ありがとう、いだてん

「ひろちゃん、いだてん見てるやろ?」

先日帰省した際、母と話していたときのことだ。

わたしは今年の大河ドラマ「いだてん」を初回から見ている。二月に執り行われた父の葬儀のときも、その会話をした。親戚のおじさん(母の弟)が、朝ドラと大河ドラマを見るのが習慣のようだったのに、「今年の大河ドラマは、よう分からんから見てへん」といったのがきっかけだった。

そのおじさんは少し耳が聞こえにくいところがって、早口のセリフについていけないとか、おじさん自身、結局武士が好きなんやなあと自己分析していた。内容がつまらない、という訳じゃないんやけど、と。

たしかに、今年の大河ドラマには戦国武将は出てこないし、ちょんまげの人も出てこない。時代的には「せごどん」ともちょっとかぶってるけどなと思いつつ、仕方ないかなと思っていた。

母はその話を聞きながら「スポーツしてる人にはおもしろいんか知らんけどなあ。走ってはるのん、みてもなあ」といっていた。

「いや、お母さん、走ってはるのんって簡単に言うけど。走るところにたどり着くまでの時代背景とか、大変やねんで。スポーツドラマとは言われへん、やっぱり歴史の流れがあるし、大河ドラマやねん」

こんなふうに、わたしは反論したのを覚えている。

もっともわたしの母は普段からドラマを見ない。わたしが一緒に暮らしていたときに母がドラマを見ていた記憶は一切ない。テレビ録画機器がわが家に導入されるのが遅かったことも原因のひとつかもしれない。

姉やわたしが見ていたら、一緒になってチラチラッと見てることもあったけれど、母が積極的に見ているドラマはほとんどなかった。ひとつあるとすれば、父が手術を受けていたとき、待合室で「カーネーション」の再放送が流れていて、それが面白かったから時々見るようになっていたくらいだろうか。母は結婚する前、洋裁と和裁の学校に通っていたから洋服を作るドラマは自分に置きかえてみることができるし、おもしろいらしい。

先日実家に帰ったとき、母から「ひろちゃん、いだてん見てるんやろ?」と聞かれ、そのあとに「あのドラマ、最近見始はじめてん。おもしろいなあ」と続けて言ったことにすごく驚いた。

「え? 今まで見てへんかったのに?」と不思議そうに聞くと、母は、「徳井が出てたってきいてな、えー、どんなんなってんねやろ? って、気になって土曜日の再放送みてん」と笑っていた。

奇しくも母は、徳井さんの騒動があって注目したらしい。「徳井、バレーボールの監督やってはって、えらい剣幕やったなあ」と笑っていた。母は1947年生まれ。1964年に開催された東京オリンピックのころは、母にとって青春時代だ。

「いろいろ懐かしいなあ、思うて。女子バレーとか見てたからなあ」と懐かしそうに話していた。母にとってドラマを見る意味は自分の人生に関わりがあるかどうか、というのが大きいようだ。阿部サダオさんの演技もいい、と感心していた。マーちゃん(阿部サダオさんが演じる役柄の愛称)、一生懸命やん、あんな人がいたら周りもがんばろうってなるやろなあとも。

「土曜日の再放送時に、今更やけど毎週見始めた」といっていた。残り数話やけど、おもしろいし、気になるという。

マーちゃんは早口だから、母がセリフをちゃんと聞き取れているかは分からない。だけど「いだてん」は一話見ただけでも惹き付けられるほどのパワーのある作品なのだと改めて感じた。視聴率が低いと伝えられることが多かったけれど、いや、一回でも見たことある? めっちゃ面白いからとしかいえない。

すごく個人的なことだけど、わたしの一年間と、母の暮らしに楽しみを添えてくれて金栗さん&マーちゃんありがとう。あと少しで終わってしまうのがとっても寂しい。



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