【映画コラム】『ゾンビランド:ダブルタップ』は、『ターミネーター2』だ。

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現在公開中の映画『ゾンビランド:ダブルタップ』を見た。

最高だった。ただただ最高だった。

そして私は言いたい。『ゾンビランド:ダブルタップ』は、『ターミネーター2』であると―。

ここからは、映画の核心には触れないものの多少の薄いネタバレは入るので、ご了承頂きたい。

まず、この映画の概要を説明すると…

この『ゾンビランド:ダブルタップ』は、10年前に公開された『ゾンビランド』という映画の続編である。

なのでまず1作目の『ゾンビランド』の概要を説明すると…

ひきこもりでゲームオタクで恋愛経験のない大学生コロンバス(この映画では登場人物がだいたい地名で呼ばれ、本名は定かではない)は、ゾンビで埋め尽くされた世界=ゾンビランドで、生き残るためのルールを自分なりに作成し、それを慎重に守って誰とも接さずにこれまで生き延びてきた。しかし、それまでの人生で人をゾンビのように遠ざけて生きてきた彼が、いざ本当に人々がゾンビになってしまうと、無性に生身の人間が恋しくなっている自分に気づき、両親の住むコロンバスに向かうことを決心する。その道中で他の生存者に出会うのだが―。というお話。

私の大好きな部類の映画だし、なかなか楽しめる作品だ。

この1作目である『ゾンビランド』が公開された2009年当時は、アメリカの時代の流れや風潮として、『オタク』が注目され始めていた時期であった。

昔にも『ナーズの復讐(1985)』などオタク映画やいわゆるナードものは存在していたが、それを全米にブームとして大きくセンセーショナルに甦らせたのが、映画『ナポレオン・ダイナマイト(2004)』のように私は思う。アイダホのさえない高校生の日常生活を描いた『ナポレオン・ダイナマイト』は低予算で製作され、ミニシアターで公開されたが、その独特でオフビートな面白さは瞬く間に口コミで広まり、全米を巻き込んだ社会現象にまでなった。(この映画について掘り下げると長くなってしまうので、ここではこの程度に留める)

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この『ナポレオン・ダイナマイト』を皮切りに、アメリカのコメディ映画界は、社会性は少し乏しいがゲームやアニメ、映画に詳しい文化系男子を主人公にした作品がブームになった。いまやアメリカで『オタク』は市民権を得たといっても過言ではない。全米視聴率№1だった大人になりきれないオタクたちが主人公の大人気シットコム『ビッグバン・セオリー』も、2007年に放送が開始され、今年(2019年)まで12年続いたロングヒット作品となっている。

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そして、この『ゾンビランド』も、このブームの最中にあった2009年に公開されている。ゾンビ映画が日々いやというほど作られている現代社会では、どの制作陣も『今までのゾンビ映画でやってないこと』を探し求めている。つまり何が言いたいのかというと、この『ゾンビランド』という映画は、『もしオタクが、ゾンビ映画の主人公だったら』という構図で作られた映画なのである。今でこそオタクっぽい男の子が主人公の話はいくらでもあるが、もしかしたらここまではっきりとした文化系オタク男子がアメリカのゾンビ映画の主人公になるのは、初めてであったかもしれない。

そしてこの『ゾンビランド』シリーズの特徴は…

『映画の始まりの時点で、もう世界はゾンビに侵されている=ゾンビランドになっている』という点である。ウイルスが発生して人間に感染して広まっていく過程のドキドキやゾンビものにありがちなニュースを見て驚愕するシーンなどは一切描かれない。つまり、冒頭から、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビなのである。それでいて、基本的にはロードムービーである。

そして1作目である『ゾンビランド』の特徴としては…

・生存者がかなり少ない。アメリカ全土に何人か生存者はいるらしいのだが、登場人物は基本4人。あと、あの人…。

・戦闘シーンの舞台は遊園地である。これはおそらくゾンビ映画初であろう。ゾンビ映画では設定でも何でも最初にやった者勝ちということころがある。『遊園地×ゾンビ』と聞くと色々な使いようがある気がしてくるが、この映画でもその設定は存分に生かしていて、数々のアトラクションを使ってゾンビを殺戮していくシーンも実に楽しく鑑賞することができる。

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ところで今私は『楽しい』と書いた。

そう、ゾンビ映画は、少し見方を変えれば、コメディそのものなのである。

ホラーとユーモアは極限にいくと紙一重、表裏一体。

真面目なゾンビ映画でも、怯えながら鑑賞していても、不意にフフっと笑ってしまう瞬間があるものである。だって、そもそも、ゾンビって、何?って話じゃないか。(韓国のゾンビ映画『新感染』はそれをうまく使って悲惨な状況の中でも絶妙なユーモアを随所にちりばめていている)

