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「銀色の涙」

大手町駅地下道 背の高い女が歩いてくる
上下紺色ひざ丈スカートのツーピース
ちょっと古めのOL 今のオフィス街に いそうもない制服姿
背が高いので目についた
違和感を持つほど背が高い
ざっくり180センチはある
バレーボールの選手じゃあるまいに
すれ違いざま 
顔をみた
明らかに男
女装した男
こいつは 彼女は この男は
かなみ に違いない
もうずっと会っていない
新宿3丁目の焼肉長春館で かなみと あの男 彼女と 焼肉を食べたのは25年も前だろうか
「私が着る服はおばさん向けの3Lとか 通販で買うの カツラも…」
とスカートの中を
暑い 暑い

言いながらあおいでいた
かなみ
上野不忍池そばのピンク映画館 上野オークラ劇場の中
何人かのオーディエンスに囲まれながら
御奉仕するのが
スリリングで ぶっとぶ…

かなみ は言っていた
そうだ 彼女と あの男と
女装をしない あの男と ハッテン場に行った
上野にある 男の不夜城 24会館
男同士のアレコレを目の当たりにして
ビックリ いや ゲラゲラ いい勉強になった
真っ暗闇の大部屋 いくつも布団が延べられて タチとネコの男同士が
入れたり 出したり 出したり 入れたり
なめたり 咥えたり 吸ったり 流したり
行為の後
そそくさと去るタチ男に ネコ役男がすがりつく
かなみがいたから 僕は見るだけ 怖い思いはしなかった
2丁目の女装バーでも かなみはカウンターの中で水割り作ってた
あのころは あの男も 彼女も
そして 僕も
まだ元気だった 現役だった かも

あれからずいぶんたって
かなみが死んだと聞いた
連絡をくれたのは 会ったこともない
かなみの 弟の嫁さん
学会員の生保レディー
彼女が葬式を出したって聞いた
おしきみ飾った葬式に 行くこともできず 悪かった
死ぬ前
 見舞いに来て…
電話くれたのを冗談だと思ってた
僕が悪かった
かなみは きっと 
上野オークラの闇の中で
咥えながら 銀色の涙を流していた

僕は思い続けていた
きれいに光る 銀色の涙

大手町ですれ違った彼女 女装男
かなみほど がっちりはしてなかった
かなみ だなんて…
僕が思い込みたかっただけ
僕はもういちど
かなみが 彼女が あの男が
きれいな銀色の一筋の涙を流すのを
想像したかっただけなんだ

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