見出し画像

///イベントレポート///日本の地域を「サーキュラービレッジ」化する。リサイクル率No.1の町がこれからはじめること

※本レポートは、greenzとmorning after cutting my hairで共催する「Sustainability College」のオープン講座について、イベント参加者である麓加誉子さんに執筆していただきました。楽しみながらご視聴いただいた熱量を、ぜひ皆さまにも受け取っていただけると嬉しいです!

SDGs。この言葉を聞くと私はワクワクするのです。この複雑で利害がこんがらがる世界において、その中心にある国連が2015年全会一致で採択したというその事実だけで、大きな希望を感じて嬉しくなります。

Sustainable Development Goals「持続可能な開発目標」は、貧困、教育、環境、ジェンダーなど、幅広い社会課題に対する17のゴール、169のターゲットを設けた世界の目標です。先進国も途上国も、世界中の人々が生活の中で接する課題をわかりやすく言語化した、いわば「世界の理想」へ向けて進む目標でもあります。

でも、「目標」も「理想」も、実現するのは難しい。
SDGsによる目標の達成期限は2030年……。
実現なんて無理でしょう?という声が聞こえ始めているのも、確かによくわかるような気もします。

しかし、実はすでに理想に近い状態を成し遂げているひとや自治体、地域や国があるのです。そんな事例を学んでみたい。そう考えて参加したイベントが、サスティナビリティとビジネスを学ぶ「Sustainability College」のオープン講座です。

タイトルは、「日本の地域を「サーキュラーヴィレッジ」化する。リサイクル率No.1の町がこれから始めること」

本記事では、オンライン開催にもかかわらず、開始からぐんぐんと盛り上がっていったイベントの熱量をお伝えしたいです。チャットの感想や質問が追い切れないほど書き込まれ、SNSではハッシュタグ「#サスカレ」「#大崎町」が盛り上がりました。

画像1

1.「サーキュラーヴィレッジ」大崎町のリサイクル率がすごい!

鹿児島県の大きな2つの半島の右側、大隅半島の東側にある人口1.3万人の小さな町・大崎町。この大崎町は、83.4%という「日本一のリサイクル率」を達成している町です。

「リサイクル率」とは、自治体で処理するゴミの焼却や埋め立てをせず、再利用できた割合のこと。全国平均は20%程度で、大崎町の83.4%がいかにすごい数字かがわかります。

大崎町は20年前、焼却炉を持たない自治体として、ゴミの削減に取り組み、27品目への分別の徹底を続けてきました。その技術が認められ、「SDGs未来都市」への選定、JICAの海外技術協力なども行い、国内各地、世界からも視察者が途切れません。

そんな中、大崎町は町として資源循環を目指す目標を「サーキュラーヴィレッジ」として策定しました。行政と住民にとどまらず、地域内外の企業と協働して、資源循環と活用、フードロスの削減、電力の自給自足などの世界の未来をつくる取り組みを始めています。

2.大崎町の仕掛人たち

司会のgreenz植原正太郎(うえはら しょうたろう)さんとmorning after cutting my hairの田中美咲(たなか みさき)さんから切り替わった画面では、大崎町の仕掛人の皆さんがニコニコしていました。

司会からバトンタッチされ、ここからは大崎町で活動されている仕掛人のみなさまから直接お話をうかがっていきます。

齋藤 智彦(さいとう ともひこ)さん
合作株式会社 代表取締役 鹿児島念大崎町 政策補佐監
1984年東京都生まれ 日本の高校中退後、中国北京の中央美術学院に留学。北京、ニューヨーク、ベルリンでアート活動ののち帰国。
帰国後、慶應義塾大学SFC研究所にて地域政策についての研究・実践を経て、クリエイティブを活用した年・地域へのアプローチをテーマに、日本各地でプロジェクトを展開。2019年1月、鹿児島県大崎町の政策補佐監に就任し、地域内外の官民連携によるSDGs等の制作推進を担当。SDGsモデル事業や大崎町SDGs推進協議会の立ち上げを担う。2020年7月大崎町での活動が本格化のタイミングに合わせて、大崎町に合作株式会社を設立。

画像2

西塔 大海(さいとう もとみ)さん
合作株式会社 取締役
慶応義塾大学SFC研究所上席所員
1984年山形県生まれ。高校から不登校になり、引きこもりとバックパッカーを経て、東京理科大学、カリフォルニア大学、東京大学で物理学を学ぶ(科学修士)。東日本大震災後に震災復興会社の立ち上げに参画し、ローカルに関わり始め、2013年には地域おこし協力隊として福岡県上毛町に移住。世帯数14軒の山奥の集落に妻と娘と暮らす。地域おこし協力隊制度設計の専門家として、北海道から鹿児島までの全国の地域プロジェクト設計・支援を行う傍ら、2020年に齋藤智彦と共に合作株式会社を設立。

