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石垣島・波照間島・竹富島の旅


1日目

空の上から

空に登ると地球は美しいって思う。
何故か地上にいるとそれを忘れてしまう。
美しさの中にいるから? いや、そこはむしろ混沌の世界だ。
機体は雲の上まで浮上し、真っ白な視界が徐々に開けていく。
雲海上空は明快に晴れて、どこか静謐に映る。
絹のような雲が流れ、やがて機内サービスのアナウンスが入った。
雲の合間からほんの少し顔を出している黒い塊は富士山だろうか。

沈黙の雄大な時間が過ぎていった。
石垣島はどんな所だろう。海が綺麗なのは間違いない。
旅に出ると言っても、若い頃のようにはワクワクしなくなっていた。
私が決めているのは、「どこかでシュノーケルをやる」と「1、2ヶ所離島に行く」という大雑把なもの。
のんびり現地を味わえたらそれで良い。
下調べはするけど、行ったら気分次第というのがモットーである。
−55°Cの空を忙しなく黒い飛行機が横切って行った。
雲の上には飛行機雲で出来た滑走路が見えた。
もう少しで沖縄。あと1時間程で着く。

はるか上空から見れば小さなチリのような大きさの家に住んで、一喜一憂しているさらに小さな人間を思う。
「だけどさ」私の魂は雄弁になってこう言う。
「そんな小さなたった1人の人間が何万人もの生命を救ったりするんだ。面白いじゃないか」
地球全体は恐れの振動数に包まれているという。しかし、ほんの少し空に浮き上がって俯瞰すると、そこから自由になれるはずなのだ。
私は詩人になり、真っ青な空と穏やかな雲の絨毯をぼんやり眺めている。

私が沖縄に行ったのはもう10年以上前だ。
その頃は池袋に住んでいて、時々顔を出していたバーには七海さんという常連の沖縄出身のおじさんがいた。彼の紹介で、久高島で宿屋をしている方のところへ泊まりに行ったっけ。
沖縄本島ではタクシー運転手に捕まって、斎場御嶽に寄ってから市街地に行きたいだけなのに、半ば強制的に平和記念公園にも連れて行かれて、各県や海外の墓地まで案内された。定額でやってくれたし、七海さんに電話して運転手の言う金額が妥当か確認して乗ったから別に損はしてないのだけど。
そして今回はさらに南下するというわけだ。マスターの話では、七海さんは私が引越してからしばらく後に亡くなってしまったという。

思えば、海外旅行は海好き、南国派で、マウイ島やオアフ島に行ったことがある。
てっきりこのまま南の島旅行でリゾート気分を満喫するのだと思っていたのに、30代の終わりから40代はフィギュアスケートにはまってしまい寒いところばかりへ行っていた。
まあ何事も経験だからそれも良し。誰かの栄光を眺めるのもいいけど、永遠に見ていられるわけでもない。

50代になると、はたと自分の人生も後半なんだと気がついて、恐る恐る自分に向き合い始めた。
折りしもパンデミックが過ぎ、世界の国境が再び開かれると多くの友人知人が海外に飛び出した。
為替はどんどん上がるけれど、肉体的人生は有限だと気づいた人には、自由の翼は何物にも変え難いのだろう。
私は今どこへ行きたいだろうか。ハワイ島も気になるけれど、まずは前から一度行ってみたかった石垣島へ行くことにした。
実を言うと二回ほど計画して断念しているので、今度こそ南の島を楽しもう。

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