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「ただいま」とまた訪れたくなる、あたたかさを持つ場所へ【石川県白山市白峰】

都会の喧騒に、日々何気なく触れてしまう人の感情に、私は疲れてしまっていたのかもしれないと、途方もなく真っ白な白峰の雪に囲まれて、ふと気づく。

「思いやりの心の中で暮らしていたい。」

私の心の中の奥深くにあったその気持ちに気付くことができたのは、きっと、白峰に暮らす人々のあたたかさと、雄大な自然に触れたから。

訪れるだけで癒される。
そんな、おばあちゃんの家にも似た、白峰のあたたかさの理由を、街歩きや、集落の方々から聞いたお話しから抜粋してお伝えしようと思います。

雪がしんと降り積もる2月。
私は、旅好きな友人たちと共に石川県白山市白峰を訪れました。

白峰は、東京から新幹線で2時間半、さらにそこから車で1時間半ほどでたどり着く、小さな集落。
村民は約700人。日本三名山のひとつ白山のふもと、石川県最南端の村です。

街には、古くからの景観が残り、重要伝統的建造物群保存地区にも指定されています。

初めての白峰の旅は、同じく旅好きの友人と一緒に

白峰は世界有数の豪雪地帯で、私たちが訪れたときには、3メートルほどの雪が積もっていました。
多い年では4〜5メートルもの雪が積もるとのこと。

この雪たちは、春がやってくると溶け、水になり、川に流れて白峰の恵みとなります。そんな、自然の循環に似ているあたたかさを持つ村人が、白峰には暮らしています。彼らの言葉は、私の心をだんだんと溶かしていくようでした。

彼らの言葉とは、たとえば……。

"三度の飯より山が好き"
明治時代から守られてきた古民家で「雪だるまカフェ」を営む小田咲枝さん

「早く5月になって、山にいきたい。
大好きな花に囲まれて、山菜をとってお店で出したいの。」
と語ってくれたのは、「雪だるまカフェ」を営む小田咲枝さん。

白峰の街並みを残したいと、住み手のいなくなった家屋を譲り受けて管理をしている旦那さんのすすめで始めた「雪だるまカフェ」。

と言っても、当時、森林組合で働いていた咲枝さんにとっては、予想外の展開だったそうです。
そんなきっかけでも、カフェを続けているのは、白峰の町や人が好きという思いが咲枝さんの中にあるからなのだろうなあと、お話をききながら私は感じていました……。

雪だるまカフェは、白峰に古くから伝わる「おろしうどん」「かたいりこ」「ぼたもち」の3種類のメニューで始めたそう。
現在は、鴨南蛮そばやカレーうどんなど創業時にはなかったメニューも。また、夜は居酒屋としての営業もしています。

名物「おろしうどん」
「しそジュース」咲枝さんが育てたしそで作られているそう。

咲枝さんとお話しをしていると、どんな話の切り口でも山のことにつながります。

「春になると山が見えてね。私、毎日でも山に行きたいの、本当は。山菜をとって歩きたい。
5月になると、こごみにぜんまい、わらび……
それから、たらの芽、コシアブラ、よもぎにフキノトウとか。たくさんとってきて、ここで天ぷらにして出したいの。」

咲枝さんのうきうきとした口調からも、山が大好きなことが伝わってきました。

店内にも咲枝さんがとってきたお花が。

咲枝さんに白峰の好きなところは?と伺うと、
「白峰の全部を自慢したい!」と、よどみなく言葉が続きます。

「人間性が穏やかで、人付き合いがいいでしょ。助けあいの精神を持っているのよね」。
「地域おこし協力隊で来ている人にも、村人みんなが『ご飯食べにきな〜』『お風呂入りにきな〜』と。あたたかいからね、みんな。」

その、村人の穏やかさと、助けあいの精神が、私たち旅人でもすぐに町に溶け込んでいける白峰のあたたかさの由縁なのだと感じました。

1800年から伝わる「牛首紬」の伝統をつむぎ続ける加藤さん

白峰に江戸時代より伝わる文化の一つが「牛首紬(うしくびつむぎ)」。

牛首紬の特徴は、くず繭として扱われていた「玉繭(2匹の蚕が作ったもの)」から糸をつむぎ出し、糸作りから製織までのすべての作業を手作業で一貫して生産しているところです。

江戸時代から昭和初期にかけて生産が盛んで、各家庭でも養蚕を行っていましたが、戦争や化学繊維の台頭によって、牛首紬の伝統は途絶えてしまったそう。

そんな牛首紬の伝統を守っている中のひとりが、「加藤手織牛首つむぎ」の加藤さん。

加藤さんは白峰に生まれ、大学卒業後、金沢で体育教師として勤めたのちに実家の家業であった牛首紬を継承しました。

幼い頃から牛首紬が生活の一部だった加藤さんは、
「紬、織り、出荷まで一貫して作っていく形をやめてしまうと、同じようなところが日本から無くなってしまう。私が守っていかなくては。」
との思いで、祖母の代で一度は途絶えてしまっていた加藤手織牛首つむぎの伝統を、残す決断をしたのだそう。

以前は、養蚕から出荷までのすべてを担っていたとのことですが、現在は人手不足などの問題から、養蚕はせずに輸入の繭玉を使っているとのこと。
職人さんも減ってしまい、後継者不足などの問題もあるのだとおっしゃっていました。

縦糸と横糸を合わせていく

白峰について伺うと「こんな、いいところないですよ!みんな、人がいいでしょう?」と加藤さんは顔を緩ませます。

「手伝ってほしいことがあると、みんな手弁当で損得なしに手伝ってくれる。いい距離感。」

「山から帰ってくると、やかんに日本酒をいれてストーブで温めて待っていてくれる。白峰では、こんな感じのお酒飲みながらのコミュニケーションをよくするよ。」と。
そんな、”飲みにケーション”の文化と程よい距離感が、私が白峰にきてから感じていた「あたたかさ」の由縁なのかもしれません。

旅人もあたたかく迎え入れてくれる白峰

白峰のお祭り『雪だるままつり』も体験!

白峰を歩いていると、すれ違う町のみなさんが気さくに話かけてくれます。
それが私には衝撃的でした。

なぜなら、田舎=よそ者には冷たいと思っていたから。

けれど、白峰はよそ者であるわたしたちを、あたたかく迎え入れてくれました。

白山のふもとに位置し、昔から宿場町のような役割を果たし、多くの観光客が訪れるまちだからかもしれません。

しかし私は、白峰の街の人には「思いやりの心」が古くから根付いているからなのではないかと思いました。

季節に合わせた自然の楽しみ方。春には山菜取り、冬には雪あそび。
自然からの恵みを大切に、無駄にせず、自然を思いやる気持ち。

古くからの建物・文化を守り、歴史を尊重し思いやる気持ち。

その思いやりの心が、よそ者である私たちに対しても、「せっかくきてくれたのだから。」と、温かくむかえ入れてくれる風土をつくっているのではないでしょうか。

とちの実。
そのままではえぐみが強く食べられないものも、手間暇をかけて美味しくいただく。

「また会いたい」と思わせてくれるあたたかさが白峰にはありました。
次に来た時には、「ただいま」と言わせてね。

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