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ニューヨークの住まい|排水口を見つめながらアースデイを迎える

キッチンのシンク、水が流れない。

数週間前から怪しい気配は感じていた。
水がシンクに溜まりながらゆっくりと流れていくようになり、ついに今日その流れがほぼ止まった。実際には数分かけて溜まった水は減っていくが流れているとはいえない。

何かが詰まっているのだろう。
シンクの真下にあるU字型のトラップなのか。

急いで近くの生活必需品を扱っているハードウェアショップへ向かう。キッチン用パイプクリーナーを購入して、さくっとクリーニングしてしまおう。

まずはシンクに溜まった水が排水口から流れ全く見えなくなったことを確認。クリーナーは1回分の使用量であるボトル半分を排水口へ注ぐ。使用方法には15分放置してから湯を流すとあるが、万全を期するため1時間ほど待って水道の湯を最大の熱さにして流してみる。湯は排水口へ吸い込まれていったが、しばらくすると排水パイプの許容範囲を超えたのか逆流してきた。

ダメだこりゃ。

U字型トラップを外して掃除するしかないな。

もちろん対応できる業者さんへ電話1本するということもできる。しかし東京ではない。ここはニューヨークだ。すぐに対応してくれるかは全く分からない。プロに対応してもらったところで、実は素人でも簡単にできることしかやらずに解決するなんていうこともざらにある。

できることはやってみるか。

そうと決まったら先人の知恵をいただこう。ニューヨーク歴20年超えの物知りな友人に問い合わせる。おそらくどこも同じタイプの排水管なのでコツさえつかめば簡単にできるはずだという手解きを受けた。バケツ、新聞紙、ゴム手袋、そして詰まったゴミを掻き出すワイヤーなど、必要なものはラッキーなことに全て揃っていたので直ちに人生初の排水管掃除に取り掛かれた。

U字型トラップは楽勝で外れた。内側についた汚れも簡単に洗い流すことができた。少々肩透かしの状況に別の理由があるのではないかと疑問がわき、U字型トラップの奥につながる排水管に目が留まる。

恐る恐る排水管にゴミを掻き出すワイヤーを突っ込んでみた。すると同時にこの問題の根源が分かった。なぜならワイヤーを通じて手に伝わってきたのは泥沼にはまり込んだような感覚だったからだ。

しばらく沼との格闘となるので詳細は省くが、要は油と野菜カスと水垢が混ざりあって泥化したらしきものがたっぷりと詰まっていたのだ。本来なら高水圧のホースなどでいっきに奥へ流してしまえばスッキリするのであろうがそのような便利な道具はない。ゴム手袋をした手とワイヤーで可能な限り取り除いた。

さて、効果のほどはと問われると、実際のところ以前よりひどくなった感じがする。どうやら泥のようなゴミを奥に押し込んでしまったようだ。その沼はかなり深いのだろうと推測できる。

明日は業者さんにお願いしようとあきらめつつ、最後の手段としてパイプクリーナーの残り半分を就寝前に再投入しようと決め込んでいた。寝ている間にどうか働いてください!とラスト一滴まで排水口へ流し入れ、パンパンと祈るように柏手を打った。

翌朝、頼みの熱湯を注ぐために水道の蛇口を捻る。勢いよく排水口に熱湯が跳ね上がり吸い込まれていく。一瞬、水面が上がってきたように見えた。直後、ごぼごぼっという音を立て、すーっとその水が消えていく。5分間、勢いよく流し続けた。水は二度と戻ってこなかった。

4月22日。アースデイ。
地球に優しく共に生きること。

ニューヨークで排水口を見つめながら生活について見直そうと考える。
東京での便利な暮らしでは見逃していたことだ。


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