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舞台ゲド戦記を観て

はじめに


この舞台は神奈川県の文化支援事業 マグカル(マグネット カルチャー)のマグカルシアター2024 参加公演として若手に活動機会を与え地域文化の充実を目的として公演された作品です。乙戯社の代表いちかわともさんは「誰でも気軽に劇場に足を運んで欲しい」とも述べており、感想はこれを前提としています。
素人の戯言観劇感想ですがこの機会を作ってくれた神奈川県と乙戯社への感謝と『舞台ゲド戦記』の再演を期待してまとめました。

大好きな作品の感想のためネタバレを含みます。

総評

  リーディング・ミュージカルに相応しく演技以外に朗読、群舞、歌唱と舞台の面白さを一通り体験出来る構成で気軽に初めて舞台を観た人にとって他の舞台にも興味が湧く作りとなっていて、マグカル事業の狙い通りの公演で観ていて面白かった。
  若手の役者さんに出演機会を増やすという事で拙い部分はあったもののそれぞれの役のイメージを演じきっていらっしゃって楽しく観る事が出来ました。大好きな『ゲド戦記 -影との戦い-』を舞台化してくださり関係する皆様に感謝申し上げます。本当に素晴らしい公演でした。

   今回の公演踏まえて各地で上演するなど原作の伝えるメッセージが演劇を通じて広く伝わる事を期待しています。

詳細な感想

観劇情報
リーディング・ミュージカル『ゲド戦記 -影との戦い-』
スタジオ HIKARI(神奈川県立青少年センター2階)
2024年5月18日(土)12時回 全体で2回目の舞台。

役者さん

ハイタカ : 堀内 裕太さん
   体格がよく、主人公らいし演技が似合っていた。声も聴きやすくて自信満々だったり葛藤したりする様子が伝わってきて上手かった。顔の向きに限らずセリフが聞こえた。
   クライマックスでは影の手先と向き合い乗り越えてヒスイと対峙するまでの道のりの動きが踊りのようで周囲の役者さん達含めて上手い表現で原作とは違う展開を活かす演技だった。

ヒスイ : 松永 彩羽さん
   ハイタカのライバルであり、高慢だったハイタカがオジオンに学ばなかった時の姿を華奢な身体でも不遜で恐れを知らない感じに力強く演じていて素晴らしかった。原作では最後のシーンにセリフはないけど原作読んでいない人の理解を深めてもらうためにも、ヒスイの演技を完成させる意味でもあそこはセリフを入れてあげても良かったのでは。

カラスノエンドウ : 横野 元紀さん
   主人公のバディ役として目立たず上手く立ち回っていてとても上手かった。顔の向きに限らずセリフが聴きやすく、声優さんは伊達じゃない。優しく、思慮深く、芯の強くてとてもカラスノエンドウらしくてとても良かったです。やれやれと諦め気味の表情とゲドを一人にさせない想いの表情が多様でとても印象的でした。まさにカラスノエンドウだった。

アユオーラ : 伊藤 千紗さん
   原作のテレノン宮殿でのセレット。ハイタカを誘惑する面とテレノンに抗う両面を説明なしに演じるのは大変な役回りだったと思うが妖艶な感じが上手く出ていて、苦難の仕方もとても良かった。独演気味のシーンが多くて原作知らない人には伝わり難い点も有ったように感じたので大変だったのではないか。どうすれば良いかちょっとイメージが湧かないが、難しいシーンを役者さんの魅力で引っ張っていたのは凄かった。

セレット : 芹澤 優花さん
   オジオンの下で学ぶハイタカを挑発し、アユオーラへと変化する前という役柄。原作では魔女の娘でこの時からハイタカを誘惑する艶かしい少女なのだが本舞台ではツンデレ気味のお嬢様ムーブでアユオーラへの変身とテレノンへの反発に向けて勝ち気で生意気な雰囲気の演技が良かった。

ベンデレスク : 落合 大樹さん
   セレットに誘われてオジオンの所へ来た時、学院で王として来た時、テレノンでのクライマックスの時と同じキャラクターの三変化の演じ分けとセレット、アユオーラへの接し方が印象的だった。群舞などモブで動いている時も集団の中でも惹きつける存在感が有った。

オジオン : 菊地 春菊さん
   飾らないオジオンをゆっくりとした所作で落ち着いた感じに演じて舞台に安定をもたらしていた。舞台が慌ただしい動きでも上手く呼吸を合わせてオジオンのペースに持ち込んでいた。

ドリー叔母 : 高村 香里さん
   原作よりもハイタカの保護者として温かく見守る役割り。呪い師の依田話しとして黄泉の国のエピソードは影やテレノンに繋がる伏線であり、印象に残る形で演じてくれたのは原作を知らない人にも世界の理が伝わって効果的だったに違いない。オジオンの下へ弟子入りする前のエピソードではいくつか場面が変わるためテンポ作るのが難しそうだった。

