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伝わるひとことを、みつけたい。

職場の近所で工事が行われるというお知らせをもらった。その工事名が

「戸部駅構内天神町第1架道橋鳥類飛来防止装置設置工事」。

長い……。そのお知らせを読むと、なんてことはない。ただ単に、「鳩除けネットを設置する」ということだけだった。

たしかに、線路の高架下になっている場所で、道路にびっしりと鳥のフンが落ちている。雨がかからないし、居心地が良いのだろう。ただ、フンがびっしりと落ちているのだけれど、その場所で鳩がたむろしている姿は見かけたことはない。夜のあいだだけ、そこで羽を休めているのかもしれない。

ただ、この長い工事名と、実際に行われる工事の内容が、なんだかおかしかった。たいそう長い工事名を命名したのに、簡単に言えば「鳩除けネットの設置」。それでいいんじゃないのか? 確実に伝わるのは、おそらく「鳩除けネットの設置」だろう。

普段は目にしないけれど、刑事もののドラマ(踊る大捜査線とか)なんかでも「対策本部を設置するから、その名前を付けなくっちゃいけない」というので、やたらと長ったらしい事件名プラス対策本部と書かれた看板を設置している。

名前ばっかりが仰々しくって、本当は何を行っているのかよくわからないことがたくさんある。

最近見かけた言葉は「ムーンショット型研究開発制度」である。ムーンショットってなに? わたしはムーンプリズムパワーなら知っている。ムーンプリズムパワー、メイクアップ! 化粧品の話ではない。コラボしたコンパクトとかは発売されていたから、メイク道具の話といえなくもないか。

ムーンショット型研究開発制度は、我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を、司令塔たる総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の下、関係省庁が一体となって推進する新たな制度です。(内閣府HPより引用記述)

説明を聞いても、なんだかよくわからない。破壊的イノベーションの創出って、たとえばどんな事例があるのだろう? うーんよくわからない。でもこれ、内閣府が打ち出している政策なのだ。わからない人はついてこなくてもいいよ、ということなのだろうか。

少し前に代官山の蔦屋書店にて開催された『名作コピーの時間』刊行記念 田中泰延×橋口幸生の゛魅惑のコピー談義”』というイベントに参加してお話を聞いてきた。

いろいろなお話があって、おもしろく、ためになるなと思いながら拝聴した。そのなかで田中泰延さんの優しさというか、周囲をフォローする力を感じた場面があった。

橋口さんが「自分KPIを設定しよう」と画像とともにお話しされたのだけれど、とっさに田中泰延さんが「KPI(ケーピーアイ)って分かりますよね? これクピーって読んだらダメですよ」と、笑いを交えながら「KPIとはどういった意味か」橋口さんに説明いただくシーンがあった。

そのイベントには、広告業界関連の方が多数参加されていたいたようだったし、「KPI」という言葉自体「みんな知ってるでしょ?」という雰囲気もあった。けれど、分かりやすく言うなら、「目標の達成」というような意味合いだと説明があったのち、自分自身の達成度をつくったほうが、仕事は楽しくなる、というお話をされた。KPIの言葉の意味が分からないまま話を進めてはいけないと、泰延さんはとっさにフォローされたのだろう。

イベントと内閣府の戦略名とか、工事件名はまったく別物かもしれない。もちろん、仲間内だけで分かる単語があれば、それだけでチームや団体としてまとまる場合もある。分かる人だけが、分かればいいという事柄もあるだろう。

けれど、多くの人に聞いてもらいたい場合には、誰が聞いてもわかる、「ああ、それはそういう意味ね」と納得できるような、言葉を見つけることも大事なことだろう。


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