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『ゴジラ-1.0』が「低予算」だとアメリカで話題に?!

全米でも公開中の『ゴジラ-1.0』が、12月3日までの興収において、早くも実写の日本映画として過去ナンバーワンの成績を塗り替えました。

これについてアメリカのメディアが「低予算なのに立派だ、メジャースタジオも見習うべき」といった論調だと報じられています。

『ゴジラ-1.0』のヒットはわかりますが、その反応第一声が「低予算なのに立派に見える」というのは、大作だと思い込んでいた日本の感覚とはあまりにも違っていて、驚いた方も多いのではないでしょうか。


むしろ驚くべきは製作費を公表したこと

私が開催している「オモシロ映画道場」の参加者なら、別の意味で驚いたと思います。彼らならばきっと「『ゴジラ-1.0』が製作費を公表していた」事にまず驚いたはずです。

なぜなら私は道場生たちに「日本映画は製作費を公にしない、公表できない」と、常に話しているからです。

理由については、日本独自の製作委員会方式では、一社でも反対すれば公表出来ない仕組みになっているから、と解説しています。

東宝一社の決断で公表できるレアケースだった

ところが『ゴジラ-1.0』の製作費は1500万ドル(約21億6000万円)だと発表されています。

これは、東宝はゴジラだけは常に特別扱いで、製作委員会方式を取らず単独出資を行うからです。つまり東宝一社が公表すると決断すれば、普通に発表できるというわけです。

ではなぜ発表したのかといえば、この金額が日本映画としてはトップクラスの堂々とした数字だったからでしょう。

業界人ならだれが見ても「さすが東宝さんだ、すごい金額をつぎ込んだものだ」と驚くような数字という事です。

しかしハリウッドの感覚で言えば1500万ドルはローバジェットというべき金額ですので、冒頭のような日米ギャップの「驚き」報道になったわけです。

もし『ゴジラ-1.0』がハリウッド映画だったら製作費はいくら?

では、実際『ゴジラ-1.0』は、アメリカ映画の感覚だとどの程度の予算規模に見えるのでしょうか。

実は、それについては山崎貴監督のコメントから推測できます。

監督はトークショーにて本作の予算規模を「(米国に比べると)1/10ぐらい……1/20ぐらいですかね」と発言しています。

逆算すれば1500万ドルの10~20倍程度の作品に相当するものを作りましたよ、という事です。日本円にすれば216億円から432億円くらいです。

私の目からすると、さすがに432億円は盛りすぎですが、まあ200億円規模の大作に対抗できるくらいの映像は持っていたと思います。

アメリカの評論家の中には「(ゴジラの)10倍の予算を費やすことに何も思わないメジャーなハリウッドのスタジオは、すぐにでも日本に行って学ぶべきだ」とコメントした人もいるそうです。

日米における製作費の差、その要因とは?

しかしこれは、事情を分かっていない評論家の暴論です。

日米の映画に関するコストで最も大きな差は、スタッフやキャストのギャラなのであり、「日本に行って(低予算で映画を作るコツを)学べ」というなら、関係者全員の給料を10分の1以下に下げろ、という話になってしまいます。

アンタたちは、ついこの間まで続いた史上最大のストライキから何も学んでいないのかとあきれてしまいます。

山崎貴監督が予算を節約できる理由とは

山崎監督はデビュー当時から「自分はVFXの専門家だから、よそなら外注する作業を自分ひとりでやれます。だから(邦画としても)数分の一の予算で、大作レベルの映像を作れるんです」と言い続けてきた人です。

いわば映画界の一人デフレ監督なのであり、そんな彼が1500万ドルで『ゴジラ-1.0』を作ったからと言って、ほかの監督も同じことをできるかと言えば、日本であっても無理な相談なのです。

もし出来る能力があるとしたら、『タイタニック』のVFXにも参加した曽利文彦監督(『ピンポン』など)くらいでしょうか。

『ゴジラ-1.0』だけが特殊、何も考えず賞賛すべきではない

むろん、『ゴジラ-1.0』のVFXを、かつてのように山崎監督本人が一人大車輪の活躍で作業したことはないでしょう。

しかし昭和の街並み、ゴジラ、日本軍の戦闘機、軍艦といった主要なCGのモデルはすでに監督が過去作で蓄積したもの(再利用可能)ばかりであり、本来お金のかかるCG制作において相当「節約」出来た事は間違いないと思います。

つまり『ゴジラ-1.0』は、ただでさえCG映画を安く作れる山崎貴という特殊な才能がいたことに加え、そうした彼の「得意ジャンル」だったという要素が積み重なったおかげで、わずか1500万ドルで作れたという事です。

これを「日本の当たり前」のようにとらえられ、まして「見習え」などという論調は、明らかに本末転倒のように思います。

むしろ『ゴジラ-1.0』のような映画に、ハリウッド映画と同じくらいの予算を付けられるようにすること。日本の映画人にも同レベルのギャラを支払えるようにすること。それこそが、評論家が俎上に載せるべき話題だと私は思います。


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