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出版記念対談!データと20年向き合ってきたプロが語るデータ利活用の重要性

2022年3月に出版された、エイトハンドレッド 渋谷智之さん執筆の『データ利活用の教科書 データと20年向き合ってきたマクロミルならではの成功法則』。早くも増刷が決定し、マーケターを中心とした多くの方から好評を得ています。

渋谷智之(しぶや・ともゆき)
大学院でマーケティング・流通論を専攻後、シンクタンクに入社。流通・サービス業を中心に、業界動向、企業の経営戦略の分析、白書執筆等に従事。インフォプラント(現:マクロミル)入社後は、日用消費財・耐久財・サービスなど幅広い業種にて、マーケティング課題の整理・リサーチ企画・設計・分析・レポーティングを一気通貫にて対応(MVP等多数受賞)。また、マーケティングプロセス毎のリサーチを整理した「リサーチハンドブック」を開発。JMA(公益社団法人日本マーケティング協会)のマーケター育成講座の「リサーチ講座」など、社内外での講師実績多数。現在は、データ利活用支援事業において、企業のデータ利活用の推進、人材育成支援等に従事。

そこで今回は、著者の渋谷さん、そして本書の企画に協力された同部署のマネジャー村岡洋輔さんとの対談を通し、著書にかける想いやデータ利活用の重要性について、マクロミル広報の岩原がお伺いします。

※本記事は社内報「ミルコミ」Vol.168(P36~41)に掲載した内容から掲載しています。マクロミルの社内報は社外公開していますので、ぜひ他コンテンツもご覧ください。


“データ利活用のポイントは課題の明確化とゴール設定”

ー まずは出版に至った経緯を教えてください。

村岡:最初は、私から渋谷さんにお声掛けしました。渋谷さんには長年リサーチャーとして活躍されている中で、教育の観点から、社内向けにデータ利活用に関する勉強会の講師を担当いただいていまして。その内容が非常に素晴らしく、この講座をお客様にも提供できないかと考え、渋谷さんが担当する三井住友カード様でも勉強会を開催したんです。その結果、お客様からは「データの利活用について一連の流れを体系的に把握でき、非常に価値が高い」とご評価いただくことができました。これは渋谷さんと接点のあるお客様だけに留めていてはもったいないと思い、「書籍にしませんか?」と渋谷さんに相談したんです。広く発信することで、マクロミル、ひいては渋谷さん個人のブランディングにもつながると思ったんですよね。Web記事での展開も考えましたが、これだけのコンテンツを何度も振り返って勉強してもらうには書籍が良いだろうと、翔泳社様に出版のご相談をしました。

渋谷:社内や三井住友カード様での勉強会開催を通して、自分の知見をアウトプットすることはすごく良い勉強になっていました。「この内容をいつか書籍にできたら」と、実は4~5年前から密かに思っていて、研修の度に内容を更新していたんです。そんな時にDX Buddy※というソリューション提供を主に行うデータコンサルティング事業の立ち上げに関わることになり、「出版するなら今だ」と思いましたね。この事業領域に興味を持っていただけるお客様は、今までマクロミルが接点を持ってきた方とは異なるはず。そうであれば新しいお客様へのアプローチ方法として書籍は最適だと思いましたし、マクロミルとしても「リサーチ会社」から「総合マーケティング支援企業」へのパーセプションチェンジを図るために良いタイミングだと考えていました。そういった意図もあり、「マクロミル=リサーチ会社」のイメージを変えるべく、本のタイトルには敢えて「リサーチ」という単語を入れなかったんです。

※企業のデータ利活用を推進する「DX浸透」に強みを持った、マクロミルのコンサルティングサービス。

ー 著書はどのような想いで執筆されたのでしょうか。

渋谷:私は15年以上リサーチ業界での経験がありますが、最近のDXやデータサイエンスで思うのは、これまで当たり前にやってきたことが当たり前でなくなってきているということ。社外で開催されているセミナーに参加すると、「データ分析をすれば、新しい発見が得られます」と簡単に言う方を見かけますが、一番大事な「課題」が視点から抜け落ちていることが多いんですよね。適切に課題設定しないで、データ分析やツールを使って、どこまで意味があるのかなと思っていました。

