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月と陽のあいだに

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「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
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#慟哭

月と陽のあいだに 215

月と陽のあいだに 215

流転の章慟哭(8)

 火葬台の周りを守る禁軍の兵士の目を避けて、明かりが届かない闇の中をぐるりと回る。天幕から見えないところまで来ると、白玲は炎に向かって全力で走った。
 あと少し、あと一足で愛しい人のところへ行ける。
 そう思った時、白玲の体は強い力で引き戻された。

「放しなさい、無礼者。私を放して。好きにさせて」
叫びながらもがく白玲を、力強い腕が抱え込む。顔を覆っていた薄絹が外れて、風に

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月と陽のあいだに 214

月と陽のあいだに 214

流転の章慟哭(7)

 葬儀の日、ネイサンの棺の中には、姫宮の小さな棺が入れられた。父君と一緒に、迷わず死者の国まで行けるように、と。
 月神殿の聖殿で行われた葬儀の最後、鎮魂の祈りが終わると、皇帝旗と禁軍旗の掛けられた棺は、親しい友人たちの手で葬送の馬車に乗せられた。

 月神殿から火葬の野へ向けて、葬列が長い橋を渡っていく。
 皇帝は月神殿の露台から葬列を見送った。夫に殉じることを願う白玲を、

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月と陽のあいだに 212

月と陽のあいだに 212

流転の章慟哭(6)

「赤ちゃんはどこにいるの?」
縋るようにしてたずねる白玲に、女官長は目を伏せた。
「殿下はオラフに襲われて破水してしまわれたのです。早産にしても、あまりに早すぎました」
白玲は息を詰めて、目を見開いた。
「医師はできる限りの手を尽くしましたが、赤さまをお助けすることができませんでした。赤さまは姫宮様でした。今は、お父様とご一緒に、月神殿で眠っておられます」

 グッと喉を鳴ら

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