見出し画像

[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第9話 ストーリーで伝える

3日目は『住んでいる街』のプレゼンだった。

慎吾は明大前に住んでもう20年になる。幼少期からずっと住んでいるから近所の行きつけの飲食店や八百屋、肉屋などの馴染みの店もある。

だが、中学に上がった頃、駅前再開発があったため、それまで行きつけだったガストやイタリアンのお店、文房具屋さん、同級生の祖父母が営んでいた肉屋さんなどが少しずつ閉店していき、街の姿が変わっていくことを寂しく思った。

近くの小学校に通い、中学高校は電車で40分の私立に通ったため、近所の付き合いよりも学校での部活などがメインにシフトしていった。

大学も東京の大学だったから地元の住んでいる場所という意味では小学生の時の記憶が中心になってくる。

そんな自分の『住んでいる街』についてどうプレゼンするか考えるのだが、今日言われた、マジックナンバー3を頼らないで別の切り口でと言われるとなんだか余計難しい。

確かに、マジックナンバー3は簡単に使えて相手に記憶を残すこともできるけれど、毎回マジックナンバー3では作る方も聞く方も飽きてしまうのも事実だ。

『住んでいる街の事を対して知らないな。。。』

とはいえ、街のことを伝えるにしても調べる所から行っていたのでは時間がない。。。

慎吾は街に染み付いた自分の記憶を辿ることにした。


ーーーーー

「さて、今日は、『住んでいる街』プレゼンだ。楽しみにしてるよ。」

丸山部長は通常業務を終えたばかりだが疲れなど見せず、むしろ楽しそうに会議室に入るなり口火を切った。

「俺も楽しみだ。吉田のプレゼンを聞くのもだけど、自分のプレゼンをすることもな。」

内藤課長も気合が入っている。

「まずは、吉田からはじめよう。」

「はい!」

慎吾は丸山部長の指名を受けて最初にプレゼンすることになった。

ーーーーー

画像1

「こちらの写真を見てください。丸山部長、これわかりますか?」

「ん?コインランドリーかな?」

「そうです。コインランドリーです。

私が住んでいる明大前にあるコインランドリーです。

なんの変哲もなく、特別な場所でもないかもしれませんが、私にとっては思い出深いコインランドリーです。

私が小学4年生の時、東京では珍しく雪が20cm程積もる日がありました。

その日、何も考えず学校に行ったのですが友人と帰り道、あまりの寒さにこのコインランドリーに立ち寄ったんです。

コインランドリーは、乾燥機のダクトから出てくる優しい柔軟剤の香りと熱気に包まれていて私と友人を暖かく迎え入れてくれました。

その日から、雨の日だったり風の強い日には私たちの避難所としてそのコインランドリーが心強い味方になってくれたんです。

ところが5年前にこのコインランドリーは無くなりました。

明大前は大規模な駅前再計画地域となり、このコインランドリーも移転せざるをえなくなったのです。

私と友人の憩いの場所がなくなってしまうことを、実は昨日までそれほど気にかけていませんでした。小学生以降、明大前から私の活動の拠点は中高、大学と少し離れた所に移ったからです。

改めて『住んでいる街』を昨日、会社からの帰りに歩きながら思い返すと、多くの出来事が蘇りました。


『住んでいる街』とは自分が住んでいる街の記憶が点在していて、

その中でも移り変わりゆく街の風景は人によって違うと思います。

だからこそ、私にしか伝えられない、コインランドリーのお話をさせていただきました。

是非、時間を作ってお二人の街に点在する記憶を聞かせてください!!

以上です。」


慎吾は丸山部長と内藤課長の目を交互に見ながらずっと話し続けた。

今日は二人に知ってもらおう、二人に共感してもらおうと思って話し続けた。

「いいね!!私の場合は・・・う〜ん。用水路だな。」

丸山は少し目を閉じて腕を組みながら答えた。

「私は桜の木ですね。」

内藤は左上の方に目をやりながら答えた。

二人から即座に答えが聞けたことが慎吾は心から嬉しかった。

「いや、本当に良かったよ。3分で伝える街のプレゼン。街の説明だけを淡々とするのも一つの手法だけど、そこにある自分にしかない思い出を切り出してきたのは良かったね。

そして、写真1枚というのも話に引き込まれて良かった。

そして幼少期の思い出というストーリーを持ち出して、起承転結で展開したのもわかりやすかったよ。

最初の問いかけも内容について興味を持たせるのに良かったよ。

ただし、誰が見てもコインランドリーと答える質問だから、質問したことは評価しても想像を裏切るような答えの方がより良いんだな。そこが今回の更なるブラッシュアップポイント。

最初にコインランドリーについて質問して、最後にまたコインランドリーを持ってきたのは良かったね。これをサンドウィッチ法というんだけど、つかみとオチを同じネタにすることでより鮮明に記憶に定着させる効果があるんだ。

今回はそのサンドウィッチ法を上手に使えていたよ。それをちゃんとマイストーリーに乗せたところがポイント高いね。

そして、住んでいる街の明大前が駅前開発で変わっていったということも情報として付与できたから明大前の変遷についてもわかった。

ただ、明大前というからには明治大学が近くにあると思うんだけど、そう言った周辺情報も少し挟んだ方がより多くの人に伝わるものになるよ。
ここにいる二人は私も内藤課長も地方出身だからイマイチよくわかっていないところもあるからそう言った情報は有効だよ。

とはいえ、今回は及第点だ。

さあ、内藤課長。ちょっとハードル上がったけど。どうする?」

慎吾は概ね評価をもらえたことにホッとしながらも内藤課長のプレゼンが気になった。うちのエースはどんなプレゼンをするんだろう。。。

「いや〜。いいプレゼンでしたね。なんだか自信無くしそうですが。。。

でもせっかく作ってきたので3分お伝えさせてもらいます。」

そう言って遠慮しながらはじめた内藤課長のプレゼンに見入ってしまうことになるのだった。

サポート大歓迎です。!!明日、明後日と 未来へ紡ぎます。