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人間が勝手に作った『ゾンビ』という架空のものの概念やルール(ゾンビは人を食べる、知能がほとんどない、噛まれたら感染する。頭を破壊しないと死なない、等…)を、後世に渡って代々概ね守りながら人々がゾンビ映画を作り続けている事実って、本当に興味深い。ゾンビの起源について掘り下げるとまた長くなってしまうのでここでは省くが…

そしてこの映画は、そのユーモアを突きつめた…『ゾンビ・コメディ映画』なのである。

私は、ゾンビ映画も好きなのだが、主にこの『ゾンビ・コメディ映画』が好きだ。

ゾンビもののコメディは結構作られていて、その一番の大御所が『ショーン・オブ・ザ・デッド(2004)』であろう。(この映画についても話し出したら止まらないので、ここではタイトルのみとする)

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ゾンビとコメディって本当に相性がよいと思う。私はとりわけこのジャンルが好きなので、私のゾンビ映画の知識も、こちらに偏ってしまう。

そしてこの1作目である『ゾンビランド』も、『ゾンビ・コメディ映画』としてはかなり有名な位置に君臨していたと思う。

そしてやっと本題に入るのだが…

今回鑑賞した現在公開中の続編、『ゾンビランド:ダブルタップ』は…そんな『ゾンビランド』の10年後の世界を描いているのだが…

とにかく私が言いたいことは…

最高なのだ!

ゾンビ映画として、前作を優に超えている…!

エンターテイメント性が、もう、100倍!

もう、最初のコロンビアフィルムの、オープニング・ロゴから最高!

いやあ、もう前作から10年経って、監督・キャストたちも歳をとっている訳だが…その10年でみんなそれなりの成功を収めており、ヒロイン役のエマ・ストーンなんてなんかもう大女優感すら漂っている。

ゾンビ映画は、さきほど述べたように、いかにまだ使われてない設定や要素を入れるかが勝負になっている。ここで主な3つの要素を挙げてこの『ゾンビランド:ダブルタップ』を説明したい。

①避難して立て籠もる場所、戦闘シーンの舞台となる場所などロケーション

ゾンビ映画では非常に重要な要素である。
有名なところだと、『ゾンビ(Dawn of the dead)(1978)』のショッピングセンター、私の大好きな『ショーン・オブ・ザ・デッド』だと、イギリス映画なのでパブ(このようなゾンビ映画を構成する要素には、その映画の個性を出すため、いわゆる『ご当地もの』が使われることが多い)、また同じくイギリスのゾンビ・コメディ映画『ロンドン・ゾンビ紀行(2012)』では、老人ホームなど…。(この『ロンドン・ゾンビ紀行』ではおそらくゾンビ映画界で初めて『ゾンビVS老人たち』という構図を作っていて、映画としてもかなりおもしろいのでおすすめ…)

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そしてこの『ゾンビランド:ダブルタップ』でも、初っ端から、おそらくアメリカ人はかなりテンションが上がるであろうあの場所が立て籠もる住居として使われている。きっともっとアメリカならではの知識があれば楽しめるんだろうなあと思った…。いやあ、考えたなあ…


②戦闘シーンで武器として使うもの

これもその映画の個性が出て面白い、注目すべきポイントであると思う。

韓国のゾンビ映画『新感染』では、序盤で舞台となる新幹線に野球部の部員たちが乗り込んできて、ゾンビ映画オタクたちに『ははーん、バットが使われるのかな…』などと予想させるうまい作りになっていた。

ちなみにイギリスのゾンビ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』では国技であるクリケットのバットが主人公が使う武器として有名である。

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この『ゾンビランド:ダブルタップ』でも、これまたアメリカ人にはたまらないんだろうな、というものが重要な武器として使われている。こちらも間違いなく世界初の設定であろう…


③移動や逃走・戦闘に使う乗り物

これもゾンビ映画の見所のひとつ。

『ロンドン・ゾンビ紀行』では、ロンドン名物の2階建てバスが使われている。まあ、そんなジャブは置いてといて…私が言いたかったのはここである!

この『ゾンビランド』という映画は、先ほど述べたようにロードムービー的な作りになっていて、『ゾンビランド:ダブルタップ』でも途中で車をどんどん乗り換えていくのだが…いやあ、終盤に出てくるあの乗り物には、度肝を抜かれました。あれもおそらくゾンビ映画初でしょう。そのシーンがもう、本当に、最高で………!