図1にある通り、データ利活用の出口って大きく二つに分かれるんです。一つはレポーティングによる意思決定支援、もう一つはAIや機械学習を活用したモデルの構築・実装です。これらに関わる人材として図2の方々が挙げられます。ピラミッド上部のデータサイエンティストが主にモデルの構築・実装を行い、その下部にいるデータアナリストや現場スタッフはビジネスの意思決定支援をする方々です。今は世の中的に上部が重視される風潮にありますが、企業内でデータ利活用を推進しようと思ったら、ポイントになるのは「現場スタッフがいかにビジネスの意思決定のためにデータを使えるか」なんですよね。データ利活用の浸透が上手くいかない企業は、この視点が抜け落ちていることがほとんどです。そこに気付いていただけるよう、この本はビジネスにおける知識や基礎スキル等の解説から始まります。データ分析の話が出てくるのはなんと最後の数章だけ。これにはきちんと意図があって、「データ分析は手段に過ぎない」という大原則があるからです。ビジネスにおけるより良い意思決定の実現をゴールと置けば、その前提からきちんと押さえる必要がある。そのためには少なくともビジネス書籍を複数冊買って学ぶ必要がありますが、そんな大変な思いをせずとも一冊で幅広く網羅できれば良いなと思い、執筆しました。自分が若手の頃に売っていたら即決で買う!と思える本に仕上げています。

村岡:渋谷さんと違う観点からお話すると、リサーチやデータ分析の業界では著名な方が多くいらっしゃいますが、マクロミルはそういったタレントが少ないなと思っていて。そんな時に渋谷さんと一緒に仕事をする機会に恵まれ、渋谷さんのタレント性を世に出すべきだな、と。いわば、渋谷さんのブランディングに携わることになったのは嬉しかったですね。

渋谷:ありがとうございます。この本は、データを扱う方はもちろん、データ分析はある程度できるけれど思うように結果が出ない方には特に読んで欲しいですね。データ分析は、課題とゴール設定さえ適切にできれば、その後どのようにデータを集めるかを議論できるので案外簡単だと思うんです。ただ、最近は目的を定めないままデータを集めるケースが多い。この本を読んで、そこが課題だと気付いてもらえたら嬉しいですね。

村岡:私も同じ想いです。もう少し平たく言うと、データを扱う仕事を数年経験し、ある程度分析や集計が自力でできるものの、データの活用方法に悩んでいる方や、自分が今後どういう分析スキルを身に付けていくべきか悩んでいる方にとって、この本はぴったりだと思いますよ。

“データはKKDを上手く掛け合わせることで大きな力を発揮する”

ー 改めてデータ利活用の重要性を教えてください。

村岡:企業がさまざまなデータを取得できる時代になり、新しく取得したデータをどのように業務で活用するかが非常に重要になっていますよね。本来は蓄積されたデータを分析し、その結果を何に活用するかを考えた上で、図1の左から右にプロセスを踏んでいくのが一般的だと思います。しかし、データ利活用の場面では、結果から意思決定をする必要があるため、設計時にまず右のゴールを意識しなければなりません。現状、これが多くの企業でできていないことが課題です。データの利活用が上手くできるようになると、今まで見えなかった指標が新しく見えてきたり、商品開発に活かしたりすることができます。また、データ分析から仮説が生まれれば、顧客やビジネス全体を動かすドライブ要因にもなり得ますよね。とは言え、データだけに頼り切るのではなく、KKD(勘、経験、度胸)もある程度は必要だと思っています。今までのノウハウと、データの両方を使いながら施策を立てていくと、より多くの場面で効果があると思いますよ。

渋谷:KKDと言うと少し古いイメージがあると思いますが、そんなことはなく実は立派な資産なんですよね。コロナ禍である程度DX化が進み、データが蓄積されてきた今だからこそ、アップデートされたKKDが大事だと考えています。データを利活用することで、KKDを裏付けていくことが重要なのかなと。そうして正しい方向を見ながら、データとKKDを上手く融合させた意思決定をしていくことが、企業にとって最も大事。それができない企業はやはり衰退していくんだろうなと思います。

ー 時代が変わっていく中で、マクロミルの強みや事業価値をどのように考えていますか?

