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【思い出詩】「父と歩けば」

よい言葉が浮かびました
気持ちと その言葉がひとつになり
短い言葉なのですが
そこに 私の気持ちがあって
するする するする と
伸びてゆき 枝を広げて葉が繫るような
そんな魅力のある
言葉のしっぽをつかんだのです
ベッドの中で それをつかんだのです
目が覚めたとき
どんな言葉だったか――
さっぱり思い出せませんでした……


父と新宿駅東口を歩いていました
30年 いやもっと前でしょう
私は20代でした
駅前に 大きな映画の宣伝看板が並び
父は
「お前 あれ見たか わしは見たぞ」
などと言います

父と映画を見たことなんて
手を引かれるくらい小さなころだけで
大人になってからは記憶にないです

いくつか上映中の映画のタイトルを
父は口に出します
「あれ面白そうやな 見たいな……」

私には映画1本くらい見る時間はあったのですが
父と並んで見るような気にはなれず
何の反応も示しませんでした

父は一緒に見たかったのでしょう
なんでも どんな映画でもよかったのです
隣り合って座りたかったのでしょう
無反応な私に さびしそうでした

自分の時間をちょっとくらい
差し出してやればよかった……
親が元気なうちに

トシをとると
何十年も前の 悔いばかりが
浮かんでは消えてゆきます

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