事をしているほうが楽だし、何倍も会社へ貢献できる自信があります。

もっと言えば仕事だけでなく"誰にでも守ることができる"と本書の中で断言されていた「姿勢のルール」に関しても自分は少し疑問だったりします。
例えば本当に「始業時間に遅刻をしない」というルールは全員が守れるものなのでしょうか。

人によってはどうしても朝が弱いという人がいます。それは本人の意志や習慣の力でどうにかなるものではなく、遺伝子レベルの問題で人より多くの肉体的、心理的な負担がかかる人がいます。

このように人はそれぞれグラデーションがあり、リーダーはそのグラデーションにも多少は目を向けて、一人ひとりが最大限力を発揮できるようにする環境づくりも行っていく必要があるのではないでしょうか。

こういった主張をする自分はどちらかというと前時代的で、本書が支持された理由はそういったものをキッパリと否定している斬新さにあるようにも感じるのですが、どうしても自分は腹落ちしきらない部分が残ってしまいました。
繰り返しになりますが、「それってAIでいいんじゃない?」と思わずにはいられません。

しかしもしかしたら、そもそもこの本書で書かれているような中間管理職的なマネージャーの仕事はシステムにまかせてしまうのが良いのでは、という問題提起もはらんでいるように読み解けました。

感情によるマネジメントを否定し、部下と仲良くなることを否定する本書ですが、仮に本書で語られるようなマネジメント業務をAIに置き換えることができた世界で中間管理職に求められてくるのは、もしかしたら本書とは真逆の個人の感情による情緒的な管理になってくるのでは、ということを考えたりしました。

個人個人の特性はその人の能力や思想、それまで歩んできた人生などが複雑に絡み合ってかたち作られており、そこまで踏み込んでAIで管理することは現状難しいため、その部分に血の通った人間のリーダーが入り込む余地があるように感じました。

もちろん人間が入り込む以上、そこには意図しない差別や贔屓がどうしても発生してしまい、それらは本書でも書かれている通りチームの不和を生み出しかねないものですが、そのあたりを上手くAIがサポートしながら適切にチームが運営されていくような未来を自分は思い描きました。

きっぱりとした物言いと合理的な理屈で非常に論理がクリアな本ではあるのですが、この本が非常に支持されている現状に少し怖さも感じてしまいました。

リーダーって本当に大変だなぁと考えさせられた1冊でした。(小学生並みの感想)

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