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月と陽のあいだに

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「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
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#襲撃

月と陽のあいだに 212

月と陽のあいだに 212

流転の章慟哭(6)

「赤ちゃんはどこにいるの?」
縋るようにしてたずねる白玲に、女官長は目を伏せた。
「殿下はオラフに襲われて破水してしまわれたのです。早産にしても、あまりに早すぎました」
白玲は息を詰めて、目を見開いた。
「医師はできる限りの手を尽くしましたが、赤さまをお助けすることができませんでした。赤さまは姫宮様でした。今は、お父様とご一緒に、月神殿で眠っておられます」

 グッと喉を鳴ら

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月と陽のあいだに 211

月と陽のあいだに 211

流転の章慟哭(5)

「……血溜まりの中に倒れた姫様を見た時、どうしてこんなことをしたのか、自分でもわからなくなりました」

 その直後、傍に控えていた近衛士官がオラフの頬を拳で殴りつけた。オラフの口から折れた歯と血があふれた。
「医学院で爆発を起こした男は誰だ」
 オラフはパクパクと喘ぐように口を開けた。

「サージさん……、姫様のことを教えてくれて……逃げる金も都合してくれました。高貴な方の間

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月と陽のあいだに 210

月と陽のあいだに 210

流転の章慟哭(4)

 白玲を襲った後、オラフは両手を血に染めたまま、呆けたように立ち尽くしていた。駆けつけた近衛士官に取り押さえられ、引っ立てられるときも抵抗しなかった。
 一方、白玲の至近距離で爆発を起こした男は、護衛に追われながらも、人混みに紛れて逃げおおせた。

 ネイサンと白玲はすぐさま治療室に移された。
 短刀の傷が肺に達したネイサンは、大量の出血でもはや手の施しようもなかった。
 一

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月と陽のあいだに 209

月と陽のあいだに 209

流転の章慟哭(3)

 その頃、医学院では……。

「とても順調です。お子様が大きくなりすぎないように、無理のない範囲でお身体を動かされるとよろしいかと存じます」
 主治医の言葉に、白玲とハンナは顔を見合わせて笑った。
「お馬車の用意をさせますので、こちらでお待ちくださいませ」
 そう言って出て行ったハンナが戻ると、白玲は礼を言って席を立った。

 ハンナと護衛に付き添われた白玲が、中庭に面した回

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