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毛深い夫の、根深い悩み。

もう十年も一緒に暮らしている相手でも、本当に悩んでいることなんて、全然わかっていなかった。思い返してみれば、実家で暮らしていた両親や姉の、本当に悩んでいることだって、わたしは知らないことのほうが多い。

数日前、夫がある悩みをわたしに吐き出した。

夫は、かなり毛深い。足や腕、手の甲にまで毛が生えている。ヒゲも濃い。毛深いこと自体は、なにも悩んでいない。むしろ「蚊が足に止まっていても、毛が感知するから、すぐわかる。それに、毛深いからか、そもそも蚊が血を吸うことをあきらめてくれる。毛に絡まるのが嫌みたい」などという。本当かどうかは、さだかではない。わたしには確かめるすべがない。

そんな夫だけれど、毛深さについて一カ所悩んでいた。それはわき毛について。

冬場はそれほど気にならないそうだけれど、夏になると、とにかくムレという。不衛生になるし、汗もたまる。汗かきなのでニオイも気になるらしい。

「女の人は毛を剃ってもチクチクしないの?」夫は真剣に質問してきた。わたしは途中で通うのをやめてしまったけれど脇に関しては永久脱毛をしていている。完全に生えてこないわけじゃないけれど、まあ、それほど悩んでいないし、剃ることもないので、チクチクはしない。

「でも、剃ったらチクチクすると思う。剃ったあと、生えてきたなと思えば毛抜きで抜けばいいんじゃない?」

「えー、チクチクするのは嫌だなあ。生えてきたら、抜いてくれる? 体が固いから、脇の下なんてよく見れないし」

「いややわ。そんなん。女の子はみんな自分の脇は自分でやってます!」

「えー、どうしよう。男の人も、永久脱毛ってできるかなあ……?」

まさか夫とこんな話をすることになるとは。夫は真剣だった。確かに、男性の永久脱毛も最近話題になっている。ただ、脇よりも、ヒゲとかすね毛が需要があるそうだけれど。

剃るのはやっぱり嫌だから、切ってみようという話になった。

自分で切るのは難しいというので、夫の脇毛を切るのを手伝わなくっちゃいけなかった。脇というより、もう腕やんという場所までも毛が生えていて「なんのために、ここから生えてんの?」と不思議になるくらいだった。

「貼り付け処刑するときって、脇の肉が柔らかいから、そこに槍を差し込むって聞いたことあるけど、本当かなあ?」などと言いながら、夫のわき毛をカットした。短くするというよりは梳くという感じだった。

カットしたあと、夫は鏡を見て満足げだった。「夏はやっぱり、サマーカットが大事かもね!」などという。わき毛のサマーカットなんて、初めて聞いた。夫が実家にいた高校生くらいのころ、眠っているあいだに母親にわき毛を切られたことがあると告白しはじめ、その状況もまったく理解出来なかった。想像すると、やや気味が悪い。

ただ、夫はサマーカットしたわき毛を気に入っていた。これまで洋服を着るとごわごわして嫌な感じだったらしいが、すっきりしたという。そういうものだろうか? わたしには理解できない悩みだけれど、夫には、夫だけの悩みがある。もちろん、わたしが持っている悩みを、夫は理解できないだろう。一緒に暮らしていたとしても、個人的な悩みは言ってくれないと分からない。もちろん、話してくれても100%わかる、とは思えない。けれど理解しようと思うことはできる。

「これからは、サマーカットしていこう」などと嬉しそうにしている様子を見ながら、わたしは夫の悩みを何にも知らないんだなあと、ちょっとだけ反省した。





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