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生理と妊娠

昔、「生理つらい」に対して「お前の生理、俺が10か月間止めてやろうか?」という気持ち悪い返答が存在した、気がする。
心の底から寒くなる秀逸なレスポンスだ。

たしかに生理は不快なものだ。
はやければ12歳頃から初潮が起き、そこから飽きもせず毎月毎月、平均して5日から1週間程度の期間で股から血が流れる。
私は比較的軽かった方だけど、それでもナプキンがしばらく変えられなかったりすると、経血が漏れて制服を汚してしまったりするし、横になって眠ると、朝起きて布団とパジャマが血溜まりになっていることだってあった。あの寝起きは最悪だ。
親兄弟に見られないように急いで丸めて風呂場のバケツに突っ込み、朝っぱらから手洗いをする。衣類に染みついた血は落ちづらい。
ただでさえ、通学までの限られた時間で格闘せねばならない。
理不尽!女として生まれたことを恨みたい気持ちになる。

生理は、生理が起きる1週間くらい前からメンタルも多少、不安定になる。PMSと呼ばれるホルモン作用のせいだ。
だから朝からそんなことが起こると、この世で一番の不合理を突き付けられているのではないかと思えてくるし、親と喧嘩することも増えるし、たった1週間くらい、私にだれもが道を譲り、電車の席を譲り、やさしく接してくれてもよくない?と本気で思い始めたりする。

しかし妊娠して生理が止まった29歳の夏。
マジでやかましいことこの上ない自覚がある表現を使わせていただくが、過去の彼氏との最長の交際歴が4年なので、こんな私と15年も付き合いを継続してきたのは生理ただひとつであり、それなりに愛しく思っていたところもあった、らしい。
らしい、というのは、「恋人がいなくなって初めて気づく寂しさがある」というこすられまくった名言があるが、生理も止まってみて初めて分かることがあったからだ。…一連においてやかましい言い回しだというのは自負している。

簡単に言うと「体のサイクルが崩れる」。
恥ずかしげもなく告白すると、生理がはじまってからの15年間、私は女性の機能に忠実かつ明朗に生きてきた。
排卵期の1週間はギラギラ!物欲、性欲に支配されかなり精力的に活動する。生理前の1週間はモヤモヤ!落ち込むことが増え、食欲が増して体が水分や脂肪や便を貯めこむ。私はこの時期に必ずと言っていいほど顔ににきびをこさえていた。
そして生理の1週間でそれらのすべてが排出されるのだ。イライラはしているが生理の1週間は、体がスッキリしていくのが目に見える。そして生理後の1週間は、最も異性に魅力的になるようキラキラしていくのだ。この時期はダイエットにも最適だ。最高。テンアゲ。
まさに月の満ち欠けのように毎月このサイクルが繰り返されていた。

しかし妊娠して生理がなくなる。
冒頭の「つらいなら、俺が10か月間止めてやろうか?」的なドギツイ下ネタを言ってのける男を、何かの気の迷いでパートナーに選んでいたとしたら、きっと私は間髪入れずに「お前の息の根止めてやろうか?」と返してしまっていたことだろう。
時を戻そう。丁寧に説明すると以下の通りです。
血が出なくてラッキー?んなわけあるか。そんな都合よくスッキリ期が継続するわけないだろ。生理前のPMSピーク時、モヤモヤ期が永遠に続いているようなもんだよ。残念だったな。

ここまで言われたら妊娠経験はなくても、生理経験のある女性なら恐れ戦くに違いない。
赤裸々になんでも応えてあげよう。

「ハイ!!質問です!!溜まりに溜まったウンコは生理をきっかけに排出してました!!」ってひと、多いと思うけど
「あんなにスッキリ出ることは、もう赤子を出すその時まで二度とないと思え!!」って感じだし、
「ついでに言うと、食べづわりになったら口に何か入れていないとひたすら気持ち悪い、みたいなことが起こる。食べたくもないのにひたすらなにかを食べなくてはいけない。下から出ないのにだ!!」と大声で叫びたい。
不可解すぎてこれはなぞなぞ?って感じの文章になったね。なぞなぞでもないし、答えもないよ。

「モヤモヤ期、いつも血流が悪くなりむくみと冷えと肩こりに悩まされています。」って方は「間違いなく悪化する!!」と断言できる。

さらに「貧血も加わり妊娠前の5倍疲れやすくなるよ!ほんとにほんとにびっくりした。15時くらいからマジで疲労が蓄積し、帰宅する19時には、体はもう起こせなくなるから!!」と泣きながら堅い握手を交わしたい。

確かに妊娠中は、他の異性に魅力的に映る必要がない。
だからキラキラもギラギラもしている必要がない。
全身全霊が、子孫を残すエネルギーに使われるわけだ。

もうぶっちゃけつわりのピーク時なんて、歯も磨きたくないし髪も洗いたくないし風呂も入りたくないし、風呂あがりの日課のストレッチもしたくないし、飯も食いたくない。下着の圧迫感で具合が悪くなるので、ノーブラ・ノーパンで過ごしたい。
しかし、胎児はまだまだ7か月も生まれてこないし、一日中、胎児の成長や体の変化と向き合っていると気が狂いそうなので、妊娠前と同程度には社会生活を守りたい。

私が困ったのは、仕事をしていると、接待で食いたくない飯を吐き気をこらえながら食わなきゃいけなかったりするし、バカバカたばこを吸う取引先も相手にしなきゃいけないことだ。さらにデスクでは吐き気をこらえるために、ひたすらカリカリ梅と塩アメを食べていた。男ばかりの職場で、安定期を迎えるまでは妊娠の報告もできないからつらいのにつらいと言えず、惨めすぎて泣けてきそうだった。出勤と同時にカリカリ梅をデスクで食ってても同僚男性からは「食欲旺盛だね~」くらいに認識されてたことだろう。

ひとは学習する生き物である。学生時代の私は、たしかに「この1週間くらいだれもが私に道を譲り、電車の席を譲り、やさしく接してくれてもよくない!?」と思っていた。
しかし15年、つまり通算180回も生理期間を過ごしたところ学習したのだ。
だれもがやさしくなんて接してくれない!!絶対!!

そのうち誰にでもやさしくされることを諦めた私が、パートナーである堺雅人のやさしさを手に入れることができた。たったひとつになったからこそ、ありがたみがわかる。藁にも縋る、といったら夫に失礼だな。
さらに、この境地に達すると、得する点がもうひとつある。夫以外のほかの人にやさしさはそこまでに期待していない。期待してないから不意にやさしくされると嬉しさを倍増で噛みしめることができるのだ。

よく、結婚相手はお金か愛か。みたいな質問をする人がいる。

思うに、結婚だけなら贅沢な暮らしのために、みじんも愛してない相手との生活でも、我慢さえすればどうとでもなるかも知れない。
しかし、だらだらとオチもなく書き連ねてきたように、妊娠は思ってる以上に体と心に負担が大きい。私にとって家とは、そこにいる夫とは、唯一の弱音を吐ける場であり、同時にかっこいいところをいちばん見せたい相手でもある。だから頑張れている。

全世界の女性には、ぜひ愛するひととの子供を産んでほしいと思う。

老婆心ながらにお伝え申し上げるが、ちょっとでも発言に「キモ」と感じる相手は、辞めておいた方がいい。




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