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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第1話 そのプレゼンは誰に話しているんだ?

〜ブラッシュアップday1〜

「吉田。もう一度、宮部さんのとこでやったプレゼンをここでしてもらっていいか?
できれば同じようにやって欲しい。」

「はい・・・。」

時計は15:00を指していた。
通常であれば今日は課の会議があるが、特に議論することもなかったためスキップしたこともあり、丸山部長も私を呼び出しやすい状況には違いがなかった。

丸山部長にそう言われたものの、慎吾はやりたくなかった。 
結果が出なかったプレゼンに対してダメ出しをされるのは誰でも気が向かないものだから当然だ。


最近のプロジェクターは電源を入れると数秒で立ち上がる。
数年前までのプロジェクターは電源を入れてから投影されるまでしばらく時間がかかっていたが、気持ちとは裏腹に壁面にプロジェクターの青い光りがギラギラと映し出された。

慎吾は急いで宮部社長に提案したプレゼン資料を開き、当日と同じようにスライド正面から右側の指定された場所と同じような位置の座席に座ってプレゼンを始めた。


「この度は、このような機会をいただきましてありがとうございます。フロンティアワールドの吉田です。
今回は、御社が地域でNo.1を獲得すべく、販売促進に関するプランをご提案させていただきます。
まず、現状の御社のポジションですが、直近の業績を・・・」

プレゼンをしながら丸山部長を見たが、じっとプロジェクターに投影された資料を見つめている。

ーーーーーーーーーー

一通りプレゼンを終えると、丸山部長が口を開いた。

「宮部社長に何を言われたんだっけ?」

「はい。。。あの。「ワクワクしない」と言われました。」

慎吾は恥ずかしかった。
ワクワクしないという理由があまりにもふわっとした抽象的なもので具体的なフィードバックではなかったからだ。

提案したプランに対する良し悪しよりも慎吾個人に対するダメ出しだったように聞こえたこともそういう気持ちにさせていた。


「そうか。ワクワク感ね〜。」


丸山は慎吾を見つめながら考えていた。

「お前はワクワク感の意味がわかるか?」

「ワクワク感ですか。。。そうですね。
元気があるとかでしょうか?」

慎吾は言いながら、
我ながら『元気=ワクワク』は安直だな・・・
と思いながらも頭に浮かんできたワードをただ答えるしかなかった。

「う〜ん。そうだな。
それも含まれるんだけどもう少し考えてみようか。
他にも言われたことがなかったか?」

「他ですか。。。そうですね。。。
もし、お前が社長ならこのプランをやるか?
と言われました。。。」


丸山の目が一瞬鋭くなったのを慎吾は見逃さなかった。


「ふむ。で、なんて答えたの?」


「・・・。何も。。。何も答えられませんでした。」

「そうか。」


プロジェクターの熱を逃すファンの音が少しずつ音を立てて回り始めた。

丸山は細い目をさらに細めて話し始めた。


「いいか。プレゼンは話す前から始まっている
お前に足りていない所はいくつかあるが、まずは根本的なところから話そう。」

「はい。。。」


ところが、しばらく丸山は黙ったまま、話そうとしなかった。

慎吾はじっと丸山部長が話し始めるのを集中して待った。



沈黙の1分が過ぎた。



丸山部長はまだ話しを始めない。
腕を組んだまま静かに目を閉じて、時折り顎をさすっている。


プロジェクターの冷却ファンはすでに静かに動きを休めている。



慎吾は痺れを切らして滑り出すように話し始めた。

「あの〜。すみません。根本的なところとは。。。」

恐る恐る慎吾が話し始めると、ようやく丸山は口を開いた。


「わかるか?今の沈黙の意味が。」


「いえ。。。」


「うむ。意味があったんだよ。沈黙していた間、お前は何を考えた?」

丸山部長は両肘をデスクについた状態で口元の前で指を組みながら聞いてきた。

「えーと。。。そうですね。。。
私に伝えることを整理されているのかと考えてました。。。」

そう答えると、丸山は満足げな表情で話を続けた。

「うむ。
私は沈黙をしながら、お前が考えそうなことをイメージして沈黙をしていたんだ。今、お前が伝えてくれたことを、まさに考えているだろうなとね。」


慎吾はまだピンときていない。



「つまり、相手の立場に立って、相手が考える時間を作ったんだ。」


相手が考える時間

「相手が考えるということは、すなわち自分ごとになるということだ。
そもそも、他人が自分に伝えることなんか興味がないことがほとんどだ。
それに対して興味を持たせること
これはプレゼンの鉄則なんだよ。

考えてみろ。
相手はお前のことをロクに知らない。
どんなやつかもわからない。
わからないやつの話をそもそも聞きたいか?」

「いえ。。。あ、でも内容次第だとも思いますが。」

慎吾はプレゼンテーションのテクニックというよりも更にビジネスという範疇に収まらない、人と接する時の本質的なことを聞かせてもらっているように思えてきた。

「そうだな。
誰かの話をいきなり聞かされる時に、
そもそもその話に興味を示してもらう必要がある。

例えば、映画の予告編を見たら、本編も見たくなるのと同じだ。

タイトルだけ見ても興味がなかったのに、予告編を見たら見たくなるのには理由があるんだ。

プレゼンも一緒。

お前が何か伝えたいことがある。
だが、その内容が相手の聞きたいことかどうかはわからない。
だからこそ、興味を持たせる必要があるんだ。

私がさっき沈黙したのは、お前に考える時間を意図的に作り出した。

沈黙によってお前は考えた。

考えることで、これから話す内容が自分ごととしてさらに深みを増したんだよ。」


慎吾は思った。


『プレゼンテーションって、ただ単に伝えるだけじゃなかったのか。。。
相手をどう考えさせるかもプレゼンテーションなのか。。。』


「さっきの宮部社長に向けたプレゼンの再現をしてもらったが、まずは相手を聞く姿勢に持っていけてない
つまり、自分ごとにさせていない
聞きたいと思わせていない
ましてや何社も話しを聞いてきた後でお前達の順番が回ってきたわけだ。
お前が宮部社長だったらどんな気持ちになる?」


「そうですね。。。
最後の方は嫌になってくるかもしれません。
結論だけ聞きたいなという気持ちになるかもしれません。。。」


丸山は確信めいた口調で言い切った。

「いいか。

プレゼンの1丁目1番地。

それは、相手に興味を持たせることだ。」


時計は16:00を回っている。

慎吾は、これから自分のプレゼンが大きく変化していくことが遠くない未来に訪れることをじんわりと感じ始めていた。




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