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【職業詩】「ご利用者さま」

その後…おしごといかがですか

「まだ2週間ですからねぇ…
 慣れたといえばなれましたが
 丸まる1年働いていなかったでしょ ぼく
 今は立ち仕事がほとんどだから
 正直 疲れます 結構」

63歳というオトシですからねぇ

「世間的にみれば このトシで
 未経験の仕事
 しかも 結構 体と気を使う仕事
 そんなのに就くのは アレかもね」

アレって どいういう意味ですか

「あんまり みんなやらない 不人気の仕事
 若くて体力あっても やりたがらない」

どんな おしごとなんですか

「お年寄りの お・せ・わ
 介護の仕事ですよ」

えー あなたが ですか
老人をよっこらしょって動かし
オムツを換えたりするんですよね

「いや 今働くのはいわゆる老人ホームでなくデイサービス
 ご存じ?」

いや あんまり知りません

「だいたいが80代以上 中には70代が少し
 90歳を超えて100歳っていう人もいますけどね
 オムツ換えはないではないけど あんまりない
 しかも それとか 入浴介助はまだやらされてないのよ」

ハイ……

「まあ 自宅で息子や娘が面倒見切れず
 親をホームに入れないけど 家にいてほしくないって
 そういうニーズに応えるところです」

ふーん あんまり老人のことわからないんですが

「元気に見えて かなり認知症―アルツハイマーとか入っている70代の人 
 もいるよね
 体の自由がきかず 車いすに乗ったままの人が2ー3割いるかな」

認知症って…いわゆるボケ老人ですよね

「今は絶対使わない言葉だね
 そう言いたくなるのはわかるけど
 そうした〝ご利用者さま〟を相手にするのも
 だいぶ慣れてはきたかな
 彼女たち―利用者の9割弱が女性―の多くが
 話していたこともケロリと忘れちゃうからね
 認知症が改善するっていうのはないんだよね」

ふむふむ

「ぼくのこと 話したことも どこまで憶えているだろうっていう……」

                              続く


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