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フェデラルファンドレートと今後の展開の考察 (2023.6.14)

序論

今回のFOMCではレート(5.00-5.25%)を維持し、引き締め政策の影響が顕在化するのを様子見しようとなった [2]。2023年の終わりまでにあと2回0.25%引き上げると予想されており、FOMCの参加者の多数意見としては中央値5.625%あたりまでいくと考えられている [3]。今後のレートの展開については、景気悪化によるデフレ圧力とコモディティー(特に原油)生産力低下による価格上昇のインフレ圧力がどう展開されていくかを注視していく必要がある。

考察

下図のように過去のFOMCではレートの上昇が一段落したら景気が後退し、その後下落していくのがみてとれる。灰色の部分は景気後退をさす。景気後退でなくても減速の程度によってはレートが下がる可能性がある。何らかの理由で株式市場などの金融市場が混乱した場合もレートが下がるきっかけになる。2020年度初頭ではロックダウンにともなう株式市場の混乱によりレートが引き下げられた。

図1.フェデラルファンドレート [1]

2023年の最後までにあと2回の0.25%の引き上げが予想されており、中央値5.625%までいくというのがFOMCの結論だった。今後レートがさらに上がる場合と逆に下がる場合があるとしたらどういう事が考えられるかをみてみる。

今後さらにレートが上昇する場合

ここでいう上昇というのは5.625%とかではなく、7,9,10%超えに向かっていくような上昇である。SVBなどの銀行破綻にあるように、実体経済がさらに悪化する懸念があってもなおレート上昇を容認することがあるとしたら制御できない程のインフレがあったときではないだろうか。そもそも実態経済の悪化はデフレ圧力が高まるということであるからインフレを論じるのは矛盾しているようにみえる。そのデフレ圧力を凌駕するだけのインフレ圧力が今後あるとしたらコモディティー、特に原油価格の高騰ではないかと思う。原油価格が高騰する理由として考えられるのは以下のようなものがある。

  • 産出国や重要な輸送ルートを巻き込んだ戦争、紛争などの地政学リスク。

  • 巨大な原油消費国であるアメリカの原油備蓄量が平均時と比較して低水準にあり、低下していく動向にあること。(下記図参照)*SPRとは原油の戦略的備蓄の事で本来は価格調整弁としての目的はない。

  • ESGなどの理由により大手石油メジャーはじめ石油業界は設備投資の拡大を実行しづらい状況にあり、原油価格が高騰しても増産に限度があること。

  • ロシア、イラン、ヴェネズエラといった産油国のように欧米の経済制裁を受けている国にある国営石油公社は、欧米の石油関連サービス会社のサービスを受けられず(もしくは受けにくい)、探索、掘削、保全、補修といった事業が行いづらいので今後生産力が低下していく可能性がある。

  • OPEC+が政治、経済的な理由で欧米にたいして減産やドル以外の決済方法を要求する可能性がある。もっともOPEC+ が合意された事項を実行するかどうかという疑問はある。

  • カナダのオイルサンドには増産できる余力があるが、鉄道での輸送に頼ることになるため限界がある。(キーストーンパイプライン事業廃止により)

  • シェールに関しては Permian のTier 1 という経済性の高いエリアはすでに手を付けてしまっており、増産可能なエリアとして Eagle Ford, Bakken, Marcellus の Tier 2, 3 といった比較的経済性の低いエリアしか残されていない。これは今後フラッキング技術の発展による生産性の向上が実現できれば変化する余地はある。([4]を参照)

今後レートが下がる場合

図1にあるように、レートが下がるときは短期間に急に引き下げられるのがパターンである。景気後退や市場のリスクを懸念して事前に引き下げられるというよりかは、リーマンショックのようなパニックといえるイベントが発生してから急緩和するパターンだ。SVB等の歴史的な銀行破綻があり、景気後退の兆候もあったのでレート引き下げに動くのではないかと筆者は思っていたがそうはならなかった。おそらく株式市場にパニック的な急落がなかったからだと推測しているが、そうだとしたらパニック的な売りがなければレート引き下げには舵をきらないということなのだろう。今回レートのさらなる引き上げではなく保持になったことを考えるとインフレリスクが一段落したとみているのであろうか。いずれにしてもレートの判断というのは事後的な対応策であるので、実際引き下げられるときにはすでに景気後退や株価が急落した後と考えられる。言い方を変えれば、引き下げが一段落したときがこれ以上悪化しないであろうと当局が判断しているともいえる。コロナ前の約10年間、アメリカの株式市場は好調だったがゼロ金利、量的緩和政策は維持されてきた。それでもインフレの指標であるCPIが高くならなかった。サプライチェーンがグローバル化した恩恵の賜物であった。それが変化期にある現在、景気後退局面でもどこまでインフレが抑えられるかは疑問である。インフレが想定したよりも低くならないところで金融市場がパニック状態になったらどう対処するのだろうか。これからも注視していきたいと思う。

結論

金融市場をパニック状態に陥れるようなブラック・スワンがない限りは、FOMCのドット・プロットにあるように年内に5.625%までフェデラルレートを引き上げていく線が濃厚である。何をもって「金融市場のパニック」というのかは議論のあるところだが、おそらく株式市場の下落率が10%、15%程度では引き下げに転じないのではないかと思う。失業率の悪化も引き下げの理由になるのだろうが、現時点ではアメリカの雇用状況は悪くない。ゼロ金利の時の債券やローンが現在の利率に借り換えられた時の影響はどういったものになるのだろうか。本当にこのままいくのかという印象はある。

引用索引

[1]     Board of Governors of the Federal Reserve System (US), Federal Funds Effective Rate [FEDFUNDS], retrieved from FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis; https://fred.stlouisfed.org/series/FEDFUNDS, June 15, 2023 

[2]     Cox, J. (2023, June 14). Fed holds off on rate hike, but says two more are coming later this year. CNBC. https://www.cnbc.com/2023/06/14/fed-rate-decision-june-2023.html

[3]     Federal Open Market Committee. (2023, June 14). June 14, 2023: FOMC Projections materials, accessible version. https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/fomcprojtabl20230614.htm

[4]     Burak, J. (2023, June 2). Adam Rozencwajg: Oil & Energy Has The Cheapest Valuations In The Entire Commodities Complex?. Youtube. https://www.youtube.com/watch?v=sOhZKR_HG0w


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