画像3

中野 伸一(なかの しんいち)さん
大崎町役場 企画調整課 課長
大崎町生まれ。昭和63年に大崎町役場に入庁。税務課、耕地課、企画財政課、住民環境課、総務課などを経て、令和元年度に企画調整課に配属。住民環境課では環境対策の担当として資源リサイクルを推進、その後のSDGs未来都市選定時にも担当として深く携わる。現在53歳。

画像4

中村 健児(なかむら けんじ)さん
大崎町役場 企画調整課 課長補佐
大崎町生まれ。平成8年に北九州大学を卒業後、鹿児島市の民間企業に勤務。その後、平成10年に大崎町役場に入庁。教育委員会、企画財政課、総務課を経て、平成26年度に企画調整課に配属され、現在に至る。SDGsに関する業務のほか、地方創生、移住・定住、空き家対策、国際交流、多文化共生などの業務に携わる。現在、47歳。

画像5

3.大崎町の取り組みと「リサイクルネイティブ」と呼ばれる子どもたち

大崎町から出席されている齋藤さんと中野さんが、大崎町の取り組みを四つのポイントに絞って、オンラインツアー形式で紹介してくれました。

1) 27品目への分別を徹底!自治会の役割
最初に映されたのは、月に一度の資源ゴミ回収の様子。大崎町内で約100軒ごとのまとまりで150ある自治体ごとに集まって行われます。

画像6

分別は27品目ですが、回収前の家庭内で分けるのは6品目程度。まとめてこの回収場所に持ち込むと、「リサイクルマスター」の方々が手伝ってくれて、あっという間に作業が進んでいきます。

ゴミは分別さえすれば「買ってもらえる」ものになり、再利用できるのです。それを知っている大崎町の「リサイクルマスター」の方々、そして町民の方々は真剣です。

中野さん:この時間は単なる分別作業の時間だけでなくって、「今月は○○のおばあちゃん、来なかったね」とか「○○さんは最近見えないけど元気かな」とか、コミュニティ内の安否確認をする、コミュニケーションの場にもなっているんですよ。
齋藤さん:僕も移住した直後は、この時間で地域に入りこめた実感があります。鹿児島弁はよくわからなかったんですが(笑)

2) 生ゴミと草木のリサイクル率100%!有機工場の活躍と活用

齋藤さん:実は、「このゴミを再利用するだけでリサイクル率60%を超える!」というゴミがあります。みなさん、何だと思いますか?
中野さん:生ゴミはねえ…あ!言っちゃった!(笑)

場が和むハプニングもありながら、続いて映し出されたのは「大崎町有機工場」。週に3回、町中で回収される生ゴミから堆肥を作る工場です。

生ゴミはバケツで回収され。工場でおがくずや粉砕した草木ゴミとよく混ぜられます。屋内で水分調節をしながら寝かすと数日で、未熟堆肥の山からは湯気が上がってきます。さらに寝かせること5ヶ月で、完熟堆肥が完成し、商品として販売されます。

画像7

中野さん:大崎町全体で1年間に出るゴミは3000tくらいなんですが、その1/3が生ゴミ、もう1/3が草木のゴミです。それを全部リサイクルできることができれば、リサイクル率60%は簡単に達成できるんですよ。

家庭ではバケツなどに生ゴミを入れておき、週に3回の回収日に大きな回収バケツに入れ替えるとのこと。年間2000tの生ゴミと草木ゴミが、5ヶ月かけて堆肥になると200t。堆肥になることで、重量は1/10になるそうです。

3)リサイクルできない17%のゴミについて
ここで、参加者の方から「リサイクルできていない17%はどうしていますか?」と質問が出ました。

中野さん:月に1回の資源ゴミ分別の際には、ピンク色の袋にまとめられているプラゴミが多いです。あとは体液が着いた肌着や紙オムツですね。今、紙オムツのリサイクルにユニ・チャームさんと取り組んでいます。これが実現したらリサイクル率90%超えますね。

4)「リサイクルネイティブ」の子どもたちの力
大崎町がリサイクルに取り組み始めたのは20年前。当時生まれた子どもたち「リサイクルネイティブ」がやっと成人になろうとしています。

中野さん:町の小中学校で育って進学などで町を離れた子どもから親元に電話が入って、「ゴミ袋に「燃えるゴミ」って書いてあるんだけど、ゴミって燃やしていいものなの?」と相談されること、多いんですよね(笑)

「燃やさない」カルチャーの中で、徹底したリサイクルを普通のこととして育った子どもたちの新たな発想。大崎町で育ったリサイクルネイティブの子どもたちが、大崎町を、世界の廃棄物問題の解決を、さらに大きく進めていくのでしょう。

4.大崎町で創業!「合作株式会社」ってどんな企業?

