2024年の抱負

2024年の目標は決めている。やりたいな、と思っているのは「もっと小説を読む」。自分とは違う立場にいて、違う環境にいて、違う考え方をしている人たちが「いる」という想像力を鍛えたいなと思っている。

というか2023年は、「もっと、他人に対する想像力を持ちたい」と思わされるような一年だった。

秋に映画『正欲』を観て、原作小説を読んだ。いろんな人の感想が読みたくなって、Xで検索したら好きなボカロPのポストが出てきた。

朝井リョウさんの最新作『正欲』、マイノリティの中にも声をあげることすら許されないマイノリティたちがいるという想像力の向こう側が描かれた作品で最高によかった

https://x.com/pinocchiop/status/1383707431809679364?s=46&t=bmj2LNz1ggKQXXqJIZ_Ljw(ピノキオピー(@pinocchiop)のポスト)

「想像力の向こう側」。ピノキオピーの曲にたびたび出てきて、いったいどんな意味なんだろうと思いを巡らせるたびに行き詰まって、「よくわからないけど素敵な概念だな」と思考停止してしまっていた言葉だ。『正欲』を観て、2023年に出会った数々の作品を思い返して、私に必要な視点ってこれなんじゃないだろうかと思った。私の隣に、周りに、私の想像の及ばないような環境や立場にいる、私の想像の及ばないような趣味嗜好の、他者がたしかに存在している。……ことを、私はあまり考えたことがなかった、と思う。

他人の気持ちをわかりたいとか、他人に優しくしたいとか、他人とうまくコミュニケーションを取りたいとか、そういった気持ちはあまりないのだけれど、
「そこに、私の想像の及ばないような考え方を持って生きている、他者がいる」と自覚して生きていくことは、私にとって必要なことだと思う。また、「認める」だとか「受け入れる」だとかしないまでも、「知っている」だけで、私の場合は他者に向ける視線をもう少しやさしく、というか、やわらげることができる気がする。この、他人に対するどうでもよさというか、「私は私、あなたはあなた、それ以上のことは知らない」みたいな冷たさってどこから来るのだろうとずっと疑問だったから、今後、「知った」ことによって、「私は私、あなたはあなた、そうであるらしいね」くらいの温度感で他者に接することができたらとてもいいなあ、と考えている。

いろんな立場のいろんな考え方の人がいることを知るための第一歩として、まず知識を……となるのもどうかと思うが、とりあえずは小説や映画などの作品にいっぱい触れて、自分の想像力のトレーニングをすることができたらいいな、と思っている。
小説、今年はいっぱい読みたいのでおすすめの本があったら教えてください。

2023年に観たり読んだりして、よかった作品を貼っておく。作品の内容に触れるため、苦手な人は薄目で飛ばしてほしい。

▼小説
・『火車』(宮部みゆき)

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

新潮社 『火車』紹介ページより

一人の女の行方を追うミステリ。
読みながら、金融や法律についてもっと知りたくなった。生きていく中で金銭的に困ってしまうこと、立場が弱くなってしまうことは誰にでもある。今の法律は、そういった人を守ってくれる。ただ私も含めて、そんなときには社会が「守ってくれる」ということを知らない人の方が多いのかもしれない。

・『琥珀の夏』(辻村 深月)

少女時代、その短い夏の間だけ過ごした〈ミライの学校〉。主人公の法子は30年後、その場所から少女の白骨死体が出てきたというニュースを偶然見たことで記憶が甦る。
まるで夢のような、忘れかけていた記憶と、母として、弁護士として生きている現在の自分。あの死体は誰なのか。

▼映画
・「怪物」

観る前は激しい、恐ろしい映画かと思っていたが、この世界のどこかに存在する、日常」の物語だと感じた。どこにでもある日常の、どこにでもいそうな人々。事実はたった一つだが、一人の人間の視野や思考には限界があって、人の数だけ事実は色を変える。怪物は誰だ?

・「リリイ・シュシュのすべて」

noteに感想を書いたこともある。

田舎に暮らす少年少女たちの、傷と癒しの物語だったと思う。どこに行ったって、何をしたって紛れない寂しさや孤独の中で叫ぶ彼らの魂は、リリイの透明な歌声と共鳴する。

・「正欲」

「多様性を認めよう」、などと主張する声の飛び交う昨今。「認めよう」っていうけれど、どうしていつも上から目線なのか?
認める認めないにかかわらず、私たちの想像のし得ないような趣味嗜好、考え方の人たちが「そこにいる」。

▼その他の本
・『切手デザイナーの仕事 〜日本郵便 切手・葉書室より〜』(間部 香代)

実際に日本郵便で切手デザインをしているデザイナーたちの、切手デザイナーになったきっかけや、仕事の様子などを知ることができる。
実用性はもちろん、パッと目に入ったときに楽しさやときめきを与えてくれるような切手のデザインに携わってきた人々の、アイデアの生まれる場所や作業の過程を見せてもらえるのはとても嬉しい。

・『本のエンドロール』(安藤 祐介)

こちらはフィクション。とある印刷会社の、熱意はあるが突っ走り気味な営業・浦本とともに、「良い本を世に送り出したい」と祈り、奔走するような感覚で読んだ。印刷機の整備、紙のセット、インキを混ぜての特色づくりなど、各工程に人の手が、思いや矜持がある。一つ一つの仕事を繋げた先に本が生まれ、また本づくりに関わる人々も、彼らの仕事を通じて家族や仲間と繋がっている。


「自分の知らない場所で生きている人がいる」ということを、もっと知りたい一年だ。今年もよろしくお願いします。

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