要素的には、ざっとこんな感じ…

そしてこの映画に出てくる登場人物たちも、本当に大好きなのです…

前作に比べて、ゾンビ以外の登場人物が増えたことによってだいぶスケールが大きくなったように感じられた。ゾンビはどれだけ出てきても、なんか人間じゃないから…れっきとしたキャストではあるけれど…生存者の数がスケールが上がって見える一つの要素なのかも知れない、と思った…


タラハシー―ウディ・ハレルソン
いやあ、ワイルドでかっこよくてなんかお茶目でかわいげもあるおじさん…。大好きです。でもなんであれだけ1で推してたトゥインキー(タラハシーが大好きなお菓子)について、全く触れていなかったのか…気になる。まあ、10年経ってるから賞味期限は切れているだろうね…

コロンバス―ジェシー・アイゼンバーグ
いやあ、私の中では、ちょっとオタクでひ弱な主人公を演じさせたら、彼とマイケル・セラ(『スーパーバッド童貞ウォーズ(2007)』『スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団(2010)』など)の右に出る者はいない。ちょっと強い感じのヒロインに振り回される役が本当に似合っている。個人的にそういう構図の映画に弱い…。そんな彼も、1作目である『ゾンビランド』への出演でブレークし、その後も映画『ソーシャル・ネットワーク(2010)』でfacebookの創始者マーク・ザッカーバーグを演じ、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど成功を収めている…

マディソン―ゾーイ・ドゥイッチ
いやあ…新キャラなのですが…本当に最高。しゃべり方とか服とかもう…アメリカの典型的なギャル感が素晴らしい。役者にはあっぱれという言葉しかない。ああいう、軽くて言うこと薄っぺらいけどなんか憎めないパリピ、みたいなキャラに弱い。もう本当にそういう人にしか見えないけど、実はどんな役もできるすごいうまい役者なんだろうなーと思って見ていたら…なんとお母さんは、あの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズでマーティの母親を演じているリー・トンプソンだそうで、やはりなかなかの家柄…。

ウィチタ―エマ・ストーン
いやあ…これぞ私の大好きなヒロイン。彼女のこういう役が好きなんだよ…。一昔前のエマ・ストーンはもう声がハスキーでなんだか気だるくてちょっと不良のヒロインを演じさせたら右に出る者はいなかったと思う。あの低い声…ほんと大好き。オタクな主人公との相性の良さったら!!そして彼女もこの10年の間に数々の成功を収め、映画『ラ・ラ・ランド(2016)』ではアカデミー賞 主演女優賞に輝き、いまやもうすっかり大人の女性になり、役の幅も広がり、大女優感半端ない。

リトルロック―アビゲイル・ブレスリン
本作の重要な鍵となる彼女だが…。いやあ…映画『リトル・ミス・サンシャイン(2006)』で、あのぽっちゃりメガネの女の子を演じていた彼女がここまで大人になっているとは…。『リトル・ミス…』の時はとんでもない天才子役だと思ったが、そんな彼女も現在23歳だそうです…。昔の映画を見て感動してキャストの情報を調べると、子役の人がもう引退していることが割りとあるので、芝居を続けてくれている彼女に感謝…

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そしてそして…アメリカのコメディ映画にありがちなのだが…ご多分に漏れず…

エンドロールになっても、絶対に絶対に席を立たないでいただきたい。

もう、最高です。あんな華麗な戦闘シーン、『キングスマン(2014)』以来じゃないだろうか。少なくともゾンビ映画の戦闘シーンであの空気感出せる人は彼しかいない!

というわけで長くなったが、『ゾンビランド:ダブルタップ』は、最高のゾンビ・エンターテイメント映画だ。ゾンビ映画としては、前作を優に超えている。

ところで、この『ゾンビランド:ダブルタップ』には、『ターミネーター2』へのオマージュなどの小ネタが随所に出てくる。

『ターミネーター2』は、一作目の『ターミネーター』を大きく超えて大ヒットし、『続編の方がおもしろい映画』として有名である。実際に『ゾンビランド:ダブルタップ』の中でも、『ターミネーターは2の方が好き』といった内容のセリフが出てくる。

これは明らかに10年の時を超えてパワー・アップした制作陣がこの『ゾンビランド:ダブルタップ』に込めた想いであろう。『2作目こんなに面白いよ!』って。そして実際に、好みの分かれた前作に比べ、よりエンターテイメント性やスケールが大きくなって、映画として完成しているのである。
ゾンビ映画好きには見てもらって間違いのない、素晴らしい作品だと思う。是非、おすすめします!

けど……

私は、1作目の『ゾンビランド』もけっこう好きなんだ…

私はそもそも完璧なものよりB級感やスケールの小ささをこよなく愛する人間である。映画も人間も、完璧すぎたらちょっと怖いじゃん…

1作目はゾンビ映画として見るとちょっと物足りないのかもしれないけど、色んなものが怖くてひきこもりになっていた少年が、生身の人間との交流を通して強くなっていくドラマとしては、本当に好きな作品だ。ゾンビ映画だけど、ゾンビがメインじゃない。ヒューマン・ドラマだ。

人間は助け合わなきゃ生きていけないし、人と繋がることに喜びを感じるんだから。

1作目である『ゾンビランド』の最後に出てくるセリフが好きだ。

結局人は、人のぬくもりを探して生きているのかも知れない。

『仲間がいなくてひとりきりなら、ゾンビと同じだ』



須田マドカ



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