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その復讐は誰のためのものか?

8月14日から20日まで、吉祥寺で上演されていたカクシンハンによる「タイタス・アンドロニカス」を観に行ってきました。

恥を忍んで申し上げるなら、私はこれまでに一度もシェイクスピアの戯曲を読んだことはありません。ただの一度も。レオナルド・ディカプリオが主演した「ロミオとジュリエット」を、かなり昔に姉と見に行ったことがある程度。マクベスも、リア王も、ハムレットすら知らないという無知ぶり。

そんな私が、なぜ今、シェイクスピアの舞台を観てみたいと思ったのか。それはやっぱり「知りたかった」から。こうして拙いながらも文章を書くようになって、ひしひしと感じることがあるからでした。

それは「古典作品のなかにこそ、新しさがある」ということです。

たとえば日本の古典作品だと「源氏物語」この作品についても、私は何も語れません。語ることができるほどの知識は私にはありません。だけど高校の古典の授業じゃなくて、いま読み返しているとめっちゃくちゃおもしろい。人間の心情なんて、いくら時代が変わってもそうそう変えられるものじゃない。そう思うと、古典作品をあらためて触れたときにどう感じるだろうか? 海外でずっと指示されている古典、と言われている作品はなんだろう? そう思ったときに思い浮かんだのは、シェイクスピアでした。戯曲を読むのもいいけれど、ただ読むだけだと「勉強している」勝手な義務感が沸いてきそう。うーん、何か、よいとっかかりがあればいいなあと思っていたところでした。

カクシンハンについても、私はぜんぜん存じ上げていませんでいた。

「タイタス・アンドロニカス」という戯曲も、初めて聞いたぐらい。観てみたいな、と思う反面「敷居が高そうだし、どうしよう」と思う気持ちもありました。だけど、なんぜか、ずーーーっと気になって気になって、仕方なくなったので、ポチットチケットを購入。分かんなかったら、分かんなくてもいいや、そのぐらいの気持ちでした。

その気持ちをTwitterにつぶやいたところ、今回の舞台でドラムで出演されるユージ・レルレ・カワグチさんより

カクシンハン『タイタス・アンドロニカス』を100倍楽しむ方法

を読んでみてください! とコメントをいただき予習を兼ねて拝見。

いや、これ読んでよかった。

読まなきゃ、多分ちょっと置いてきぼりだったんじゃないかなと思います。分かりにくいとかじゃなくて、設定が複雑? というか展開が目まぐるしく動き回るんです。元々の戯曲自体が。なので、予習しなくていいですよ、と主宰の木村龍之介さんはツイートしてくださっていましたが、まったく知らないで行くと、ここまでのめり込めなかったかもしれないな、と思います。

さて、内容、というか、細かいお話の流れ自体は上記リンクを読んでいただくとだいたい分かる、と思いますのではしょります。雑ですみません。

簡単に言うと「復讐」がテーマなんだと、思うのです。思うのですが……。復讐って、誰のために、何のために行うのだろう? とずっと心に残っています。血で血を洗う残虐な復讐。それが、双方の立場からずっと繰り返しつづいている。だれの心も晴れないまま、ただ「復讐」のためだけに、生き続ける。その復讐が、最も残酷な形で幕を閉じたときに、一体誰が「これで良かったのだ」と思えるのだろうか? と深く心に突き刺さる内容でした。

ですが、カクシンハンが素晴らしいな、と思うのは、そんな重苦しいテーマであっても「笑い」の要素も細かく計算されて、ちりばめているところ。

「笑い」がなくても、成立するお話ですし、もしかしたら「あんなところでふざけるなんて」と感じる人もいるかもしれません。でも、それだって一つの目線から見たときのことです。私みたいに「シェイクスピアにちょっと触れてみたい」と思っている初心者にはずっと重苦しい復讐劇の連続だけでは飽きてしまうかもしれない。また、カクシンハンとしては二度目となる上演だということで、より「今」に近づけた演出をされているんだなと思いました。

おそらくDVD化されると思うので、気に入った細かな仕掛けや表現方法を書いてしまうとネタバレになってしまうので、できるかぎり避けますがひとつだけあげたいことがあります。それは「死」の表現方法が素晴らしいんです。

この舞台の中でかなり大きな意味をもつ行為である「死」について。

暴力的に奪い取られる命。それすらもていねいに表現されているところ。「生」から「死」の淵へ追いやられるシーンでは、観客に恐怖心をザワリと沸き上がらせる「落ちていく」表現。

目が離せませんでした。怖くて。


私が観た回は、直前まで嵐のような大雨と凄まじい雷が鳴り響いていました。だけど、それすらも、この「タイタス・アンドロニカス」という舞台にふさわしい演出のようにも感じられました。

この、怒り狂う天候のようなタイタスの、そしてタモーラの心は、誰にも晴らすことはできない。「復讐」という行為だけが、一時的な晴れ間を作ることはできたとしても、血の雨が降り注ぐ結末を迎えるほか、なかったのでしょう。


11月には「ロミオとジュリエット」、2018年前半には「ハムレット」の公演が予定されているそうです。カクシンハンが演じるシェイクスピア。ちょっと、いや、かなりクセになりそうです。










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