渋谷:マクロミルは創業以来、多くのお客様と向き合い、会社としてさまざまなデータを収集してきました。行動データだけ、意識データだけを持っている企業は多数あると思うのですが、マクロミルは幅広いデータを持っている。せっかくこれだけ情報があるのだから、各データを組み合わせればものすごく大きな価値を生みますよね。我々は本当に恵まれた環境にいることを皆さんには再認識して欲しいです。

村岡:データと20年も向き合ってきたマクロミルだから、データを扱う際のスキルやノウハウは社内に蓄積されている。それを新規事業という形で新たな価値に転換しようとしているわけなので、改めて素晴らしいなと思います。最近はお客様から、「戦略コンサルタントの方に課題をまとめた資料を提示されたけれど、その課題をどう解決していけば良いか分からない」といったご相談をよくいただくんです。

渋谷:そうですね。戦略コンサルタントの方々はお客様の課題整理をしたり、導入支援をされたりしますが、日々の意思決定を支援することまでには関与されないため、お客様の本質的な課題解決に至らないことが多いんですよね。ただ、マクロミルは現場に入り込んで、お客様と一緒に課題解決ができる。そう考えると、競合になり得る企業はそこまで多くないと考えています。マクロミルからすると、「お客様に伴走する」という当然の対応をしているだけですが、事業の可能性は大きいと感じますね。

ー データ利活用を通して、実際にお客様の課題解決に繋がった事例はありますか?

村岡:いくつかありますが、まずは暗号資産取引事業を手掛けているお客様の事例を紹介します。このお客様は、自社内に暗号資産取引のデータが多く溜まっていたのですが、その分析がきちんとできておらず、顧客戦略を正確に描ききれていない状況にありました。市場自体が右肩上がりの成長を見せていたので、どちらかというとCRM※よりも、新規顧客獲得のためのマーケティングを重視されていたんですよね。そこでお客様のさらなるビジネス拡大のため、我々が顧客データの分析を行うことになりました。顧客課題に関する仮説を立て、リサーチで検証するところからサポートさせてもらい、最終的には顧客課題を整理し、既存顧客をさらに増やすための施策を考えながら、施策実現時の収益試算まで行いました。データ分析とリサーチを掛け合わせることで、今後の顧客戦略に関するコンサルティングを行った事例です。

※「Customer Relationship Management」の略で、顧客関係管理のこと

渋谷:別の事例もお話すると、ある化粧品メーカーのお客様からは、「プロモーションの効果検証をしたい」とご相談をいただいて。商品のクーポン券を配布するプロモーションをされていたのですが、正直クーポンを送らなくても商品を買ってくださる消費者の方って一定数いますよね。そこで、クーポンのより良い配布方法を明らかにしつつ、正確な効果検証を行うために、顧客のモデリングをご提案しました。例えば、「クーポンがなければ商品を買わないけれど、クーポンを送ったら買ってくださる方々を見つけましょう」とか。マクロミルには今までのノウハウがあるので、マーケティングの視点から効果検証のフレームを一気通貫で見ることができる。それは決して当たり前のことではなく、お客様にとって価値のあることなんですよね。
他にも、三井住友カード様では、「Custella※」というデータ分析支援サービスにご協力しています。私は2年程この事業に携わっていて、提案フェーズから、データ抽出やモデリングといった後工程、さらにそれをレポーティングするフローにおいて、常駐して一緒に整備・対応をしています。また、冒頭でお話した勉強会以外に、アナリスト向けのレポーティング研修も実施しました。こんな風にお客様と伴走しながら、事業を成長させるお手伝いができているのは非常に嬉しいですね。

※三井住友カード様が保有するキャッシュレスデータを、個人・加盟店が特定できないよう統計化し、顧客属性データ(新規、リピーター、インバウンド等)や、顧客行動ごとに集計した購買実績データ(平日、休日、時間帯、エリア等)を、さまざまな切り口で集計・見える化し、企業様のマーケティングを支援する分析サービス

村岡:そうですね。渋谷さんがお話された化粧品メーカー様では、ID-POSデータ※の活用をより発展できるよう、分析人材の育成もご支援しました。マクロミルは、きちんとデータを提供しながら、コンサルティングまで一気通貫で行えることが大きな優位性になっていると思います。繰り返しになりますが、これは我々がデータビジネスを20年以上続けてきて、ノウハウが豊富に蓄積されているから提供できる価値なんですよね。

※顧客のID(性・年代等のさまざまな顧客情報)が紐づいた購買データ

“社内外問わずデータ利活用に対する意識を向上させていきたい”

ー 担当したお客様の社内で、データ利活用に対する意識が変わってきたと感じますか?

