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OZAKI君

中学生ぐらいの男の子が
「僕の背中、見て」
と、Tシャツを脱ぎながら クルリと 私に背を向けた
彼の背中には 昆虫の翅が 生えていた
うす緑色の 繊細で美しい 翅は
まだ 羽化したばかりのセミのように やわらかく 透き通っていた

「君、たしか・・・尾崎くんだよね」 と、私
「そうだよ。背中、見てくれた?」
「翅が 生えてるけど・・・」
「やっぱ、そうか・・・なんか 変な感じがしたんだ」

そんな夢を見た 翌日
ダイニングの 白い壁に 
どこから やってきたのだか セミの幼虫が とまっていた
こんなところで 大丈夫だろうか?
私の心配をよそに 幼虫は 羽化を始めた
もう 木に移したりとか、ヘタに手を出せる状態ではなくなっていて
私は、その羽化の 一部始終を ただ見守ることにした

やがて あらわれた 新しいセミの体は いかにもやわらかく
極薄の ガラスか氷細工より もっと繊細で ナイーブな 翅の美しさに
私は 見とれるばかりだった
薄緑だった体が しだいに 黒味を帯びて
どこから どう見ても立派なセミになったと そう思った途端
セミは 翅を動かして 飛んだ
私は急いで 窓を開け セミを戸外に 出してやった
外は もう 夜だった

私は、そのセミを勝手に「OZAKI君」と名付けた

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