西塔さん:大崎町に限らず、誰もが「便利な今の暮らし」を変えたくはないんです。
齋藤さん:僕たちは2年半、町の外部の方とのコラボレーションなどを仕掛け続けてきましたが、どれもうまく定着しなかったんです。想いを持ったひとが地域でことを成すためには、地域ごとの特性に歩み寄り、言葉を選び、互いに話を聞き合うことが必要です。そして「仕掛け続ける」こと。だからこそ、一緒に仕掛けられる人材がもっと必要なんです。
西塔さん:SDGsど真ん中の大崎町で学んでみたい、暮らしてみたい方、お待ちしています!

5.超循環型社会への挑戦も分別の定着も、丁寧な対話と言葉選びから。

中村さん:われわれ町民は分別が生活の一部だし、12年続いている「リサイクル率日本一」ももはや普通のことになってしまっていました。それが2018年ごろから、いろいろなひとが大崎町に入ってきてくれるようになり、褒めてくれるようになったんです。「大崎町ならいろいろできる!」という熱意や期待も聞きました。そうしたら、私なんかは単純だから嬉しくて本気になっちゃったんですよね(笑)

本気になった大崎町が打ち立てたのが、資源循環型モデル都市「サーキュラーヴィレッジ」の整備事業です。

画像8

いくつもの事業が並行して行われていますが、中でも大きいものが「地域内容器循環プロジェクト」。
これらの事業について、引き続き大崎町の皆さんに教えていただきます。

画像9


商品を「終わり方」から考える。目指せ!リサイクル不要社会

中村さん:われわれ町民は分別を当たり前のこととしてきましたけれど、言ってしまえばたいへんだし、結構限界に来ています。これからどうする?と考えた時に、分別のたびに山になるプラゴミのほとんどが「町で作った物じゃない」って気づいたんです。

「ゴミになるものそのものを減らそう」あるいは「なくせないか?」と考えた時、「脱プラスチック」への挑戦が始まりました。具体的な計画は以下のようなものです。

~2024年 町内全ての消費財で使い捨てに代わる、もっと便利な手段を提供する
~2027年 上記手段の普及率80%
~2030年 使い捨て容器完全撤廃、脱プラスチック達成

中村さん:私が入庁した20年前は大崎町の役場でも湯呑みでお茶が出されていました。それがやがてペットボトルになり、今は皆さんマイボトルを持って勤務します。マイボトルとかリユース商品が「カッコイイ」とか「可愛い」という感覚がもっと広がるといいですね。
西塔さん:さらにそこに「リサイクルしなくていい商品」ができたら、ワクワクしますよね!

画像10


「異なる言葉」を翻訳して、想いをつなげるのが私たち行政の役目

斎藤さん:最近とても嬉しいことがあって…資源ゴミの分別をしながら、自治会の方が「最近分別が楽しくてね」って言ったんです。「これが世界をよくすることなんでしょう?」って。ジーンと来ました。
中野さん:それでも、リサイクルを始める20年前はすごい反発もあったんですよ。私たち担当者は150の自治会で合計450回の説明会をして、丁寧に説明を繰り返したんです。

今でこそ、全国各地、世界各地から視察が途切れない大崎町ですが、「リサイクルは世界を変える」と気づかせてくれたのは町の外のひとたちだった、と中野さんは言います。

中野さん:教えてくれるのは外のひとですが、変えていくのは中のひとなんです。でも、お互い使っている言葉が違うことがよくあります。だから、間に立つ私たち行政の仕事は、外部の方の言葉を翻訳して、町のひとにわかりやすく伝えることだと思っています。

画像11

6.イベントに参加して

和やかに朗らかに未来を語った4名に、チャットでは質問や感想が飛び交い、オンラインとは思えぬほど、「会場が揺れた」と感じました。大崎町のファン、合作株式会社のファンが一夜にして増えたのではないでしょうか。

SDGsなんて…理想を語ったって…と弱気になりがちな社会の空気を一掃したように感じたイベントでした。

さあ、私に何ができるだろうか?とワクワクしています。そう、SDGsってそういう「身近なこと」「やろうと思えばすぐにできること」なんです。心ひとつで未来が変わる。一歩進めば何かを変えられる。

どうせ変えるなら、「より良い未来」へ向かって共に意志を持って変えていきましょう。


Sustainability Collegeでは、1/20まで二期生の受講申込を受付中です。
ご興味のある方は以下より詳細をご覧ください!
https://school.greenz.jp/class/sustainability-college/

また、合作株式会社ではプロジェクト・マネジャーとメディア担当者を募集しています。エントリーは1/31まで!

https://greenz.jp/2020/12/25/gassaku_kyujin/

Consulting for Social challenges with Love. based in TOKYO & SHIGA, JAPAN. ///// 世の中にある「課題」に挑む人たちの想いを伝え、感動と共感の力で、『人の心が動き続ける社会』をつくる。