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ジョニーベア【1】1000文字

【1】春のひかり
ジョニーベアは北の大地のほら穴で生まれました。生まれてからこのかた、ママベアのやさしくてふっくらした体にからまって、おっぱいを飲んで、うたたねをしながら、ほら穴の中で過ごしていました。

ある日の事でした。
暖かなひかりが
ほら穴の入り口に差し込んできました。
ジョニーベアはママに聞きました。
「ママ、あれは何」
「春のひかりがやってきたのね」
「はる?、ひかり?」
「そう、春のひかりよ」
ジョニーベアはほら穴に入ってきた
春のひかりに手を差しのべました。
「ママ、春のひかりって掴めないけど、
ママのお腹の上みたいに暖かいよ」
「ようやく春のひかりが
坊やを誘いに来たんだわね」
「春のひかりが入ってきた、
ほら穴の外には何があるの、ママ」
「ほら穴にはない、全部があるの」
「全部?」
「この暖かいひかりに包まれた全部があるのよ」
「ママみたいに暖かいひかりがいるところって、
僕たちが行っても良いのかな」
「大丈夫よ。
ママわね、早く坊やとほら穴の外に出るために、
春のひかりが誘ってくれる日を待っていたの。
今日ようやく、坊やと一緒に外に出る日が来たのね」
ママベアはそう言うと、のっそりと立ち上がり
ほら穴の外に歩いていきました。
ジョニーベアもママの後ろについてほら穴の外に出ていきました。

ジョニー坊やが初めてほら穴の外に出てみると、
冷たいのにドキッとしました。
ひかりも眩しくて、目が痛く感じるほどでした。
ジョニー坊やは思わず、ママベアの腕の中に飛び込んで隠れてしまいました。
ジョニーベアはママの腕の中で、
ゆっくり目を開けて
おそるおそる辺りを見回していると、
ママは言いました。
「ジョニー坊や、
ここがね全部がある森っていうところなのよ」
ジョニーベアは森を見てびっくりしました。
冷たく澄んだ空気が美味しくて、空は青く、木々は緑で、大地には花が咲いて、色が溢れていました。森にはママが言っていた通り、ほら穴にはない全部がありました。
その時、さわやかな風が吹き抜けました。
風は木々の葉をゆすり、
花の香りを運んできました。
ジョニー坊やは風に包まれて、
体がブルブルッと震えました。
鼻から大きく吸うと、
風はジョニー坊やの体中をかけ巡りました。
そして頭のてっぺんから空高くに
風が抜けていく感じがしました。
足の先から大地に
風が広がっていく感じがしました。
ジョニー坊やは腕を大きく広げて言いました。
「ママ見て!僕も光だ」

ーつづくー

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