chatGPTの力を借りて完成させた発明は特許が取得できない?政府の資料を読んで今からできる対策を考えよう
なにそれ?知らない、という方はこちらの記事を先に
AI生成物が知的財産権を獲得できるか否かの議論はまさにいま世界中で行われているところであります。ただ、AIが完全に自律的に生成した物に関しては誰も権利を得られないというのはコンセンサスになりつつあると思います。
アメリカやドイツなどでも発明者をAIとした訴訟が行われていますが、日本の法律感覚に照らせばAIはそもそも人(自然人)じゃないから発明者にならないだろう、特許法29条1項柱書には「発明をした者は」と書いてあるので、発明者は「者」でないとダメだろうというわけです。
ここで、問題になるのは、人間がAIを利活用して発明をし、発明者を人間として特許出願した場合です。いま政府知的財産戦略本部でも検討されているのはこれです。
そんなのは黙ってればわかんないんじゃないの?というツッコミに関してはその通りでしょう。でも黙っていられない人もいます。この人みたいに↓
正直、個人的にはGPTと壁打ちするの程度は自分もやっているので、これは「人間主導」と呼べる範囲なのではと思ってしまいます。政府はどう考えているのでしょうか?昨日行われた会議の資料が公開になりました。(↓PDFへの直リンです)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000260681
この資料を読み解きながら、AIの力を借りて完成させた発明をどう考えるべきか、検討していきたいと思います。
特許法上の「発明」の定義に照らし合わせて考える
特許法では、発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定義されています(2条1項)ので、「技術的思想」を持っていない現在のAIのみによる創作では、そもそも「発明」にはなりえないということになると考えられます。これはいいんじゃないかと思います。
じゃあ人間が道具としてAIを使った場合、具体的にはchatGPTに「〇〇の発明を考えてみて!」とテキストプロンプトで指示し、出力がされた場合はどのようになるか考えていきます。
例えば、2人以上の自然人が共同で発明をした場合などは、発明が生まれる過程を「着想」と「具体化」のプロセスに分けて、それぞれを行った者に、共同発明者として特許を受ける権利が発生する、という考え方が定着しています。
じゃあ、AIを疑似的な共同発明者として‥‥考えてみたくもなりますが、結局「者(自然人)」ではないので、これと同じ発想では不適切なのかもしれません。
ここで引っ張り出されたのが、上記の資料にある「①課題設定、②解決手段候補選択、③実効性評価のいずれかに自然人が関与していれば」という考え方なのかもしれません。
この考え方、正直初めて聞きました。出元は、「平成28年度AIを活用した創作や3Dプリンティング用データの産業財産権法上の保護の在り方に関する調査研究報告書」とのことです。
この時点で、AIを活用した創作については一応考えられていたのですね。
この報告書の要約には以下のようにまとめられています。
この報告書通りの考え方どおりに、特許法で保護可能なAI活用発明が決定されるかは定かではなく、これからの議論次第になると思いますが、大外しはしないように思います。まとめておきましょう。
まとめ
AI活用発明について特許法での保護を受けるための重要な要素は
①課題設定
②解決手段候補選択
③実効性評価
これに加えて従来の考え方である
発明の着想
発明の具体化
これらについて、どの部分を人間が行ったか確認できるように管理できていればよいのかもしれません。
思い切って明細書に書くのもいいのかもしれませんね。
「課題設定」は絶対書きますからね。
「自然人である本発明者らは~という課題を設定した」
「自然人である本発明者らはAIから提案された候補のうち~という解決手段を選択した」
「自然人である本発明者らは~自ら選択した解決手段の実効性評価」
と、ここまで書いておけば大丈夫なような…(現時点では知りません)。
前川知的財産事務所
弁理士 砥綿洋佑