ノコギリソウ、旅の商人 : 田村 桃歌さん
   同一人物と判らなくて、後から知ってビックリ。旅の商人のズルそうな感じとのギャップが良かった。ノコギリソウのヒロインらしい振る舞いは可愛かったのでカラスノエンドウにこんなに自分以外の人と親しくしているハイタカは初めて見たぐらいのセリフが有っても良かったのではないか。

ネマール : 橋本 麻玲さん
   学院長の優しい包み込む雰囲気に溢れる演技、ベンデレスク達の我儘や出しゃばるヒスイなど、各キャラクターの位置付けが判る細かなリアクションが観ていてとても楽しかった。

クレムカクレム : つくも ゆうさん
   名付けの長は原作と違いハイタカを「ゲド」と呼び、頼もしさとその力をもってしても影の名前は判らないという難しい役柄だったのではないか。長の中で一番軽そうな風貌だがうちに秘めた知識の力を感じさせない雰囲気作りも他の長との違いとなって観ていて楽しかった。

印象的だったシーン

  • 冒頭の生徒たちが歩きまわるシーン

  • オジオンの所でセレットの高飛車ムーブ

  • 竜との戦いシーンの簡潔だが迫力のあるシーン

  • テレノンでの誘惑と去るまでのシーン

  • クライマックスの最後に辿り着くまでのシーン

  舞台の高低差や袖までフルに利用した演出とそれを演じきった役者の皆さんの動きが良かった。
   群舞、群読など息を合わせたシーンは迫力があって最高に良かった。舞台の役者さんが演技をするからこその表現が随所にあって練習が大変だったろうな〜と思いながらどんな物語りが表現されているのか必死に聞き入っていました。

脚本や演出について

良かった点
  原作を上手くまとめた全体の構成は舞台に合わせて上手くまとまっていてとても良かった。原作改変で不満があるケースもありそうだが舞台での見せ場や役者さんの活躍機会を上手く作っており良い改変だと思った。

  セリフ、朗読、歌詞、舞踏を使った表現は舞台を生で観る迫力を実感するのにとても良いアイデアで魅せられました。特に小劇場ならではの距離感もあって観劇体験としてとても良かった。

  原作『ゲド戦記 -影との戦い-』はお話の舞台の変化が多くどう表現するのか楽しみの一つ。本舞台では高低差を3つ作り、プロジェクターを上手く使って演出しており、空間の広がり以外に高さを利用した立場の違いなど舞台を上手く使っていて面白かった。


気になった点
  アースシーという別世界の物語の中で「地球」という名前を使って水の循環を語ってしまったのは勿体なかった。「この世界」としても子供達には通じると思った。

   序盤の叔母さんとオジオンのシーンはちょっとテンポが悪く感じた。

   学院の日常シーンは何を伝えたかったのか曖昧だった。

   テレノンのシーンは追いかけている影とは別で、オジオンの下で修行している時からゲドの力を狙っている話なので、ここが原作を知らない人には影との関係で「?」になったようだった。オジオンのところで少女セレットのエピソードで悪い魔女の娘という設定で影とは別であると判るエピソードを加えておくと良かった気がした。

  セリフ、朗読、歌詞の使い分け方は工夫の余地があると感じた。原作を知らない人はお話について来れないのでは?と思う事が数回有った。実際一緒に観た原作を知らない人には個々のシーンは判るが各シーンの繋がりや全体の起承転結的な構成が伝わって来なかったようだった。全体の流れを整理するために語り部的な役を作って観客が集中するべき場所をひとつに絞った上で男女別に群読を重ねたりした方が話が追い易かったのではないか。

  音響もセリフに被ってセリフが聞こえなくなる事があり、マイク経由した時など色々と話を追いかける時に聞き漏らす事が多く気になった。

  照明はプロジェクションも含めて雰囲気いっぱいで闇を上手く使って狭い舞台である事を感じさせなかった。

以上、舞台ゲド戦記はとても良く出来ているので更にブラシュアップしていただき公演機会が増える事を期待しています。最後までお読みいただきありがとうございました。

チラシ

チラシ表
チラシ裏

主催:神奈川県、乙戯社
原作:アーシュラ・K・ルーグウィン(岩波書店刊)
演出・脚色:いちかわとも(乙戯社)
脚本:平石耕一
音楽:佐々井宏太
舞台監督:鈴木良輔(完全※アルコロジー)
音響:影山練(Mkageishi)
照明:柚希
舞台美術:立花みず季(演劇集団LGBTI 東京)
映像:山同燐
振付:下村唯(SLEEPWELL
つくもゆう (82-party)
宜伝美術:菅功佳
当日運営:加蕨じゅんこ(ジェン社)
企画制作:乙戯社

出演
ハイタカ:堀内裕太(ヒューアンドミント)
ヒスイ:松永彩理
カラスノエンドウ:横野元紀
アユオーラ:伊藤千紗
セレット:芹澤優花
ベンデレスク:落合大樹
オジオン:菊地春菊
ドリー叔母:高村香里
ノコギリソウ:田村桃歌(劇団ビュアーマリー)
ネマール:橋本麻玲
クレムカムレク:つくもゆう(82-party)
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