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『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

秀作『レディ・バード』のシアーシャ・ローナン、グレタ・ガーヴィグ監督のコンビで現代に甦る名作『若草物語』。

これは、女性がその人生において直面する様々な選択の物語。

このコンビの作品を観た人なら誰もが納得の鉄板企画だけに、その仕上がりはある程度保証されてると思っていたけれど、その予想をはるかに上回る完成度で驚いた。よく"少女文学"というカテゴライズのなかで語られる原作が、なぜ世紀を超えてあらゆる世代に支持され、感動を与え続けるのか。個性的でそれぞれに違う人生を歩む四姉妹だけでなく、母、大伯母、登場するすべての女性の価値観と意志と行動に、この社会で生きていく女性それぞれが自身を投影できるから、というのが基本的な理解だけれど、かつての映画作品は、その膨大かつ魅力的なエピソードを追うことで精一杯で、上辺だけの描写になっていたような気もする。

今作は、原作や過去の映像化で描かれてきた場面、セリフの持つ意味をひとつひとつ深く掘り下げ、再構成し(なので、時間軸は、NYにジョーが行った後と、家族すべてが揃っていた過去のエピソードが複雑に組み合わされる)、それを現代に生きる女性の問題として当てはめていく。原作者のL. M. オルコットは、当時の女性の置かれた境遇に対する問題意識を相当に持っていたとされているけれど、半自伝的なその著作を世に出すには、やはり19世紀当時の社会の価値観に妨害された部分もあったのではないかと思う(この映画でそこを感じさせるエピソードが挿入されていて感心した)。女性が、自分が自分であることを制限された時代に描かれたストーリーの奥に隠されたそのメッセージを、丹念に今の世の中に沿って組み直した作業は、おそらく原作者が甦って今作を観たら深く納得するだろうな、と思える出来だ。

そして、人が、自分の心に正直に向き合い、その結果起きる問題に直面したときどう行動すべきなのか、という問いは、女性だけでなく、性差を超えた根源的なメッセージとして観る者に投げかけられる。

ジョーはなぜローリーのプロポーズを断ったのか、一端筆を折ったジョーがどのような気持ちで"あの小説"を書くことになったのか、その部分についてのメタ的な描写も含めての解釈。またエイミーとローリーはなぜ心を通わせ、結婚に至ったのか。今作のかなりの部分を占めるジョーとエイミーのエピソードは、ローリーという男性を写し鏡に鮮やかに対比されていて、とても魅力的だ。

各登場人物の内面を表す、あでやかかつ細やかにデザインされた衣装(アカデミー賞受賞)、豊かな自然を彩り豊かに陰影深く映し出す撮影、感情の揺れ動きを巧みに補完するスコアとクラシックの名曲の数々、など、キャストの演技と優れたシナリオを支えるスタッフの力量とも相まって、今を生きる人々にとってのストーリーが誕生した。それは、観る人個々人が違った意味で自分の宝物にできる『若草物語』。そういう意味で、この邦題は、すごく理にかなった改題だったのだろうと思う。

2019年/135分/G/アメリカ 原題:Little Women 配給・ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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公式サイト https://www.storyofmylife.jp/

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