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月と陽のあいだに

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「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
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#婚礼

月と陽のあいだに 197

月と陽のあいだに 197

流転の章華燭(5)

 ネイサンは、皇帝直属の軍隊であるユイルハイ部隊の軍人だった。
「カナルハイとタミアと私は、十六歳で官試に合格した。四年ほど地方の皇衙で働いた後、タミアは執務室に呼ばれ、カナルハイと私はユイルハイ部隊の所属となった。男子皇族は、必ず一度は軍務に就くのが決まりだからね」

 昔語りをするような口調だった。
「陛下の治世は、けっして平坦ではなかった。数年おきに冷害が襲い、懸命に対

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月と陽のあいだに 196

月と陽のあいだに 196

流転の章華燭(4)

 明るい午後の日差しの中を、礼装の近衛に先導された花嫁行列が進む。月神殿への道には、美しい行列を一目見ようと、多くの人々が集まった。

 月神殿の入り口で、ネイサンは花嫁の到着を待っていた。濃紺の軍服をまとった立ち姿は、遠目には堂々として見えるが、後ろに回した手はしきりに閉じたり開いたりを繰り返している。時折する咳払いも、緩みそうになる頬を誤魔化しているのだろう。やがて花嫁の

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月と陽のあいだに 195

月と陽のあいだに 195

流転の章華燭(3)

 ネイサンが部屋を出ると、白玲は侍女たちの手を借りて白金色の衣に袖を通した。
 白い絹地には、金糸で精緻な地模様が織り出されている。この布地だけでも、どれほどの手間とお金がかかったか想像できない。カシャン家の力があってこその衣装だった。
 わずか十七歳のナイナ姫にとって、この衣装はどんなに重かっただろう。
 細かな刺繍が施された下着の上に、白金色の上着を重ねる。肩にかかるずっ

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