郷愁を誘う特別展「日本の風景を描く」と和菓子@山種美術館
NHKの日曜美術館アートシーンで紹介されていた山種美術館の特別展「日本の風景を描く」に天皇誕生日に行ってきました。
2月26日の会期末が迫っているせいか朝から結構な鑑賞者がいました。
展示は日本画が中心ですが広重の「近江八景之内」もあり、日本の風景ではないものの東京ステーションギャラリーで展覧会中の佐伯祐三や、荻須高徳の作品もありました。
まず、入口付近に展示されている酒井抱一の「宇津の山図」に足が止まります。伊勢物語の九段の「東下り」を題材にした作品です。
駿河なる宇津の山べのうつつにも 夢にも人にあはぬなりけり
伊勢物語は私の好きな古文で、その中でも九段の「東下り」はそらんじることはできませんが、何回も何回も読み返しています。この「東下り」をテーマにした絵画はいくつかありますが、この作品を見てまた伊勢物語を読み返しました。
最も印象的だったのは石田武の「四季奥入瀬」の4作品です。いずれも大作です。私はあまりポストカードを買うことはありませんが、この4作品についてはポストカードを買ってしまいました。
奥入瀬には行ったことがありませんが、どこか私の故郷の山の中の風景を感じます。
まずは、「春渓」。水量の多い雪解け水が渦を巻いて流れていきます。春の暖かさと水の冷たさが伝わってきます。
次は「瑠璃」。夏の奥入瀬。奥深い森の中には日光が届きにくく夏にも関わらず生き物を遠ざける静寂さの中に、水面近くを翡翠が飛びます。その姿に生命を感じます。
次は「秋韻」。晩秋の散り積もる落ち葉は小雪が舞う季節が近いことを感じさせます。
そして、「幻冬」。ぼかした遠くの風景は雪山がどこまでも続くようで、厳しい冬を思わせますが左側には山奥に続く道があり、冷たい雪山の中で人の生活や体温を感じさせます。
この他にも「名もなき風景」というテーマでは、大観、玉堂、田渕の日常的な風景を描いた作品も印象的でした。
心象風景画が何作品か展示されていました。作品を前にして自分の思い出の中にある風景が浮かんできます。
山種美術館の展覧会での楽しみは特別展に合わせた和菓子です。全部食べたかったのですが、ぐっと我慢して「さなえ」という和菓子とお茶のセットを注文しました。
作品を見た後の余韻を和菓子が増幅してくれます。今回はコーヒーでなくお茶にしました。やはり和菓子にはお茶が合います。松平不昧公の地の出身の私には和菓子は必須です。
今回は鉛筆を借りて鑑賞中にメモをとりました。とりとめもない印象ですが、そのメモを見ながら郷愁に耽りました。
山種美術館は大きな美術館ではありませんので展覧会の作品は決して多いとは言えませんが、所蔵品を中心とした特別展とそれに合わせた和菓子が楽しみな美術館です。
ほっこりした休日の朝でした。
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