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連載01「やまのおうち」

東京都の西の端にある奥多摩町。そこで僕は一軒の古民家を借りている。
もともとは都市生活する生徒たちを救うために、彼らの日常とは正反対の体験を求めて借りたものだった。
多摩川の渓谷にある小さな集落の端に位置する古民家は、杉林に取り囲まれ、林道からはイノシシやシカ、時々サルが現れる。
4年前の初夏、虫だらけの屋内を掃除し、リフォームをおこない、自らDIYしながら、より子供に理想的な教育環境をつくりだした。


この古民家を、僕の娘は「やまのおうち」と呼んでいる。
娘はいま「やまのおうち」で「お姉ちゃんたち」とときおり遊んでいる。
特にコロナになってからは、公園で遊ぶことも躊躇されるから、
さまざまな年齢の子があつまる古民家は、娘の教育環境を整えることにもなった。

休みの日、どこへ行きたい?と娘に尋ねると、「やまのおうち」と答える。古民家を借りた当初、松永さんが「ここはいつか君の娘の宝物になるだろう」と予言めいたことを言っていたが、本当に娘にとって古民家はかけがえのないもののようだった。

妻は古民家を娘が見つけてくれたと言っていた。自分でお気に入りの場所を探し出したのだと。

たしかに、あれほど探すのに時間がかかったのに、娘ができて数週間後に突如古民家の話が舞い降りてきた。
子供ができてそちらに頭がいっぱいになっていたから、もう古民家を内心諦めていたときだ。本当に娘が見つけてくれたのかもしれない。

ただ、娘と古民家の思い出は完全に重なるし、自分自身の活動のコアにあるから、古民家は僕にとってもかけがえのない場所である。

だから、簡単に娘の手柄にされたくはない。「やまのおうち」を見つけるのには長い長い道のりがあった。そして見つけた後だって、娘が気にいる場所になるまでに、そりゃあさまざまな試行錯誤があった。そして今もその試行錯誤は続いている。
飽き性の僕が、何年もかけて諦めずに、しつこく探求しつづけたこと。それをここで詳らかにしようと思う。

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