おっさんずラブをみて、十数年前の彼の告白を思い出した。

最終回が放送された一週間後に、「U-NEXT」で配信されている「おっさんずラブ」を一気にみた。

話題になっていたのも知っていたし、ほぼ日の「春の連ドラチェック2018」でもイチオシされているのを見ていた。ただ、かなり盛り上がっているお祭りに途中から参加するのもなあ、と尻込みをして「なにかの機会があれば見てみればいいか」と一歩、距離を置いていた。

そんなときに、久しぶりに連絡を取った友人が猛烈におっさんずラブにはまっていた。「宝物みたいなドラマだった」と伝えられた。また、彼女はおっさんずラブに関する思いの丈を記事にしていて、単純に彼女が書いたおっさんずラブの考察を読みたい気持ちもあった。それほどまでにのめり込んでいる作品ならば、間違いなく面白いだろう。ぜひとも見てみなければと思い立ち、週末に一気に見てしまったのだった。

毎週、リアルタイムで見ていたら、沼にどっぷりと浸かってしまって、息継ぎのために顔だけを出すことになっていたことだろう。見ていてつらい。胸が苦しい。陳腐な言葉だけれど、胸をぎゅうっと握りつぶされてしまうような気持ちになる。春田を想う、牧の気持ちを考えると本当に苦しい。BLだろうが何だろうが、恋ってやつは厄介すぎる。

しかしながら、作品についてあれこれ言えるほどのめり込めていないのも事実ではある。多分これは一気に見てしまったからだろ。もともと自分の中にもぐもぐと咀嚼して作品に浸るには時間がかかるタイプである。一話が40分とはいえ七話一挙放送だと280分。トイレに行く以外ほぼノンストップで見てしまうと、話を咀嚼する間もない。リアルタイムでドラマを見ていれば一週間という時間の間に、見ている人たちの気持ちを掻き立て、苦しくさせる効果もあるのだろう。一気に見てしまうと、心が大きく揺り動かされているのだけれど、あれよあれよと展開していく。驚いたり悲しくなったり、にやにやしているうちに幸せな最終回の最後のシーンへとたどり着いてしまった。いやはや、もう一度、じっくりと見直して見よう。

ただ、個人的に「ああ、苦しいな」と感じたのは牧が春田の母親に遭遇した場面。春田の母親は何の気なしに「息子が早く結婚してほしい。孫も見たい」と言ったに違いない。けれど牧にとっては複雑な言葉だろう。

私はもう十数年前にある男性から「自分はゲイだ」とカミングアウトを受けたことがある。牧と春田の母親のやり取りをみて、今ではもう連絡先も分からなくなってしまった彼のことを思い出してしまった。

彼は誰かれ構わずカミングアウトしているわけじゃなかった。(天空不動産で春田がカミングアウトしたあとに牧がはぐらかした気持ちもわかる)私に告白してくれた経緯もあまり覚えていないが、彼が私に「ちょっと悩んでる」と言って吐き出すように言ったことがある。彼は自分の両親に自身のセクシャリティについて打ち明けられずにいた。そして両親は自分の息子が早く結婚して、孫を見せてくれる日を待ち望んでいるのだという。

両親に打ち明けられず、しかも両親の夢を壊したくないため、偽装結婚でもして両親を騙し続けていいだろか? と真剣に悩んでいた。私は偽装結婚の相手もそれを望んでいる場合は、別にそれでもいいんじゃないか? と答えた。例えばその結婚相手である女性も、女性が好きであるけれど、両親には打ち明けられずにいて、やれお見合いしろだの何だの言われ苦しんでいたら、両者の利害関係は一致する。ただ、入籍したら、あれこれ家族ぐるみの付き合いになるから、その辺は難しいこともあるだろう。というようなことを彼に向かって言ったことを覚えている。

おっさんずラブの中で、牧は母親と妹に自身のことを打ち明けていたし、理解されてもいた。春田以前にも付き合っている相手を紹介している。繊細な牧にとって良き理解者である母親と妹の存在は心強かったことだろう。私が出会った彼は「隠し続けるほうが親孝行になるから」と言っていた。ただ人を好きになる。それだけのことなのに、ずいぶんと苦しそうだった。

そう考えると、はるたんは自分の「好き」に真剣に向き合い、戸惑いながらもまっすぐに進んでいる。自分が好きなんだから、それでいいじゃねーかというような純粋さ。女にモテないのはなぜだろう……? (ちずは幼馴染だから別枠として)母性本能をくすぐるとか、そういう類の男じゃないのだろうか? 過去に二回のモテキがあり、そのうちの一回が小五のときだというではないか。初恋の時期にある少女の心を掴む魅力が春田には備わっているはずだ。現に牧も部長も春田に家庭的な側面で尽くしている描写もある。お弁当をつくったりだとか、お風呂掃除をしたりだとか、ふとんをそっとかけたりだとか。

繊細で、相手のことばかり心配して、先回りして傷ついてしまう牧。彼のそばには、いつもくだらないことでげらげら笑って、ちょっとデリカシーがないところもあるけれど、一生懸命でまっすぐな春田がずっといてほしい。「そんな心配しったって、しょーがねーじゃん」と、牧の心にちくちくと蜘蛛の巣のように広がる不安を、春田の何気ないひとことで、さっと払いのけてあげてほしい。そして、十数年前に知り合った彼のそばにも、素敵なパートナーがいればいいと心から願う。


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