村岡:それは感じます。最初は、お客様の感覚として「データ活用をどう考えていったら良いのか」「どのように高度化させてマーケティングに活かすべきか」と全般的に悩まれていて、そもそもの課題をどう考えるのかに対して、社内で誰も方向性を出せていない状況でした。でも、我々と一緒に施策を考えていく中で、「こういうステップを踏めば良いんだ」と理解が進んだ状態に変わってきていますね。

渋谷:私も変わってきていると感じますが、データ利活用に関するリテラシーはどの企業もまだまだ上げることができると思います。お客様と伴走させていただく間は我々がサポートできますが、お客様が単独でデータ利活用を進める、となった時には十分な知識がないと手が止まってしまいますよね。そのためには、マクロミルからも知識やノウハウをもっと展開していかなければなりません。

ー 「マクロミル=リサーチ会社」のパーセプションは変わってきていると感じますか?

渋谷:先ほど事例で挙げたお客様で言うと、最初は普通に「リサーチ会社」だと思われていたはずです。ただ2年ほどご支援した今、マクロミルに対する見方は確実に変わったと感じます。当初、お客様の社内には、マクロミル以外にデータサイエンス系の企業がいらっしゃったんです。マクロミルはお客様の実作業をお手伝いするという関わり方に留まっていましたが、課題やゴールの提案をしたり、現場に寄り添った価値提供をしたりする中で、途中から恐らく先方の印象が変わったんだと思いますね。「マクロミルさんって実はリサーチだけではなくて、もっと色々できるんだね」と。最終的にお客様の社内に残ったのは我々だけで、今ではさまざまなご相談をマクロミルに集約いただけるようになりました。

村岡:先ほどお話した化粧品メーカー様は、受注のためにかなり丁寧なコミュニケーションを行いました。実際の分析結果を使って、我々がデータ利活用を支援できる根拠をお見せしないと、「マクロミルってリサーチ会社でしょ」というイメージを変えられなくて。でも受注後、案件を通じて見られ方がどんどん変わってきたんですよね。リサーチだけではなく、機械学習や統計解析などさまざまな知識もあるし、色んなデータを利活用できる企業だと認識いただけて。今後もパーセプションチェンジのための施策に尽力していこうと思います。

ー 最後にお二人の今後の展望を教えてください。

渋谷:データコンサルティング事業はとてもやりがいのある仕事だと思っています。今回、本を執筆したことで自分のレベルが一つ上がったと同時に、苦手な部分も分かったので、出版後は以前よりも勉強するようになりました。執筆できて本当に良かったと思いますし、今後も自分のアウトプットを社内外問わずに還元していきたいです。機会があれば、もう少し焦点を絞った書籍も執筆してみたいですね!

村岡:私は、このデータコンサルティング事業の成長をさらにドライブさせて、引き続き売上を大きく伸長させることがミッションです。7月からは、マクロミルのデータコンサルティング事業は株式会社SOUTHと統合し、新たに連結子会社となる株式会社エイトハンドレッドに承継されました※が、新しいメンバーも含めた皆が今まで培ってきたスキルや経験を活かし、さらに活躍できる環境を作っていきたいです!

※マクロミルは2022年7月1日に、データマネジメントプラットフォーム事業本部が営むデータコンサルティング事業を株式会社SOUTHに承継させる吸収分割契約を締結しました。本件会社分割にを通じてマクロミルはSOUTH社の株式の71%を取得することでSOUTH社を連結子会社化し、商号を「株式会社エイトハンドレッド」に変更しました。

■執筆協力
出版にあたり、村岡さん以外にも多くの方が関わりました。
・エイトハンドレッド 瀬川順弘さん、山口加菜さん
・データビジネスデザイン本部 安野将央さん
・経営戦略室 有吉夕希さん

※本記事は社内報「ミルコミ」Vol.168(P36~41)に掲載した内容から掲載しています。マクロミルの社内報は社外公開していますので、ぜひ他コンテンツもご覧ください。


この記事を書いたのは…

写真撮影・デザイン:マクロミル 経営戦略室 田代正和

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